2024年05月20日
閲覧人数

ゲスト 39人 と メンバー0人 がオンラインです

アナウンス
ブログ
法人サポート
お問い合わせ
117043
今日今日16
昨日昨日189
今週今週16
今月今月4772
あなたのIP:3.145.66.67
ログインフォーム

 
新着情報
閲覧トップ10

市民と科学者の放射線コミュニケーションネットワーク

評価委員紹介

 

評価委員のご紹介

科学技術振興機構(JST)、科学技術コミュニケーション推進事業、問題解決型科学技術コミュニケーション支援「ネットワーク形成型」に採択された、「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築」を評価していただく3名の外部評価委員の先生方をご紹介いたします。

 

   
志水隆一 評価委員   滝順一 評価委員   米倉義晴 評価委員

 

志水隆一評価委員

志水隆一(Ryuichi SHIMIZU)

日本学術振興会:産学協力会理事、総合研究連絡委会議・運営連絡委員会委員長、産学連携研究委員会委員長会議議長
大阪大学産学連携本部招聘教授
福島第一原発事故直後より日本学術振興会福島支援特別事業に従事

略 歴: 1964年 大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻修了(工学博士)
  1965年 大阪大学工学部助手
  1986年 大阪大学工学部教授(応用物性学講座)
  2000年 大阪大学定年退官(名誉教授)、大阪工業大学情報科学部 教授、リエゾンセンター長
  2011年 大阪大学産学連携本部特任・招聘教授
     
  この間、Tuebingen 大学客員研究員(1965)・フンボルト研究員(1966)・California大学(Berkeley)電気工学&コンピュータ科学科客員教授(1977)・フンボルト招聘教授(Max Planck Institute fuer Metall Forschung, Sttutgart、1995)
Surface&Interface Analysis Regional Editor(1998), ISO/TC201(Surface Chemical Analysis)国際議長(1998)
国際高等研究所シニアフェロー(2006))
 
一 言: 福島第一原発事故直後に、京都を舞台に坂東先生が展開された「放射線低線量被爆の人体への影響」についての市民講座は、市民(住民)と科学者が同じ目線でこの問題を直視しようという画期的なものでした。 私もその末席に連なり坂東先生の真摯な取り組みに深い感銘を受けた一人でもあります。 ? この度、JST科学技術コミュニケーション推進事業の一環として、「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーション基盤構築」(三年間)を推進されるに当たり、どのような新しい 展開を目指されるのか括目しております。近未来に想定される大災害への貴重な一石になることと期待してやみません。

滝順一評価委員

滝順一(Junichi TAKI)

日本経済新聞社 科学技術部編集局長付き編集委員

略 歴: 1979年 早稲田大学製時経済学部卒業
同年、日本経済新聞社入社 編集局産業部に配属
  1981年 日本経済新聞社新潟支局
  1984年 新潟支局科学技術部・同局国際部
  1989年 米州総局ワシントン支局
  1992年 編集局科学技術部
  1993年 大阪本社経済部編集委員 
  2002年 編集局科学技術部編集員
  2004年 編集局科学技術部長
  2007年 編集局科学技術部編集委員
  2009年 論説委員を兼務
  2016年 科学技術部編集局長付き編集委員

米倉義晴評価委員

米倉義晴 (Yoshiharu YONEKURA)

医学博士(京都大学)
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)議長

略 歴: 京都大学医学部医学科卒業同大学院医学研究科博士課程単位修得退学
  1995年 福井医科大学高エネルギー医学研究センター・教授、同センター長
  2005年 「国際放射線防護委員会(ICRP)」第三専門委員会(医療放射線防護)委員
  2006年 独立行政法人放射線医学総合研究所・理事長
  2007年 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」日本代表
  2011年 日本学術会議会員
  2015年 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」議長
  2016年 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構・理事長顧問
 
専 門: 放射線医学、核医学、放射線防護。主な研究テーマは機能画像医学で、特に陽電子断層撮影(PET)による循環代謝画像法の開発、脳機能画像の研究
 
著 書: 『臨床医のための核医学検査 -脳-』(金芳堂 1991)、『脳のイメージング -脳のはたらきはどこまで画像化できるか-』(共立出版 1994)(共著)、『知っていますか? 医療と放射線』(丸善 2007)(共著)など。
日本核医学会賞(1985年)
 
一 言: 放射線は目に見えないし、それを感じることもできないので、普段の生活で私たちが放射線を意識することはありません。しかし、目に見えないからこそ、原子力事故や放射性物質の漏えいなどによってまき散らされた放射性物質が、私たちの身体にどのような影響を与えるのか、とても不安になります。
? 放射線の影響を科学的に明らかにするためには、これまでに報告された多くの論文や膨大な実験データを客観的に見直して、何がどこまで明らかになっているのかを取りまとめる作業が必要です。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、放射線のレベルと影響に関するデータや論文を科学的に取りまとめて毎年国連総会に報告しています。UNSCEARはあくまで科学的な評価を行う委員会で、その報告を参考にして他の国際機関や各国政府が防護の仕組みや施策を決めています。
? 放射線に関する科学的な知見を、専門外の方々にどのようにしてわかりやすく伝えるかが大きな課題だと思っています。放射線は目に見えなくても測ることができます。それに加えて、これまでの科学的な知見を正確に理解することが、本事業の達成に役立つものと期待します。
 
評 価: 科学技術振興機構(JST)の支援を受けてきた「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築」が事業の最終年度を迎え、これまでの活動の取りまとめの会議が開かれた。2019年3月8日に京都大学・東京オフィスにおいて開催された「放射線研究・・・今後の展望と異分野交流」の会議には、放射線の人体への影響に関心を寄せる一般市民から、ジャーナリスト、産業界、そして放射線科学を専門とする研究者まできわめて多様な背景を持つ参加者が集まり、それぞれの立場から活発な意見交換を行った。翌3月9日には、前日の議論を受けて「市民と科学者の共同作業を進めるために」と題する討論会が開催され、福島において問題となっている甲状腺がんの検査や個人線量評価など個別のテーマについて議論が進められた。
本事業では、低線量放射線の生体影響に関する様々な考え方や意見がある中で、低線量放射線の人体への影響について市民と科学者が共通の場で意見を交換できるネットワークの構築を目指してきた。市民と科学者の垣根を取り払い、さらに科学者がそれぞれの専門性の枠を超えて率直な意見交換と議論を進めてきた。その中で、現在の科学で明らかにできることの限界や、その情報を幅広く市民に向けて発信することの困難さといった課題が浮かび上がってきた。この2日間の会議においても、異なる考え方を持つ人々が激論を交わす中で、参加者の意識がお互いの立場や意見の相違を乗り越えて、科学的エビデンスに基づいて放射線の生体影響に関する共通の理解を深め、その情報を発信する方向へと意見が集約されていったことは興味深い。
本来、科学者もまた一市民としての立場があり、市民と科学者は対立する構造ではない。ところが、原子力発電所事故のような異常事態が発生すると、それによる被害を受けた立場の市民と、客観的な立場から科学的事実を説明しようとする科学者の間には、意識の点で大きな乖離が生じてしまう。単に安全であるという説明だけでは逆に不安を増大させ、科学者に対する不信感を招くことになる。科学者や研究者は、自分たちの専門領域の知識や情報には精通しているが、他の領域を幅広く見通すことは必ずしも得意ではない。異なる専門性を持つ研究者が分野を超えて協力することによって、科学技術の新たな展開が生まれるが、このような異分野交流が成功する鍵はお互いの専門的立場の相互理解から始まる。市民と科学者の垣根を超えた交流を進める上でも、お互いの立場を理解することが出発点となる。さらには、率直な市民感覚からの問題提起が新しい科学の礎となる。このような活動を進めることによって、低線量放射線の影響についての共通の理解を深めるための基盤が構築されつつあることを実感した。

年間スケジュール

 

年間スケジュール

2016年

日 程 イ ベ ン ト
 7月  21日(木)  定期勉強会 第1回
 8月  12日(金)  定期勉強会 第2回
 17日(水)  定期勉強会 第3回
 28日(日)  市民小フォーラム 「知りたいこと、伝えたいこと 〜放射線被ばく影響の科学的考え方〜」
 9月    2日(金)  疫学ゼミ 第1回
 16日(土)  疫学ゼミ 第2回
 10月    5日(水)  疫学ゼミ 第3回
 20日(木)  定期勉強会 第4回
 31日(月)  定期勉強会 第5回
 11月  28日(月)  定期勉強会 第6回
 12月  11日(日)  白熱教室2016 「基準値以下」をどう捉えるか? 福島産食材にまつわる問題を巡って

2017年

日 程 イ ベ ン ト
 1月  21日(土)
 22日(日)
 福島県環境創造センター開所半年記念講演会
 2月  12日(日)  TEAMゆりかもめ 結成会
 4月  30日(日)  定期勉強会 2017年度第1回
 5月  21日(日)  放射線と計測に関する講習会
 6月    4日(日)  放射線と計測に関する講習会
 TEAMゆりかもめ 第1回報告会
 25日(日)  放射線と計測に関する講習会
 7月  23日(日)  放射線と計測に関する講習会
 8月    6日(日)  定期勉強会 2017年度第2回
 11日(金)  TEAMゆりかもめ 測定報告会 2017
 12日(土)  おもしろ科学教室 in 福島
 27日(日)  定期勉強会 2017年度第3回
 9月  6日~10日  第2回飯館村環境放射線研修セミナー
 10月  15日(日)  おもしろ算数塾 2017 第4回
 29日(日)  定期勉強会 2017年度第4回

2018年

日 程 イ ベ ン ト
 1月     7日(日)  定期勉強会 2017年度第5回
 26日(日)  定期勉強会 2017年度特別企画
 2月    4日(日)  おもしろ算数塾 2018 第1回
 3月  18日(日)  放射線の生体影響に関する国際会議市民フォーラム
 4月  22日(日)  2018 おもしろ算数塾 Hop編 愛1回
 5月  13日(日)  2018 おもしろ算数塾 Hop編 愛2回
 19日・20日  福島県郡山市出張授業 ~京都・北海道から科学者達がやって来る
 6月  10日(日)  2018おもしろ算数塾 Step編 第1回 
 7月   8日(日)  2018おもしろ算数塾 Step編 第2回 
 28日(土)  TEAMゆりかもめ 夏の陣
 8月  18日・19日  2018おもしろ算数塾 Jump編

市民フォーラム

 

市民小フォーラム
「知りたいこと、伝えたいこと ~ 放射線被ばく影響の科学的考え方 ~」

 

<開催趣旨>

「科学の信頼を取り戻すこと」、これか゛今回の福島事故の課題て゛す科学への信頼失墜は、人類 の歴史に長く影響するて゛しょう。そんな思いから私たちは、科学者・市民・福島県外避難者、学生か゛一緒になって放射線の影響についての知識を、噂て゛はなく、事実に基つ゛いて調へ゛てみようと 勉強会を始めました。その成果として5年か゛かりて゛出来上か゛ったのか゛「放射線 必須テ゛ータ32」 て゛す。世界初といってもいいこの共同作業を通し゛て完成したこの本を手掛かりに、これからさら にたくさんの「分かりたい」と思っている方々と議論し、知識を共有していきたいと願っています。 ? その第1弾として、この活動を始めるにあたって皆さんの率直なこ゛意見や「何か゛知りたい か」なと゛意見交換を行いたいと以下のような企画を立てました。放射線の影響について様々な立場から、意見を交換し今後の活動につなけ゛ていきたいと希望しています。これからみんなと手を つないて゛頑張ります! みなさんのこ゛参加を心からお待ちしています。

 

岡林信一氏(市民社会フォーラム代表)コメント


日  時:2016年8月28日(日) 15時~17時

場  所:大阪大学中之島センター10階佐治敬三メモリアルホール

参  加  費:無料(意見交換会参加者は3,000円)

対  象:放射線について科学的に理解したい方

プログラム:

講演会  司会:中島裕夫 (大阪大学助教)
15:00~15:05  初めの挨拶
    嶋田一義(科学技術振興機構科学コミュニケーションセンター調査役)
    中野貴志(大阪大学核物理研究センターセンター長)
15:05~15:25  「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築」の趣旨と目的
    坂東昌子(NPO法人あいんしゅたいん理事長)
15:25~15:35  「だれに、なにを届けるのか」
    小出重幸(ジャーナリスト)
15:35~15:45  「今、知りたいこと、当時知りたかったこと」
    佐藤勝十志(東日本大震災滋賀県内避難者の会世話人代表)
    西本由美子(NPO法人ハッピーロードネット理事)
15:45~15:50

15:50~15:55
コメント:「今知りたいこと、当時知りたかったこと」
         土田理恵子(「放射線必須データ32」ファシリテーター)
     「『放射線必須データ32:被ばく影響の根拠』では不十分なこと」
         角山雄一(京都大学助教・「放射線必須データ32」編集委員)
 
会場との意見交換  司会:角山雄(京都大学助教)
16:00~17:00  会場から意見を募り、講演者や著者を交えて議論します
 
意見交換会  
17:30~19:30  会 費:3,000円(希望者のみ)
 場 所:9F交流サロン「サロン・ド・ラミカル」

申  込:http://networkofcs.xsrv.jp/citizenforum.html

問合わせ:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 

主  催:NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん
共  催:市民社会フォーラム


★ 市民小フォーラム参加者アンケート調査結果はこちら

疫学ゼミ

 

京阪奈放射線疫学ゼミ
福島甲状腺癌疫学論文を読むための統計学

<スケジュール>

回 数 日  時 場   所 ポスター 内  容
第1回  2016年9月2日(金)  17時~19時  関西大学 千里山キャンパス第4学舎1階4102教室 当日資料 報告
第2回  2016年9月16日(金) 17時~19時  大阪大学 大阪大学医学系研究科共同研7階セミナー室 当日資料 報告
第3回  2016年10月5日(水) 17時~19時  京都大学 医学部キャンパスG棟3階311室 当日資料 報告

 

疫学ゼミに関する受講者のまとめ
 
  

 

解 説 論 文
     
Tsuda, et al. Thyroid cancer detection by ultrasound among residents ages 18 Years and younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014. Epidemiology 2016

Ohira Tet al. Comparison of childhood thyroid cancer prevalence among 3 areas based on external radiation dose after the Fukushima Daiichi nuclear power plant accident: The Fukushima health management survey. ,Medicine (Baltimore). 2016 Aug;95(35):e4472.  

D.B. Richardson et al. Risk of cancer from occupational exposure to ionising radiation: retrospective cohort study of workers in France, the United Kingdom, and the United States (INWORKS) BMJ 2015; 351 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h5359 (Published 20 October 2015) Cite this as: BMJ 2015;351:h5359  

Little. MP. Ionising radiation in the workplace.  

低線量放射線による人体影響への疫学的調査

津田氏の甲状腺癌の論文をメインに、同じデータを使用しているohira氏の論文や、低線量放射線の影響について欧米で行なわれているINWROKSの論文なども読み進めております

 

注  意  点 複数の方から、この論文への問題点をご指摘いただき、また、このゼミの開催趣旨についてご意見をいただきましたので、ご説明申し上げます。
今回のゼミの開催趣旨は「この論文の内容を鵜呑みにする」というものではございません。統計の専門家である田中が統計の観点から論文の内容を解説することで「論文を読み解く統計的手段を身につける」というものです。この論文を題材に選んだ理由は、まず査読を通った論文であること、そして現在の放射線関連の問題の中で社会的に関心の高いテーマであることの2点です。内容を統計学的にきちんと読み解いた上で、論文固有の問題点や、疫学や統計で明らかにできる範囲はどこまでなのか、といったことを議論できればと思っております。
よろしくお願いいたします。
   
概  要 放射線生体影響に関心のあるあらゆる分野の科学者を対象に、全3回のゼミを企画しました。福島原発事故後に、以下のような疫学研究の結果が報告されています(詳しくは以下の抄録をご覧ください)。理解に必要な統計学・疫学を補いつつ、京都大学医学研究科に所属する統計学・疫学の専門家がこの論文について解説します。医学以外の分野や学外の方も歓迎ですので、奮ってご参加ください。
   
論文鍾愛 背 景 2011年3月の東日本大震災と津波の後、福島第一原発から放射性物質が放出され た。これまで得られた知見から、その結果、被ばくした住民で甲状腺癌発生が増加するかどうかが懸念された。
  方 法 放出後、福島県は超音波甲状腺検診を18歳以下の全住民に行った。第一回検診参加者は298577であり、2014年4月に第二回検診が開始した。我々は、2014年12月31日までの第一回・第二回検診の県内の結果を解析し、日本の年間発生数と福島県の基準地域内の発生数と比較した。
  結 果 4年間の潜伏期間を用いると、日本の年間発生数と比べた最も高い発生率比は、県の中央地域でみられた(発生率比50倍、95%信頼区間25~90倍)、甲状腺癌の有病数は100万人あたり605人(95%信頼区間302~1082人)であり、福島県内の基準地域と比べた有病オッズ比は、2.6倍(95%信頼区間0.99~7.0)であった。第二回検診で、残りの参加者に疾患がなかったという仮定の下でも、12倍(5.1~23倍)の発生率比が既にみられた。
  結 論 福島県の子どもと青年では、放出の4年以内に甲状腺癌の増加が超音波により検出されており、これはスクリーニング効果によって説明できそうにない。

受講者まとめ

 

 

福島健康調査の論文を巡る現時点での結果についてまとめ ~ 疫学ゼミを通して ~

概要

市民と科学者のコミュニケーションネットワークの企画による勉強会は、キックオフミーティング(8月28日)のすぐあと9月頭から実行に移され、この疫学の勉強会が始まりました。 勉強会では、今、最も関心の高い福島県民健康調査に関する様々な意見について、科学的にどこまで結論を出すことができるのか理解するため、疫学の専門家である田中司朗先生の助けを借りて複数の論文を読むこととなりました。 福島県民健康調査に関する報告では、すでに本格調査の結果についても、この4月にその一部が発表されていますが、ここでは先行調査のデータを用いた福島での甲状腺癌のデータをまとめた論文を検討しました。代表的な論文のうち、増加が見られたと主張する論文と増加は見られなかったと主張する2本を詳細に読み、比較しました。その結果、どちらも解析手法や統計の処方で不十分にならざるを得ない部分があるため、それらの問題点をしっかり押さえ、今後の推移を見守ることが大切だということとなりました。勉強会としては、先行調査の結果からは確定的なことは言えず、本格調査との比較を待つ必要があるという結論に達したということです。

先行調査を分析した2つの論文は、前者が津田ほか2人の著者による論文、後者は大平ら16人に及ぶ著者による健康調査委グループによるものです。そもそも福島県民健康調査委員会は、「先行調査は本来、本格調査との比較をする目的で、放射線の影響が出る時期より以前と推定される期間に行われたもので、福島県民の被ばく前の状態を調べるべく行なわれたもの」という位置づけです。それによれば放射線の影響が出ていなくて当然という前提があったわけです。 以下に、二つの論文の大まかな内容と、問題となる点をまとめました。

内容1:甲状腺癌が増えているとする津田氏による論文の概要

先行調査の段階で、すでに甲状腺癌が増えているとする津田氏の論文では、二つの方法で甲状腺の増加の有無を検討しています。そのうち一つで統計的に有意に増え、もう一つでは、有意とは言えないものの増加の傾向が否定できないと結論づけています。 まず、はっきりと増加したと結論した解析方法について問題点を見て行きましょう。この方法では、先行調査によって福島県内で発見された甲状腺癌を持つ人の割合と、いくつかの県でのがん登録(病院でがんと診断されたときに登録するもの)されたがん患者の割合とを比較しています。今回行われた先行調査では、福島県に事故当時在住していた18歳以下の全員を対象にしており、これまで(実際にはがんの初期であったとしても)がんの自覚症状が無い人も含めてすべて検診しています。今回の超音波診断は、かなり微小なしこりや嚢胞も検出できる精密検診を執行しました。これに対し、比較対象として用いられたがん登録では患者本人ががんの自覚症状があって対象者が受診した結果登録されたものです。そのため、従来のがん登録ではがん患者はかなり少なくなってしまうことは推察されます。実際、すでに超音波検診の世界各国のデータからこの推察は確認されており、がん患者の数を数える方法が違うと簡単には数を比較できないことがわかっています。このことは、統計のテキストにも書かれていて、多くの検証結果があります。この特徴を抑えないと「多い」とか「少ない」とかいう判断はできないわけです。津田氏もこのような効果について考慮したことは論文で述べていますが、どのような比較でどの程度の数値になったかは示されていません。一方、先行調査では福島県以外(長崎県、山梨県、青森県という日本の中の3県)で同様の方法で検診が実施され、その結果が健康調査委員会の報告として発表されています。その結果をみると、データとしては少ないですが、そこでのがん発見者の割合は福島県での結果と比較しても「有為な差がなかった」ことが報告されていますが、津田氏はそれには触れていません。がんの検出方法の違いを考えた上で、放射線とは無縁の比較対象を設定する(このように全く関係のないところに比較対象を取ることを外部比較といいます)のなら、コントロールを「同じ検診方法で注意深く調査した3県のデータ」のほうが、従来の「がん登録」のデータよりはより正確ではないかとも思われます。ただ、3県のデータは数が少なく県ごとのがん患者の数は、かなりのばらつきがあるので、統計的には完全とは言い難いと言えます(しかしながら疫学的観点から言えば外部調査として3県のコントロールを取った県民調査実施団体の見識は評価できるのではないかと思われます)。  また、残念ながら、事故前の福島県でのデータが存在しないので、津田論文では、「先行調査で発見されたがんの比率(prevalence)、全て事故由来で事故後に発生したがんである」という仮定をしています。そして、事故後4年間のうちに、すべてのがんが発生したとしてがん発症率(incidence)(1年あたり新たに発症する割合:/年)を求めています。  先に述べた他県(長崎、山梨、青森)との比較において差が見られないことなどを考えるとこの仮定が正しいという保障はありません。また、今回の先行調査のように、ある時点の一回での調査では、いつの時点でがんが発生したかわからないため、疫学ではこういう形での発生率の算出は通常行ないません。もっとも、過去には、病気である期間が皆同じで、新たに病気になる人、病気から回復したり亡くなったりして患者数からは出て行く人の数が同じで、患者割合が常に一定になる(つまり定常状態)ときには、ある時点での調査での患者割合から発生率を出すことも行なわれてきましたが、この仮定を満たす状況が少ないため、最近ではあまり使わなくなり、標準的な疫学の教科書からもこの手法の解説は今では掲載されていないことが多くなりました。  もう一つの方法では福島県内の地域を線量の高低によって分け、被ばくがないと考えられる地域と線量が高いとされる地域で比較することによって線量による効果を見ようとする試みです。この解析手法での結果では、有意と言い切れるほどではないものの増加の傾向にあるとしています。ただ、この解析においては線量の高低というのが単に定性的に分類されているために、どの程度の線量でどの程度、発見割合が増えるかについては何も結論できません。がんの発生確率が数量的に線量とともにどう増加するかを見せないと納得できるものではありません。これに対しては、津田論文が発表された後、様々なコメントが寄せられ、レフリーの要請に従って津田氏が答えているものがあります。そこでは、津田氏は、「先行調査は3年かけて行なわれたため、調査が早かった地域では発見された数が少なく、調査の遅い地域では発見された数が多かったという効果のため、線量どおりの発見割合になっていないのだ」と述べています。もっともな主張ですが、それならその効果も入れて、丁寧に分析することが必要でしょう。そもそもチェルノブイリでも甲状腺癌の発生が増えたのは4年目からだと結論していますが、果たして、1年目~3年目という時間差がどれほどの影響をもたらすのかは検討して納得のいく説明がなければ単なる仮定に過ぎないと思われます。

内容2:甲状腺癌は増えていないとする大平氏による論文の概要

大平論文と津田氏の論文の違いは、線量推定にあります。津田氏がWHOによる地域ごとの線量推定結果をもとに、福島県を3つの地域にわけ、対象者の2011年の時点での住民票の位置から線量を決めているのに対し、大平論文では、調査対象者のうち3割の人から行動記録などのアンケートを回収し、それを元に線量を推定しています。また、それ以外の人についても、福島県をより詳細な線量推定結果により地域を区分し、比較を行なっています。その結果、増加の傾向は見られないとしています。 健康調査グループのほうが公表されているデータ以上の情報を持っていることで、このような詳細な分析ができたのだと思います。その意味では、線量推定については大平論文の方が津田論文より一見すぐれています。しかし、疫学的には、アンケート調査の回収率が3割と低いため、果たしてどこまで詳細に論じるに耐える正確な情報であるのかは不明です。また、その3割の人たちに何か共通する特徴があるかもしれない場合には解析結果に放射線以外の要因が紛れ込んでしまう可能性(交絡因子といいます)があることを否定することができません。 また、アンケート以外で出した結果については、地域ごとに分けて解析を行なっています。こちらでは「高線量の地域」での患者数が1となってしまっており、統計的には不十分になってしまっていることを否めません。やはりこちらも線量という数字との関連を定量的に示すに至っていないという意味では津田論文と同じ欠陥を持っています。

まとめ

以上のように、津田、大平両論文について学びましたが、どちらの論文においても、事故後のがんの発生割合と線量との関係を定量的に示すに至っておらず、がんの増加の有無についても、被ばくとの因果関係についても結論を出せているとは言えません。この4月より一部報告がはじまった本格調査の結果との比較をする必要があると考えられます。  また、この両論文ではどちらにおいても線量推定が不十分であることが明らかにされ、「線量をどのように評価していくか」という今後の本格調査の結果を解析する際の課題があぶり出されました。すでにUNSCEARの報告にも載せられていますが、事故のかなり早い時期に科学者の多くが参加して不十分ながら線量に対して緻密なデータを出しています。これは、かつて広島・長崎で自発的に線量測定を行ない、さらにはビキニ事件後の核実験において海洋での線量分布の精密な調査を率先して行ってきた日本の科学者らの伝統を受け継いだ素晴らしい仕事です。残念ながら、ごく初期の調査については、国の許可がなかなか取れず、時機を逸したために、半減期が8日程度のヨウ素の直接測定は限られています。しかしながら物理的考察から、のちのセシウム等の線量からヨウ素の量を推定した結果も報告されています。もちろん、健康調査における詳細な行動記録から内部被ばくの量を直接測定した数少ないデータもあります。また、上に述べたように十分な調査がなされない中で、あらゆる既存知識を使い、2回の水素爆発における核種の違いまで考慮しながら線量推定を行なった論文(谷畑ら)や、甲状腺に溜まった放射性ヨウ素を直接測定した数少ないデータ(床次ら)もあります。また調査対象者の行動記録としては、避難した人々の足取りを携帯GPSを用いて測定したデータ(早野ら)もあります。このように、苦労して得られた健康調査結果を解析する時には、フルに活用しない手はありません。これらは数量評価を支えるための貴重なデータとなり得ます。  しかし、ともあれ、このような中で結果をまとめ発表されたことは、この問題を多くの科学者が議論し検討していくためには重要であり、両論文とも評価されてもいいと思います。ただ、それは、科学的検討の材料として、科学論文として議論されるべきであり、甲状腺がんと放射線との関連を客観的に理解するためのあくまで「途中経過」であると考えます。また、確定的な結論を得るためには、今後の本格調査の結果を待つ必要があることを科学者は心得ておくべきです。残念なことに、これらの結果は、新聞紙上やツイッターなどで公表され、しかも、どちらも、結論が出たかのような形で発表されました。このような形の発表は、いったいどちらが本当の結論なのか、と市民らの混乱を招く結果にもなりかねません。あくまで、ここまでの分析でここまでわかったということをきちんと伝えるべきです。そうでないならば、市民の前で自己の主張を「科学的結論である」と声高に語るべきではないのではないでしょうか。「どちらもどちらやなあ」と勉強会でみんながため息をついたのは、このような状況を憂いての結果でもあります。私たちは、あくまで公平に「ここまではわかった」「ここからはまだ個人的な推測でしかない」「これからの課題は何か」を見極めるために3回もかけて、2つの論文を検討してきました。みなさんも思い込みや偏見にとらわれずご自分の目でしっかり読んでみてほしい、と願っています。私たちの報告がその一助になれば幸いです。 また、津田氏のように健康調査グループに属しない、いわば外部の科学者が正しい解析をできるためには、線量推定に関するデータも含めて調査結果のデータが公表され、誰もが疑問に感じた時にはアクセスして分析できるようにすべきです。もちろん、そのためには、個人の行動記録など個人のプライバシーに関わるデータに対して個人特定できないような加工が必要ですが、そういったノウハウについては、昨今ビッグデータを扱っている分野での手法が参考になるでしょう。こうした分野の異なった方々にも協力をあおぎ、研究に参入してもらうことも可能かもしれません。 健康調査の今後については、甲状腺がんの予後が比較的良いという性質と手術後のQOLの確保との兼ね合い(短時間で発症する種類の甲状腺がんを除いて、ほとんどの甲状腺がんでは死亡に至らないため、術後の生活の不便を考えたとき、調査による早期発見が幸せにつながるのかという議論があります)などから存続について議論が行なわれています。「誰のための調査か」「何のための調査か」。低線量放射線を長期的に理解して将来の人々の健康に役立てて行くためには、今後も調査を行う必要があるでしょう。そのためには調査を行う側にも調査をされる側にも「人類の健康のために調査を行う必要があるのだ」という目的意識の共有と覚悟も必要です。それと同時に、福島県の方々がより良い医療を受けられる体制を(早期発見後の治療方針を整理し、QOLを下げない医療のあり方を模索することも含めて)確立していくことも重要であり、両者は互いが互いの礎となりながら進められて行くものではないでしょうか。現在、国民健康調査を行なっている福島県立医大のみならず、様々な機関や人々からの協力体制が確立され、市民の理解を得て、健康調査実施がサポートされていくことが大変重要だということで、勉強会参加者らの意見は一致しました。

(文責 坂東昌子・廣田誠子)

親子理科実験教室

基礎科学研究所ホームページ

イ ベ ン ト 情 報
公 募 情 報

現在掲載記事はありません