2020年05月27日

 

2016年度第1回定期勉強会報告

1.概 要
 
日  時:2016年7月21日(木) 14:00~19:00
話題提供:宇野賀津子(ルイパスツール医学研究センター主任研究員・NPO法人あいんしゅたいん常務理事)
テキスト:放射線と免疫・ストレス・がん(医療科学社)第6章
参考資料:放影研「原爆放射線が免疫系に及ぼす長期影響について」

2.議事録

タイトル:「がん、老化、放射線と対峙するヒトの免疫機構」

目的

放射線は細胞内に活性酸素やラジカルをつくり、それらがDNAを傷つけることで、細胞を人体にとって異物にしてしまう。ヒトの免疫系が異物を除去するため活性化した状態を炎症という。

● どの程度の低線量放射線でどれぐらいの炎症が引き起こされるのか。
● どれぐらいの炎症があるとがん化のリスクがどれぐらいあがるのか

どれぐらいの炎症があるとがん化のリスクがどれぐらいあがるのか がわかれば、どの程度の低線量放射線が人体に悪影響を及ぼすのかがわかるようになる。ヒトの免疫系について学び、上記2点が今現在どこまでわかっているのかを議論することが勉強会の目的である。

本日の肝

免疫系も異物(細菌、ガンなど)除去のために活性酸素やラジカルを放出し、周囲の細胞を傷つける面がある。常に免疫系が活性化されている状態はがん化のリスクを上げる一面もある。一方で、異物出現の際に免疫系の反応を活発化し、症状を悪化させずに治癒させやすくするためには、常日頃から少々の刺激があり、免疫系がスタンバイ状態である必要がある。

次の課題

「日常的にどの程度の刺激があると、免疫系をスタンバイ状態にでき、かつ慢性炎症として周囲を傷つけすぎずに済むか」を知ることができるのか、それとも個人差が大きすぎてそのような量を見極めるのは無理なのか、がわかるように更に学習を進める。どれぐらいの量の低線量放射線がどの程度の炎症を作り出すのかを調べられるのかも議論していく。

コンテンツ

● 免疫学の歴史
● 免疫機構には大きく2つある。自然免疫と獲得免疫
● 自然免疫(全ての異物に反応)
● 皮膚や粘膜などのバリア
● 血液中に存在する殺菌物質
● 白血球と呼ばれる、顆粒球、マクロファージ、NK細胞
● 獲得免疫(特定の異物に反応)
T細胞、B細胞(長寿命で体内に侵入した異物の形を覚えている細胞。いわゆる、ワクチンなどはこのB細胞のしくみを利用)これらの獲得免疫はマクロファージやNK細胞がだすサイトカインやインターフェロンによって呼び出される。
● 老化現象
B細胞:歳とともに若いころの1/10程度に。
自然免疫:歳とともに半分程度に。
● サイトカイン
マクロファージやNK細胞が異物を発見した時に出す、情報伝達物質。様々な種類があり、状況に応じて組み合わせ、その場に必要なT細胞やB細胞を呼び出す。これが出ていると炎症が起きているということがわかる。
● インターフェロン
サイトカインの一種。一番はじめに発見された。他のサイトカインの放出をうながすとともに、細胞を抗ウイルス性にする(細胞がウイルスに感染しても死なないようになる)。
● 炎症の指標
サイトカインやインターフェロンの量を測ることで、体内でどの程度の炎症が起きているのかがわかる。
● 免疫系の反応性の指標
採取した血液にウイルスなどの異物をある一定量混ぜた時、どの程度のサイトカインやインターフェロンが出るかによって、その人の免疫系がどれぐらい活発に反応し得るかの目安になる。
● 炎症とがん
慢性炎症が続くとがんのリスクがあがる。C型肝炎と肝癌。ピロリ菌と胃癌
● がんの悪性化
がんの成長には酸素が必要だが、増殖により、内側のがん細胞は豊富な酸素が行き渡りにくい。その結果、グルコースを分解することで呼吸をする、低酸素状態に強いがん細胞が出現する。このように悪性化すると予後が悪い。

議論など

● 疫学はどこまで信用できるのか。
● 論文に出たとしても、それが世間一般的に見て、どの程度の正確さを有するかを判断するのが難しい。調査結果や実験結果は調査や実験の条件にも大きく左右される。どのような条件の下での結果なのかということが伝わらずに結果だけが一人歩きしてしまうのは非常に恐ろしい。
● どの学術分野も、自分たちの中の暗黙のルールがあり、外から見た時に理解できないことが多い。できる範囲でデータを読み解くことは必要だが、その「できる範囲」が一般社会や他の業界から見て、どの程度の位置にあるものなのかを把握し、周知することが必要ではないか(今回の勉強会参加者は主に物理分野か生物分野出身者)。
● 外からの批判はたやすいが、現実にできるかどうかは難しいこともある。現実的に何ができて、そこからどれぐらいのことが言えるのかをきちんと提示するにはどうすればいいか。

(広報の個人的な)感想

4時間にわたる非常に有意義な勉強会でした。議論が白熱し、全くスライドが進まないこともしばしばありました。個人的に印象に強く残ったのは、どんなものにも「いい面」と「悪い面」がある、ということでした。免疫ときくと、体を守ってくれるものですが、悪いものをやっつけるために、人体も多少犠牲にします。また、免疫系が活発すぎるとアレルギーなどを起こすことにもつながるため、免疫系のスイッチを切るマクロファージも存在しており、そのようなマクロファージはがん細胞から見ると攻撃を終わらせてくれる味方とも言えます。生物の体は非常に複雑なしくみのもと成り立っており、あるしくみが、ある時には良いものとして働くし、時には悪いものとしても働きます。そのため、「どれぐらい」働くとよいのかといった「量や程度」についてのとても細かい議論が必要なのだと思いました。

(文責:廣田)

 

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