2024年10月07日

 

福島県環境創造センター開所半年記念講演会
これでわかる!放射線データ ~ 科学的に見る目を養おう ~

 ● 講演者報告

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1月21日、郡山駅に集合。福島県三春町にある環境創造センターに宇野賀津子、坂東昌子、角山雄一、吉田慎太郎(京大大学院 工学研究科)、吉田裕介(京大大学院農学研究科)、そして鳥居寛之(東大:ボランティア)が参加、前日に降った雪道を全員で三春に向かった。
空は晴れていたが前日の雪が除雪され路肩に積まれていた。除雪されていなかったら、雪道になれた方に迎えに来て貰わなかったらとても行けなかっただろう、三春への道だった。
途中有名な三春の滝桜が雪桜となって我々を歓迎し てくれた。

環境創造センターの交流棟のコミュタン福島につくと、マスコットキャラクターのキビタン、エ コタンのお出迎えに、一同大喜び、その後午後からの講演会の打ち合わせをした。
OHPとスライドが使えるようお願いして、あとはコミュタン福島を見学、福島の3.11からコーナーでは津波、原子力災害との闘いの記録と記憶を映像とパネルで辿った。
福島の環境の今のコーナーでは、原子力災害からの復旧、復興の今が紹介されていた。放射線ラボでは、放射線について学ぶ工夫がされていた。中でも大迫力は、80cm角はあろうかという霧箱、α線、β線はもちろん、ときどき飛び交う宇宙線も見ることができた。30cm角の装置は見たことがあるが、ここまで大きくなると自然の放射線だけでこんなにもあるのかと改めて思った。
ドームシアターの環境創造シアターに立って、放射線の話や福島ルネッサンスの映像を見た。福島ルネッサンスのあまりに美しい映像に涙が出そうになった。
放射線の話には、「あの図はちょっと!放射線が直接DNAにアタックするのはみんなに誤解を与える。8割は、周りの水にあたって活性酸素など、ラディカルになった分子がDNAを傷つけ るのだから」とか、「原子力を使わない技術の開発というけど、原子力そのもののいい点や悪い点をきちっと指摘すべき。現在の技術を向上させる意味を明確にしないと誤解を与える」など細かい部分にすぐ問題点をあげるメンバーがいて、改良の余地はあるものの、なかなかの出来映えでした。
他に環境創造ラボもあり、ゆっくり見ると、2~3時間は十分楽しめる場所でした。科学館として質の高い展示を心がけているとのことで、お薦めです。入場料が無料というのもうれしいです。2階には実験コーナーもあり、X線撮影や遮蔽の実験のできる霧箱もありました。

午後1時半から本来の目的である「これでわかる!放射線データ~ 科学的に見る目を養おう ~」を行いました。演台代わりに3つの丸テーブルを置いていただき、角山、坂東、宇野が座り、対談の雰囲気を作りました。

まずは角山の司会で聞きたい事、疑問点を聞き出しました。
特に未来のリケジョ(小学校1年)からの「今日は雪が降っているのに、なぜ昨日より小学校グランドの線量計は高い数字なの」という質問(福島の方は、雪が降ると普通線量が下がる事をご存じ! 彼女は毎日、小学校のモニタリングポストの数字を記録していたました。)に、3人は「うーん」、宇野は「美浜原発に行ってホールボディカウンターで測定した時も雨が降って、それにちょっと濡れた人からはラドン(正確には娘核種のビスマス)が出た。」と説明しました。

雨が降ると空間線量が増えることは、事故直後の当NPOの東日本大震災情報発信ページでも触れていますが、その中で放射線量率の調査に思う(ブログその60)にも、当時の線量が雨の日に増えてことの原因を探ることの説明として書いてあります。
空間線量が増えるのはまた、フロアにいた医学物理専門の吉田慎太郎が、「雨が降ると少しラドンなどの影響で上がることもある」と説明しましたが、フロアからは「院生の説明が一番よくわかった」との声も聞かれ、若い人が丁寧な回答をしたことはとてもよかったと思います。
雪が降ると、空間線量は地面に沈着した放射性物質(ほとんどはセシウム137か?)からくる部分が遮蔽されるので線量が減少するということですが、今度は逆に、空間にある塵に含まれる放射性物質が雪や雨に混じって落ちてくるので増える部分もあるということです。
ただそう考えると、福島の原発由来の放射線が土地に沈着していた量よりも、一般に他の地域で見られる雨の効果のほうが効いていることになり、まあ原発由来の線量がいかに小さくなっているかを示しているようなものでもあります。
「雨が降った時のデータは日常でも、例えば浜岡原発のデータでも少し上昇するのがはっきり出て います」と坂東も説明しました。
また、角山は最後に、モニタリングポストの数字をネットで確認し、長い期間を見ればこの程度は誤差の範囲であることを説明しました。
更に、これらの説明に東大の鳥居氏が補足説明を加えました。生体の中では、セシウムとカリウムは科学的な性質が似ているので、ほぼ同じ振る舞いをするけれども、生物の体の中では、それぞれ原子の種類によって異なった振る舞いをすることもあるので、注意が必要だという話も出ました。
だんだん細かい話になってくるので、角山が、「そこらあたりは生物をやっている人と物理をやっている人で、違った意見もある段階なので、ここで はこれくらいにしましょう」という話で落ち着きました。

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いろいろな放射性核種がある中で、各々の性質を半減期などの物理的性質と、生体内での振る舞いとをすべて考えて、生体への影響を見なければならないことをどのように説明し、まだまだ分からないこともあるにしても、一応「シーベルト」という単位で比べるところまでたどり着いたこともわかってもらわないと、どこまで信用していいかわからない方々に納得してもらえないなあなどと思いました。これもこれからの課題です。
また、旅行で色々なところを訪問するたびに、原爆の被害を見てくるようにしているという方から は、「たくさん被害の現状が出ているが、どれがどの程度でどれくらいの関係にあるのかわからず、ごちゃごちゃに放射線の危険の様子が頭に入っているのだが、これを整理して、位置付けをはっきりしてくれるとうれしい」と言われた。

なるほど、原爆の被害、ビキニ事件の状況、JCO事故の惨事など、様々な被害状況が深刻な形で胸が痛む情景とともに語られることが多いが、いったいどの程度の線量で、どの程度の事故と考 えていいのかという話は全体としてき ちんと説明されないことが多く、そのため、チェルノブイリ事故も、広島・長崎 の原爆も、そして福島も同じ状況として語られると、規模も放射線量も被害状況もごっちゃになって頭に入ってしまう。そこをきちんと量の概念を基にして説明しないと、すべて危険とかすべて安全とかいった感情だけが優先することになる。

科学的にものを見る、数量を理解するということの大切さを痛感しました。「データ32」には一応放射線量で分けた各々の説明があるのですが、これではまだ不十分でしょう。
それは「桁の異な る線量」の捉え方が難しいからだと実感しました。例えば、自然に人間の体内で起こるDNAの損傷、つまり「突然変異」は放射線量に直すとほぼ1~10シーベルトとなるが、自然放射線が1年間に与える被ばくは、ほぼ1mSv、それは、1000分の1のオーダーであるという認識がないと、100のほうが大きいなあと単位を気にしないで見る人は結構多いでしょう。
実際には背中にハエが1匹とまっていたら体重が増えるって思うかどうかだという感覚が身につかないと、なかなか理解できません。今度作るパンフレットでは、こういうところも分かるようにすべきだと教えられました。
線量の違いのこと、第5福竜丸事件のことなどについても質問がありました。宇野は第5福竜丸事件と輸血肝炎について説明しました。
また坂東は、福島の高校生が先日の白熱教室で、「健康調査で甲状腺がんがほぼ1万人に1人出たことで、今問題になっています」という大人の説明に対して、 質問した言葉「この多い少ないは、何と比べて多いと言えるのですか」「どうして、それが放射線の影響だと言えるのですか」という鋭い質問を投げかけたことを紹介して、「これはものすごく大切な鋭い質問です。というのは、これこそ今統計学や疫学で問題になっている重要な点なのです」と説明し、「実際チェルノブイリではこのような議論が出て、その解明に20年もかかったのです」 と言って、そこで活躍した2人の女性研究者、エリザベス・カーディス博士や、エリーネ・ロン博士の仕事を紹介しながら、彼女らの果した役割を紹介しました。
そして、福島の甲状腺検査は研究としても、今後放射線の影響が「どの程度あるか。そしてそれを防ぐにはどうしたらいいか。」ということを明らかにしているためにも、とても重要であると話しました。また、OHPで「データ 32」のデータを映し出して、放射線の影響について説明したりもしました。

畠福島県副知事、角山環境創造センター所長も聞きに来られ、雪のために人数的には広いホールは少し寂しいところでしたが、これまでの講演会と違った対話型議論がある程度できたかなと思いました。

また、この大人の講演会で質問した小学校 1 年生の女の子は、放射線測定を毎日記録していると のことですが、この子は、毎週のようにこのコミュタンにやってきて分厚いノートを作って勉強し ようと意欲を持っているそうです。わあ、すごい子がいる、質問も素晴らしい!、一度私たちのや っている親子理科実験教室に来てほしいなあ、と思いました。あいんしゅたいんでも放射線をずっ と測定している森田優奈さん(現在中学 2 年)も小学校から始めています。みんながこうしてお友達 になって励ましあうようなグループになればすてきだなと思いました。

この中で一番印象に残ったのは、今福島で行っている「お米の全数調査」です。
ここ数年、何も異常が出ていないのです。しかも、全数調査を行うにはものすごい手間と時間がかかり、ほかの重要な検査もそのためになかなかはかどらない状況を聞いて、統計学の基本をもっとみんなが知ってもらわねばいけないことを痛感しました。
当あいんしゅたいんが開催している「おもしろ算数塾」では、統計におけるサンプリングの大切さと大数の法則を子どもに教えています。どの程度のサンプリングサイズでどの程度のサンプルを取ってくれば、ほぼ全体が分かるとするかというのを体験的に実験して、全数調査をする必要なないことも体験できる試みをやっています。それはまた別途ご報告するとして、日本人に統計的センスがないことは問題ですし、これからの私たちの課題でもあります。

反省点は多々ありましたが、職員の方からは、「今まで講演という形で行うことが多かったのですが、対話型で、先生方の間でも異論があればお互いに疑問を出し合うやり方は、納得がいくしよく理解できる。このやり方はいいですね」と今までの講演会とは違った雰囲気とのお言葉をいただきました。

終了後は、角山は和室で子ども達とラドラボのカードゲーム、大人は玄関のフリースペースで個別質問を受け付けました。
京都から持ってきた「なめてかかれば挫折知らず」の京大飴も人気、三春にはトリウムの多いところがあり、野菜の計測値が上がることがあるなどの話もお 聞きしました。

(宇野賀津子・角山雄一・坂東昌子 記)

この日は、宇野が1人ということで、午前中は1階のロビーで色々な人の個別質問に答えました。

ナリス化粧品から寄付していただいたハンドクリームを用いてハンドマッサ ージを紹介しつつ、対談、お茶も出して貰って、京都から持ってきた緑寿庵の金平糖を食べながらお話をしました。そのうちにまた色々な人がやってきて、説明の輪に加わったりという調子でした。
午後の「食と健康について考えてみよう!」は、免疫、低線量放射線の人体影響等について紹介、最後は食の重要性ということで、イソジンうがい液を使った食の抗酸化作用を目で見る実験を紹介しました。
その後、個別質問に答えますということで、1階のロビーでまたまたカテキンたっぷりのお茶を飲みながらお話をしました。
当日平成28年度福島県エコ活動実践プロジェクト成果発表会に参加していた安達高校やいわき高校の方も来られ、ハンドマッサージをしながら放射線の話をしました。

次回はもっと季節のよいときにとは、職員の方のお話でした。来年度はもっと早く企画を煮詰めてと考えています。

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(宇野賀津子 記)


● 参加学生報告

福島県環境創造センター開所半年記念イベントに参加して   吉田慎太郎(京都大学大学院原子核工学専攻)