第3回疫学ゼミ報告
1.概 要
日 時:2016年10月5日(水) 17:00~19:00
場 所:京都大学 医学部キャンパスG棟3階311室
参加者数:16名 当日資料:
備 考: |
第3回では、我が国の 放射線防護にも影響する可能がある INWORKS論文を解説します。INWORKSとは、フランス・イギリス・アメリカでの放射線作業従事者からなる集団です。個人線量計により被ばく線量をはかり、被ばくより60年間の追跡(コホート研究)が行なわれています。 |
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2.議事録
INWORLSについて
● 先行調査の結果に関して(第一回のゼミで出た結論や意見については割愛)
● 1940年代からデータのあるフランス、UK・USAで放射線作業従事者の線量計のデータを用いたコホート研究。死亡診断書の死因よりがん死を抽出。追跡は退社などで追えなくなった時、死亡時など(現在では原子力を行なっている欧米の国15カ国においてデータが蓄積されている)。 ● 放射線にさらされてから、実際にがんになるまでには10年ほどを要すると考え、死亡発生時に対して、10年前までの累積線量を死亡に至ったがんの要因と考えてリスク算出に用いている。
● タイムラグを5年、15年のケースも調べているが、10年のケースとそれほど違いがない。
● 線量データは放射線作業従事者であれば必ずデータは従事者が働いている企業もしくは国において保存されているものである。USAではこの論文のコホート研究にデータが使用されることを従事者自身には連絡されていない。フランスとUKでは本人の許可が取られており、UKでは1パーセントの人が拒絶している。 ● 個人線量計で記録されているのは基本的にはガンマ線であり、通常は100キロ電子ボルトから3000キロ電子ボルトのエネルギーをもったガンマ線による被ばくと考えられる。結果を算出する際には、単位はGyで、結腸線量によって表されている。また、トリチウムによる内部被ばくは考慮されていない。 ● 解析は放射線以外のがんリスクによる影響をなるべく取り除くため、さまざまなカテゴリー分けをされて行なわれた(このカテゴリーを層とよぶ。年齢層の層)。カテゴリーの種類は、国、死亡時年齢、性別、生誕年、収入、仕事内容、放射線作業中時期間、中性子被ばくの有無。がん死亡の大きな要因となり得る喫煙などの生活習慣にまつわるカテゴリーは設定されていない。そのため、喫煙による影響を取り除くために、全がんでの死亡と喫煙による影響をもっとも強く受ける肺がんを意外のがん死亡、そのほか肺がん意外にも喫煙の影響を受けると思われるがん複数を除いたがん死亡の何パターンかでリスクを算出している。 ● 非被ばく群としてのコントロールは設定されていないが、放射線従事者の中には結果的に被ばく量が無かった人もおり、そのような人も含めた上での内部比較となっている(つまり、線量依存を見た上で被ばく線量0への外挿結果をバックグラウンドとする)。 ● がん死の抽出は死亡診断書によるため、誤差は大きい。がんを患っていても、最終的な死因が感染症となるケースなどが多数存在する。国ごとに、死亡理由の中の全がんの割合が違っている理由はこの死亡診断書の書き方による誤差だと思われる。 ● 結果は、1Gyあたり、被ばくしないときの1.5倍程度にがん死亡が増えるとしている(但し、90パーセント信頼区間をいれると、およそ1.2倍から1.8倍)。詳細は以下の通り(括弧内は90パーセント信頼区間)。全がん1.51倍(1.23~1.82)、白血病を除く全がん1.48倍(1.20~1.79)、固形全がん1.47倍(1.18~1.79)、肺がんを除く固形がん1.46倍(1.11~1.85)、喫煙と関係が深いとされる全てのがんを除く固形がん1.37倍(0.86~1.95)。
INWORKSへの問題点の指摘
論文:
● 線量率を考慮した場合、影響が変わる可能性があり(トータルでは同じ線量でも少しずつ長く被ばくする場合と多い線量を身近い時間被ばくする場合とで影響が違う可能性がある。線量率とはある時間あたりで被ばくする線量をさす)、線量率の違いによる影響を表す係数としてDDREFというものがある。 ● 高線量率では低線量率よりも影響が大きくDDREF=2とされているが、このINWORKSの結果と広島長崎のLSSでの結果とを比較する限りではDDREFが1のように見えている。 ● DDREFが従来の結果とは違って見えている理由としては、広島長崎でのガンマ線のエネルギーとINWORKSでのエネルギーが違うため、影響の出方が違っている可能性がある。
日本での放射線従事者に関するデータ
論文:
● 日本でのリスクの値はINWORKSよりは少し低め。1.36倍程度。
(文責:廣田)
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