第2回疫学ゼミ報告

1.概 要
 
日  時:2016年9月16日 17:00~19:00
場  所:大阪大学 大阪大学医学系研究科共同研7階セミナー室
参加者数:15名
当日資料:
備  考: 1回目の復習からはじめて, 解析結果・著者らの考察について読み進める。また、同じデータ(福島健康調査のうち先行調査の結果)を用いたohira氏の論文との比較を行なった。

2.議事録

津田氏の論文の結果、考察に関して

● 先行調査の結果に関して(第一回のゼミで出た結論や意見については割愛)

● 外部比較では参照値として何県かぶんの地域癌登録の結果を利用。これと比較すると福島では数十倍もリスクが高いという結果が出ているがこれに対しては異論もある。
● 地域癌登録では病院でがんと診断されたものが登録される。一方福島の場合は異変があろうと無かろうと当該地域の81%の人々に超音波による検査を実施。一方、地域癌登録では患者側の自主的な受診が必要であり、わざわざがんを探すために何の症状も出ていない人に検査を行なうことはない。
● 上記のとおり、がんを発見するための手順が全く異なるため、両者を比較することはできないのではないかという意見がある。
● 結果を発生率やオッズ比で出しているが、あくまでもある一時点での有病率を使った断面研究であり、コホート研究やケースコントロール研究ではない。

● 事故前にスクリーニンングした場合にどれぐらい出得るのかが考慮されていない。事故前から発生したがんも事故後のがんとしてカウントしてしまっている。

● 先行調査では、長崎、山梨、青森では役4300人中1名発見されており、統計学的には福島県での有病率と違いは見えない。
● 福島県内において、線量が高いと考える地域と低いと考えられる地域にわけて解析を行なったが、線量の大小と有病率の大小の間に相関は見られなかった。

● 線量の高い地域と低い地域では実施タイミングに1~2年程度の開きがある。線量の高い地域では事故後早く検査されたため、検出数が少なかった可能性があり、地域ごとの大小と有病率の大小に相関がなくても不思議ではないと筆者らは主張している。

● 95%信頼区間を入れると地域間に有意な差はない。

● 本格調査の結果に関して

● 本格調査のうち、ほんの一部だけ解析を行なっている。
● がんが見られた人の年齢分布が先行調査の結果とは異なっている。

同じ先行調査の結果を用いたOhira氏の論文について

● 論文:健康調査を主に行なっている人たちによって出された先行調査のまとめ。
● ohira論文では、福島県内の地域ごとの内部比較、および個人線量を用いた線量依存を調べたが、優位な関連はなかった、としている。
● 津田論文では、対象者の線量を住民票での住所での線量としていたのに対し、ohira論文では対象者のうち20%の人にアンケート調査を行い、その行動から個人外部線量を見積もっている。

● 調査票の回収率は20%。医学研究としては低い(人数にして12万人程度の調査票が回収されている。)。もし、調査票を提出した人のグループと提出しなかった人のグループとに何らかの特徴の違いがあるとすれば、調査票を提出した人たちの集団だけを研究に用いると何かしらのバイアスがかかってしまう可能性がある。

● 津田論文ではWHOが2012年に出し地域区分を用いているが、ohira論文では違う地域区分を使用している。

● その結果、線量が高いとされる地域での患者数が2人程度になってしまい、統計学的な誤差が非常に大きくなってしまっている。
● どちらにも解析方法にベストとは言えない部分や統計的に足りない部分があり、先行調査の結果だけでは確かなことはまだ言えないという印象。
● 本格調査の結果と合わせて何が言えるのか、知りたい。
● ohira氏らが使用した個人の線量データの公開を望む。誰でもアクセスして解析できるようにしてほしい。今後の調査も含めて、データを外部に公表し、だれでも検討可能な状況を作らなければ、所詮はブラックボックスから出た結果としか見られず信頼が得られない。
● ohira論文ではバイアスの問題がある可能性はあるものの12万人近い個人線量の見積もりができているのだから、今後、調査を続けることで何を明らかにすることができるのか真面目に考えて行く必要がある。

● 参加者の意見

● 津田論文、ohira論文ともに同じデータを使っているが、結論は違っている。

(文責:廣田)

 

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