2024年12月06日

 

平成30年度「科学技術コミュニケーション推進事業ネットワーク形成型」報告会
「福島の事故を未来へ生かすために」 ~高校生・市民・科学者の出会い、語らい、そして未来へ~

 

第1部(午前の部):若者・高校生と大人を結ぶ交流会(10時~12時)

          ● ポスターセッション
          ● 全国高校生ワークショップ(中・高校生が福島の問題を語り合いました)

第2部(午後の部):市民と若者と科学者で作る未来(13時~17時)

1.挨拶:対立を科学の心で克服しよう

<有馬朗人先生のメッセージ>
動画編集 石井敬之(JAIF)
 

2.3年間を振り返って
 ● 避難者からのメッセージ 伊藤早苗 紙芝居「へったれよめっこ」
 ● 高校生代表からのメッセージ 京都女子高校・東京学芸大附属国際中等教育学校・福島県立安達高校

 ● 福島訪問(宇野賀津子)

あいんしゅたいんの福島関連の活動を、3.11直後からさかのぼってまとめました。改めて、ずいぶんと色々やったねとおもいました。直後の坂東さんを含む物理学者との議論、分野間の意見の相違や育ってきた環境による認識の違いを実感しました。その後のそれを埋めて行く努力と議論も懐かしく思いました。避難者と一緒に、京大原子炉、美浜発電所へいってホールボディカウンター検査を受けたこと、京都や神戸で福島からのWBC検診車を迎えたこと。等々、その課程で勉強したことなど。その過程で、JSTの助成金や福島からの助成金が大きな役割を果たして、ここまでこれたと改めて思いました。

3.子供が大人を変える
 ● 子供への科学普及(教材披露)(角山雄一・吉田裕介・大川真澄)

放射線影響に関する諸問題を理解し解決するためには、数量的に問題を捉えるとともに統計的な理解に基づいて判断することが求められる。しかしながら我が国では統計について学ぶ機会や統計的な思考法をトレーニングする場はかなり限られている。そこで当事業に参加する学生や院生たちが、小学生でも体験的に理解ができるような統計実験カリキュラム「夜店のおっちゃんの嘘をあばけ!」及びテキスト「めざせ統計マスター」を作成した。実験カリキュラムについては、実際に福島でのイベント等で実演を行なったが、参加者の子ども達には大変好評価であった。こういった教材等の拡充を今後も検討したい。

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 ● 白熱教室の経験(澤田哲生・大学生)

参加型対話プラットフォーム『白熱教室』による3・11後の福島県健康調査の課題解決について紹介した。
福島県で実施されている未成年者への甲状腺検査に関して、低線量放射線被ばく環境下で長く生活して行く上での〝相場観〟の構築を旨として、効果的な参加型ダイアローグ(対話)を探求することを目的に、首都圏と福島県浜通りの中高校生30名程度が参加した対話型『白熱教室』を2回に亘って実施した。その結果、図に示す12項目の専門家への疑問などがマニフェストとしてまとめられアドボカシー*に到達できた。これにより参加型ダイアローグの有効性が確認された。今後の課題は、中高生と専門家のボトムアップ型の問題共有そして解決の機会を協創し、中高生/専門家/一般市民の参加型対話ネットワークを拡充して行くことにある。
*弱い立場にある者の生命や権利を擁護し代弁することをいう。

 ● ゆりかもめによせる思い(角山雄一)

およそ2年前に始まった中学生・高校生たちの手による自然環境放射線マッピングプロジェクト「TEAMユリカモメ」は、当初は放射線を実際に測定をすることで測定の難しさやデータの読み方、さらにはリスク感覚を養うことを目指す活動であった。
それが参加生徒や指導教諭の皆様のご協力により、福島と東京、関西の生徒たちが顔を合せて討論を行う場へと大きく飛躍した。
議論を通じ、生徒たちは自分とは異なる考え方がいくつもあることを知り、より多角的に物事を捉えることを意識するようになる。また機会があればこのような活動が実施されることを切に望んでいる。
ご協力くださった皆様に感謝申し上げます。

4.大阪コールネットワーク

 ● 国際会議 次の段階への飛躍(JSPS報告・和田隆宏)

私たちは、日本学術振興会に「放射線の生体影響の分野横断的研究」に関する研究開発専門委員会を組織し、2015年10月から3年間活動してきました。2018年3月には大阪で国際会議を開催して、低線量放射線の問題や放射線の医療利用について議論し、国際連携を呼びかけるOsaka call-for-actionを採択しました。放射線の影響を科学的立場から定量的に議論することは、放射線を利用していく上でも大変重要で、これからも活動をさらに発展させていきます。

 ● 科学者の動き (大阪コールネットワーク 土岐博)

国際会議(3月)では弱い放射線の生物への影響をヨーロッパ、アメリカ、日本の研究者の協力のもとに推進しようというOsaka Callが採決された。それを受けて大阪大学放射線科学基盤機構が日本側のホストとしての活動することを報告した。弱い放射線の生物への影響を科学的に研究するためには何をすることを意味するか、人工放射線レベルを自然放射線レベルを基準にすることの必要性を述べた。

 

5.パネル討論:我々は福島から何を学んだか(討論含め90分)

問題提起:田中司朗 パネリスト:宇野賀津子・澤田・角山雄一・和田・土岐博・鈴木

「我々は福島から何を学んだか」というテーマでパネル討論を行った。国際市民フォーラム実行委員長、工学者、生物学者、医学者、統計学者、物理学者から、それぞれが得た教訓を述べた。その後、会場からは、「科学者の言葉が市民には難しく伝わらない(たとえばカタカナ用語は避けてほしい)」、「市民のことを理解しようとする姿勢に欠けている」、「その一方で科学者がデータについて情報発信するときは、データソースや解釈について十分な説明が必要」、「震災後のリスクコミュニケーションでは、情報の中身と伝え方の両方に問題があった」、「文系・理系、異分野、高校生と科学者の間には壁がある」、「大学教養課程・哲学と歴史・リスクリテラシー・エビデンスレベルなどを学んだり教えたりすることが必要」といった意見が挙がった。

6.特別アピール(閉会)

問題提起? 3つの提言?
私たちが目指すべきはこの21世紀型の分野横断型プラットフォームの構築だと考えています。その確信を、今回の『ネットワーク基盤構築』活動を通じて多くの仲間と共有し深めてきました。
私たちは今後市民や子供達に幅広く応え、災い転じて福となすために以下のことをここに提言したいと考えます。
1)市民、子供達、そして科学者をつなぐネットワークをより広範囲に深化させていきます(ゆりかもめ)
2)科学者も立場や考え方を乗り越えたネットワーク対話の機会を創出していきます(Osaka Callネットワーク)
3)「分野横断型課題」の解決のマインドを多くのセクターと共有し、その方法論を構築していきます。 

参加者:合計70名(中高生28名・市民23名・科学者19名)

    ● 参加者の感想

小波秀雄さん

高校生、市民、科学者が一同に介して意見を交換したこと自体、画期的な「事件」であったが、共通の関心をもつ人びとの間でさえも現状ではまだまだ「ことば」を共有しきれていないことを痛感した。
それぞれの立ち位置や知識にちがいがあるとはいえ、わかりやすく語ることを、とりわけ科学者は深く考えなければいけないのではないだろうか。また自分にとって最も有意義だったことは、コーヒーブレイクの時間に高校の生徒や生徒たちと話をかわして、活動のようすに触れることができたことだった。
このような機会はさらに発展させてほしい。

 

山崎泰規さん

結構長く研究者生活を送ってきましたが、こういった大変ユニークで貴重な機会をいただいたのは初めてでした。ありがとうございました。

まず、参加していた高校生諸君の的確な発言には舌を巻きました(午前の部に出席できなかったのを大変悔やんでいます)。高校生集団に活動の場を作り、活発な発言のできるグループとして育ててこられた坂東さんをはじめとしてこの会の活動を進めてこられた皆様に深い敬意を表します。今回で取り敢えずの締め、と言うことですが、今後、大学生等になった彼らがautonomousにこういった活動を様々な方向で継続・発展させ、次の高校生諸君を巻き込んでいくようになると、活動の輪が次々広がって、新しい段階を迎えるのではないかと強く期待しています。

病院などでお年寄りに幼児語で話しかけることは失礼だという認識が最近ようやく共通のものになりつつあるようです。報告会での高校生や一般の方の議論を拝聴していまして、科学の専門家が高校生や一般の方など非専門家に語りかけるときに、あるいは同様の”幼児語”を使おうとしてしまっているのではないかとふと思い自省しています。これまで、サイエンスインタープリーターやメディアの科学部の方々が専門家との間のブリッジ役を担ってこられたのかとも思いますが、先端的部分で活躍している科学者自身からの通常の言語でのメッセージ発信も同時に重要で、その際適切な言語の開発が必要であろうと感じた次第でした。

上のことに関係しますが、科学研究が社会にとって有用であることがコンセンサスとなり、研究者という職業が成立してその人口が大幅に増加すると、効率的に専門性を高める/最適化することが職業人としての研究者の評価軸となって、分野縦割りによる蛸壺化が促進されざるをえなかったのかと思われます。蛸壺化の回避策、改善策を考えるときにはこの必然性を考慮に入れておかねばと思ったりしました。

報告会で伺った粘土質と砂質等の問題は大変興味深かったです。科学は後付けで観測事実を説明することには得意ですが、様々な境界条件のもとで現象を事前に予言しておくことには実は不得意なのだと改めて認識しました。この辺、原発事故は起こらないとして、具体的な実験的研究を放棄してきた日本と対照的に、例えばフランスでは、原発の模擬事故のようなことを実際に意図的に起し、何が起こるかを調べていると言うことを聞きました。あるいは近代科学の初期からの担い手である彼らは、科学が不得意な部分を明示的に認識しているのかとも思いました。