2024年11月06日

新春の集い(ブログ その183)

京都大学の北部構内にある基礎物理学研究所は、日本初のノーベル賞受賞者である湯川博士を記念して設立された共同利用研究所です。

この研究所の名前が湯川博士のご専門、受賞された中間子理論近辺の名前でなく、「基礎物理学研究所」と名付けられたのは、湯川博士の思いがそこにあったからです。
新しくできる研究所が、科学全体の俯瞰して分野を横断する未来の科学の営みにつながる場にしたい、また単に京都大学に属するのではなく、科学の新天地を切り開く日本の大学に開かれた場、そして日本だけでなく世界の科学者と議論できる場として「共同利用」できる研究所にしたいという思いを形にしようと努力されたのでした。

2021年、旧湯川邸が京大の所属となって改築計画が進められており、おそらく2024年には新装オープンの運びとなるでしょうが、ここが湯川先生の未来に向けた分野横断的な営みの場になるだけでなく、さらに広く市民と科学者の語らいの場としてオープンすることが、湯川精神の未来の姿につながるのです。

今回、「湯川博士の贈り物」シリーズを始めたのも、湯川博士の未来を俯瞰した視野、精神を受け継ぐという思いがありました。それが「湯川博士の贈り物」シリーズです。

on-line cafe “湯川博士の贈り物”
on-line cafe “続・湯川博士の贈り物”
on-line cafe “湯川博士の贈り物 3”

このシリーズも通算15回目を数えました。

第15回目は、この基礎物理学研究所で開かれました。
基礎物理学研究所として、この企画に共催していただけることになったからです。今後特別企画として、年に1回、湯川博士誕生月である1月に共催することが承認されたのです。その初めての講演会を2023年1月14日(土)に開かれました。

湯川博士は、世界創刊号(1946年1月)に次のように書かれています。

「真の社会教育は学校教育のように、先生は先生、生徒は生徒といつも地位の定まっている性質のものではなかろうと思う。
我々は社会の一員として、何かの方面で詳しい知識と経験を持つと同時に、その他の方面では素人であることを免れない。従ってある特定の問題に対する先生は、他の問題に対しては生徒とならねばならぬことは自明の理である。
各人が独りよがりの指導者となるよりも、かえって国民全体が互いに教えつつ、教えられつつ良識と教養の水準を高めて行くことが社会教育の理想であろう。
その場合各人が常に自己を教育する熱意を失わぬことがこの目的達成のために最も大切な条件となるであろう。(注 旧書体は現代書体に書き換えました(坂東))。

これは、この度資料調査に当たっておられる岡田先生がご紹介下さったものですが、私は湯川先生がここまで検挙でおられたことに、とても心を打たれました。
湯川先生の研究室に属していたとはいえ、当時はそこまでのお考えを持っておられることにはとても目が届きませんでした。
確かに、私たちは、ある特定の分野については専門家であっても、ちょっと異なる分野については知らないことだらけです。いや、時には自分の専門分野についても、固定概念にとらわれて新しい考え方やアイデアについて誤った評価をすることさえあります。そのことをしっかり自覚しておられたのですね。
ですから、湯川研究室の中でも、この謙虚な姿勢で若手であろうとベテランであろうと関係なく、いつも同じように室温四議論して、みんなで謎を解くことに夢中になっておられたのです。この姿勢を崩されなかったのですね。

私たちは今、情報社会の中で生きており、誰でも知りたいことをネット上で検索して知ることができます。知ろうと思えばたくさんの情報を得られる時代である。
問題は、あふれる情報のなかで、「これは本当なのか?」「ごまかされていないかな?」と感じることも多く、そういう疑問がそのままになっていると、本当のことが分からなくなってしまいます。
それに対して、多くのZoomや対面の講演会が開かれていますが、講演を聞くだけで、徹底的に掘り下げて質問できる機会はそうざらにはありません。

このシリーズでは、こうしたもやもやをできるだけ解消して、納得できるまで質問や議論をできるようにと努力してきました。
その中で感じるのは、子供たちの率直な質問が大変刺激的だということでした。講演時間と同じぐらいの時間を議論や対話に費やすことにしていますが、それでもとても時間は十分ではありませんね。もっと工夫が必要です。

これからの社会は Science of the people, by the people and for the people です。市民と創る科学、まさに協働で本当のものを見つけていきたいですね。

今回、はじめて、基礎物理学研究所で対面での講演会ができました。
対面の良さは、やっぱりより身近に人の気持ちが伝わることですね。そして、新春にふさわしく、壮大な宇宙の謎に迫る科学者の探求を、身近に感じることでした。
基研の若いスタッフ、大屋瑶子さん(京都大学基礎物理学研究所講師;「巨大電波望遠鏡で見上げる星空 ~太陽系の昔の姿とは?~」)と西道啓博さん(京都大学基礎物理学研究所特定准教授:「AIで解き明かすダークな宇宙」)は、子供たちにも夢を与えたと思います。

当日は、子供から専門家の質問まで幅広い議論ができ、新春にふさわしい壮大な物語を皆さんで楽しみました。質問時間をたっぷりとったのですが、それでもまだまだみなさん、質問があったようで、後からいろいろな感想が寄せられています。
そうした商会はまた別途紹介することとしますが、1つ当日の感想のをご紹介しておきます。

昨日は、宇宙について興味深いお話をお伺いさせていただき、ありがとうございました。とてつもなく遠くにある原始星の成分までわかるということ自体が驚きですが、成分にアルコールが含まれているということにさらに驚きました。何となくもっと単純な分子と思い込んでいたようです。

ダークマター・ダークエネルギーの方は、言葉だけは随分前に知りました。未だ、分からないことだらけのようですね。お二人とも、一般人向けに分かりやすくご講演されるのがお上手と思いました。若い方の宇宙の壮大なお話は未来を感じさせ、新年にふさわしいものだったように思います。(R.,T)

子供たちもいろいろな感想を寄せてくれていますが、それはまたの機会にご紹介します。難しいお話で、まだまだ分からないことが多い中で、いろいろ謎を共有できた集いでした。

次のシリーズは、まさに湯川邸から新しく発見された遺品の中から、まだ本のごく一部ですが、携わっておられる先生方から、紹介をしていただくシリーズです。

on-line cafe “湯川博士の贈り物 4”

おたのしみに