2024年12月06日

東日本大震災 ー 放射能の影響 2 - 食品とヨウ素

始めに

このスライドは、免疫学が専門である宇野賀津子常務理事を中心に、坂東理事長、松田副理事長の意見も取り入れ、ワーキーングチームの方々の意見をもとに推敲を重ねたものです。いろいろな場で活用されることを願っています。
併せて、あいんしゅたいんブログも参考にしてください。(ブログは日々更新されています。http://jein.jp/ から、ブログのチェックをお願いします。)

あいんしゅたいん情報発信グループ 文責:宇野賀津子(常務理事)

始めに

このスライドは、免疫学が専門である宇野賀津子常務理事を中心に、坂東理事長、松田副理事長の意見も取り入れ、ワーキーングチームの方々の意見をもとに推敲を重ねたものです。いろいろな場で活用されることを願っています。
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あいんしゅたいん情報発信グループ 文責:宇野賀津子(常務理事)

何故!甲状腺疾患を心配するの?

東日本大震災、続く津波、そして福島原子力発電所の事故で、放射性ヨウ素が周辺環境中に放出され、子供達に甲状腺がんのリスクが高まった事が大変心配されています。このスライドでは、何故放射性ヨウ素で、甲状腺がんのリスクが高まるのか、その科学的根拠は何か、現況において、そのリスクはチェルノブイリと比べてどの程度なのかを検証してみることにしましょう。

チェルノブイリ事故と甲状腺がん

福島原発からは発表によると、3月11日から4月12日までに大気中に放出された放射性のヨウ素131とセシウム137の総量を、原子炉の状態から推計したところ、ヨウ素の量に換算して37万テラ・ベクレルに達したと発表しています。内閣府原子力安全委員会も12日、周辺で測定された放射線量をもとに推計したヨウ素とセシウムの大気への放出総量は、3月11日から4月5日までで63万テラ・ベクレル(ヨウ素換算)になると発表しています。この量は、チェルノブイリ事故に比べてその1割前後であると言われています。
チェルノブイリでは事故後、広島・長崎のような白血病の増加は、認められなかったとのことですが、子供の甲状腺がんの比率が上昇したことが報告されています。原発事故で大気中に散布されたヨウ素は、雨に溶けて地中にしみ込みます。これを牧草地の草が吸い取り、牛がそれを食べるという食物連鎖で、放射性ヨウ素が濃縮されていったのです。
そこで、今回も、幼児に対する甲状腺がんのリスクが懸念されているわけです。日本における食品に含まれる放射性ヨウ素の暫定規制値は、甲状腺等価線量で50mSv(ミリシーベルト)を超えないように決められています。
チェルノブイリ事故では、最大50グレイとのことで、50グレイx1(ベータ線)x0.05(甲状腺組織荷重係数)=0.5シーベルト、となります。

甲状腺ホルモンの働き

なぜ、大気中に放射性ヨウ素がでてくると、甲状腺がんのリスクが上がるのでしょうか。
実は、人体のヨウ素の大半は甲状腺に存在しているのです。甲状腺は甲状腺ホルモンを作ります。このホルモンは細胞の代謝や交感神経を刺激します。また小児の成長にとって不可欠なホルモンでもあるのです。

甲状腺ホルモンと放射性ヨウ素

これは代表的な甲状腺ホルモンの化学構造です。" I " と書かれているのがヨウ素です。1分子に4つのヨウ素分子を持っています。放射性ヨウ素がたくさん入ってくると、このヨウ素部分に放射性ヨウ素が取り込まれた甲状腺ホルモンができます。

放射性ヨウ素と甲状腺障害

放射性ヨウ素を取り込んだ、ヨウ素がたくさん出来ると甲状腺は内部被ばく状態になります。その結果、甲状腺の細胞が障害を受け、甲状腺の機能低下や甲状腺がんになるリスクが高くなるというわけです。
子供の方が、代謝も活発で甲状腺ホルモンをより多く必要としていますので、その影響が強くでてくるのです。

安定ヨウ素剤と予防投与

安定ヨウ素剤を飲むと、甲状腺がんのリスクを減らせられると言われています。その理由は?

非放射性のヨウ素をカリウム塩にしたものが「安定ヨウ素」製剤として用いられます。 原子力災害時等に放射性ヨウ素を吸入した場合は、気管支や肺または、咽頭部を経て消化管から吸収され、その10~30%程度が24時間以内に甲状腺に蓄積されると言われています。そのため、非放射性ヨウ素製剤を予防的に内服して甲状腺内のヨウ素を安定同位体で満たし、以後のヨウ素の取り込みを阻害することで放射線障害の予防が可能であるのです。
この効果は本剤の服用から1日程度持続し、後から取り込まれた「過剰な」ヨウ素は速やかに尿中に排出されます。 また、放射性ヨウ素の吸入後であっても、8時間以内であれば約40%,24時間以内であれば7%程度の取り込み阻害効果が認められると言われています。この薬は副作用は少ないと言われていますが、ヨウ素への過敏症や、甲状腺機能異常を副作用として惹起する可能性があります。

食品とヨウ素

ヨウ素の必要摂取量は1日150μgとされています。大陸地帯では以前からヨウ素欠乏症が問題になっていました。実際、アメリカや中国ではわざわざ食塩にヨウ素を添加しています。その結果、ヨウ素欠乏症を減らすことが出来たと言われています。

ところが日本では、海産物を取っている関係で、十分にヨウ素は足りている状態にあります。諸外国からみるとむしろ取りすぎだとみられています。チェルノブイリ周辺の人達は、もともとヨウ素欠乏症の状態であったことが知られています。そして放射性ヨウ素に汚染された牛乳を事故後も、子供達は飲みました。その結果、甲状腺に放射性ヨウ素が取り込まれ、それが子供達の甲状腺に障害を与えたのです。

日本では事故後早くに汚染が懸念された牛乳は出荷停止になりました。従って現時点で、チェルノブイリの二の舞を心配する必要はないと思われます。今まで同様に、昆布だしの入ったわかめの味噌汁やひじきを食べる程度で、十分量のヨウ素を摂取できるでしょう。

日本における大気中の放射性物質の月間降下量

この図は、1950年代後半からの、東京周辺でのCs,Stの月間降下量をあらわした図です。1950年から70年にかけて世界中で原水爆実験が繰り返されました。その頃の放射線量は今より100〜10000倍の状態が長く続いていたのです。今、たとえ福島近辺でもこの時の量よりはずっと少ないレベルです。1986年に一過的に上昇が認められますが、これはチョルノブイリの事故の影響があらわれているのです。放射性ヨウ素は半減期が8日と短いのでここには現れていません。

今後も原子炉からの放射性物質の大量飛散が生じなければ、環境や人体に及ぼす影響について、今後注意が必要となるのが、半減期の長い放射性セシウムと放射性ストロンチウムです。
セシウムは、飲食物を通じて体内に取り込まれると、ほぼ100%が胃腸から吸収され、体全体に均一に分布します。
ストロンチウムは体内に取り込まれると、カルシウムと同様に骨に集まります。摂取が続く場合には、骨形成の盛んな成長期の子供で問題が大きくなります。
原発周辺で放射性セシウムの降下が観測されている地域では、放射性セシウムの濃縮が知られている管理されていないキノコやシダ類の山菜の摂取は、控えるべきでしょう。

追:放射性物質月刊降下量については、一部内容に検証不十分な点がありましたので訂正しております。こちら をご覧ください。

放射性物質がついたことが心配な野菜の扱い

 といっても、放射性物質のついた食物をできるだけ取らないに超したことはありません。放射性物質がついた食品はよく洗えば、大部分は洗い流す事ができます。また皮をむくことにより除去できます。

放射線を浴びた食品は、食べていいのでしょうか?
問題ありません。放射線は食品の中を通過するだけです。実際放射線を照射した、ジャガイモは芽がでるのを抑えることができるので、流通しています。

2006年9月8日付 New York Times社説

 

チェルノブイリ事故後、25年がたとうとしています。事故後20周年での検証では、事故による直接の被害は別として、周辺地域では子供の甲状腺がん以外は目立った障害は認めら得なかったという報告が大半です。ただ、特に固形がんリスクという点ではさらに今後も検証していく必要があるでしょう。一見がんの発生が上昇したように見えるデータもありますが、どちらかというと健診率があがったので、早期発見されたという場合が多いようです。
2006年9月8日付けのNew York Timesの社説が興味深いので紹介します。

結論

 

最後に・・・情報発信者からのお願い

このスライドを利用される方へ

東日本大震災、そして福島原発事故を目の当たりにして、幸い関西にいてこれらの影響をほとんど受けなかった私たちが「今何をすべきで、私たちに何ができるか」を議論した結果、研究者や科学教育に関心の高いNPO法人あいんしゅたいんの会員を中心に「情報発信グループ」を立ち上げました。

「日本大震災 ー 放射能の影響」シリーズは、同グループが発信する情報の1つです。急きょ作成したものですので、今後も皆様のご意見を取り入れつつ、よりよいものへと更新していく予定です。

従って、人にこの資料を紹介するときは、ダウンロードした資料を送るのでなく、リンク先を紹介するようにしてください。1週間もたてば、状況は変わります。私達も出来るだけ新しいデータをもとに適切な資料を作りたいと考えています。
http://jein.jp/ をチェックの上、最新版を使ってください。また、このファイルの一部を取り出して使用しないでください。本来の意図と違った形で、使われるのを懸念しています。

あいんしゅたいん情報発信グループ【担当責任者:宇野賀津子(常務理事)・坂東昌子(理事長)】