2024年10月07日

安易な「福島原発周辺地域における、児童避難準備の提案」に反対する

「福島原発周辺地域における、児童避難準備の提案」について協力の要請をうけました。(震災子ども安心ネット参照)

私自身は以下の様な理由からこの動きに対して、科学者が賛同し推進することは弊害の方が大きいと判断し、現時点ではこの動きに反対いたしたいと思います。
特に、最近の原発近くの福島県在住の方々から伝わってくる叫びは、風評被害に関するものが圧倒的です。そのような中で、科学者が安易に避難をよびかけるのでなく、これまであいんしゅたいんが、努力してきた、正確な情報を集め、時々の情勢に応じた対応を考え提案していくというスタンスことこそ、重要と考えました。

またこの判断には、福島の状況を刻々送ってくださる福島県立医大のサイト、またあいんしゅたいん会長のプログ資料「原爆実験とチェルノブイリ」および福島県医療生協わたり病院の齋藤紀医師の資料「正確に学ぶ放射線・人体への影響」を判断の中心的資料とさせていただきました。


福島原発からの、妊婦、小児、児童の避難活動を科学者が提案することの問題点

  1. 科学者(と自称する人達)がこのような形で、科学的根拠の検証をすることなく、漠然とリスクがあるからリスク回避行動(避難活動)の提案をするということは、研究者の役割放棄である。
  2. 現時点で問題になっているのは、風評をふくめ、理不尽な福島の方々に対する差別であり、これを助長する方が懸念される。
  3. 低容量放射線のリスクについては、評価の定まっていない部分もあるが、現時点での福島の方々のリスクは、晩発効果である発ガンリスクの上昇である。
    しかしながら、ガンリスクについては、ストレスなど他の要因の影響も大きく、放射線だけでなく、ストレス要因も含め総合的に考える必要がある。
    今すべきは、分野の異なる科学者集団がリスクを評価し、放射線の晩発効果低減に向けた現実的提案である。
  4. この提案には、児童避難のマイナス要因の検証が全く抜けており、現実的提案とは思えない。
  5. この提案は、エイズパニックが起こったときに、一つでもウイルスがいれば(ウイルスが含まれる血液が一滴でもつけば)感染のリスクはあると言って、感染者(およびその確率の高い血友病者)の登校を困難に追い込んだ、研究者の犯した過ちと同様の過ちを犯すものである。この発言は一見科学的なようで、現実に起こる問題を考えない、責任回避の無責任な発言であり、結果は人々を不必要な不安に陥れ、不必要な差別を助長したという経験に基づいています。

現時点で福島県内の状況は、原発内は別として、通常レベルの放射線濃度の10-100倍の範囲にあると推察されます。この放射線濃度は、1955-1970年代の原水爆実験が冷戦時代の、日本列島における放射線レベルに比べて、遙かに低い値であると考えられます(あいんしゅたいん会長のプログ資料「原爆実験とチェルノブイリ」)。
従って、この時点での一律の福島原発からの、妊婦、小児、児童の避難活動準備の提案には反対します。

但し、原発近住の自主的避難希望者に対しては、自治体、政府が十分に便宜を図ることは当然のことと考えます。
従っての避難を望む方をサポートするような赤ちゃん一時避難プロジェクトなどの動きに対しては賛同します。(これは晩発の発ガンリスクに対して、ストレスが大きなリスク因子であるという認識に基づいています。福島原発周辺地域においては、個人の判断を優先させることがストレス削減に繋がり、長期的観点から発ガンリスク低減に寄与すると考えるからです。)