2019年04月23日

 

評価委員のご紹介

科学技術振興機構(JST)、科学技術コミュニケーション推進事業、問題解決型科学技術コミュニケーション支援「ネットワーク形成型」に採択された、「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築」を評価していただく3名の外部評価委員の先生方をご紹介いたします。

 

   
志水隆一 評価委員   滝順一 評価委員   米倉義晴 評価委員

 

志水隆一評価委員

志水隆一(Ryuichi SHIMIZU)

日本学術振興会:産学協力会理事、総合研究連絡委会議・運営連絡委員会委員長、産学連携研究委員会委員長会議議長
大阪大学産学連携本部招聘教授
福島第一原発事故直後より日本学術振興会福島支援特別事業に従事

略 歴: 1964年 大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻修了(工学博士)
  1965年 大阪大学工学部助手
  1986年 大阪大学工学部教授(応用物性学講座)
  2000年 大阪大学定年退官(名誉教授)、大阪工業大学情報科学部 教授、リエゾンセンター長
  2011年 大阪大学産学連携本部特任・招聘教授
     
  この間、Tuebingen 大学客員研究員(1965)・フンボルト研究員(1966)・California大学(Berkeley)電気工学&コンピュータ科学科客員教授(1977)・フンボルト招聘教授(Max Planck Institute fuer Metall Forschung, Sttutgart、1995)
Surface&Interface Analysis Regional Editor(1998), ISO/TC201(Surface Chemical Analysis)国際議長(1998)
国際高等研究所シニアフェロー(2006))
 
一 言: 福島第一原発事故直後に、京都を舞台に坂東先生が展開された「放射線低線量被爆の人体への影響」についての市民講座は、市民(住民)と科学者が同じ目線でこの問題を直視しようという画期的なものでした。 私もその末席に連なり坂東先生の真摯な取り組みに深い感銘を受けた一人でもあります。 ? この度、JST科学技術コミュニケーション推進事業の一環として、「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーション基盤構築」(三年間)を推進されるに当たり、どのような新しい 展開を目指されるのか括目しております。近未来に想定される大災害への貴重な一石になることと期待してやみません。

滝順一評価委員

滝順一(Junichi TAKI)

日本経済新聞社 科学技術部編集局長付き編集委員

略 歴: 1979年 早稲田大学製時経済学部卒業
同年、日本経済新聞社入社 編集局産業部に配属
  1981年 日本経済新聞社新潟支局
  1984年 新潟支局科学技術部・同局国際部
  1989年 米州総局ワシントン支局
  1992年 編集局科学技術部
  1993年 大阪本社経済部編集委員 
  2002年 編集局科学技術部編集員
  2004年 編集局科学技術部長
  2007年 編集局科学技術部編集委員
  2009年 論説委員を兼務
  2016年 科学技術部編集局長付き編集委員

米倉義晴評価委員

米倉義晴 (Yoshiharu YONEKURA)

医学博士(京都大学)
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)議長

略 歴: 京都大学医学部医学科卒業同大学院医学研究科博士課程単位修得退学
  1995年 福井医科大学高エネルギー医学研究センター・教授、同センター長
  2005年 「国際放射線防護委員会(ICRP)」第三専門委員会(医療放射線防護)委員
  2006年 独立行政法人放射線医学総合研究所・理事長
  2007年 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」日本代表
  2011年 日本学術会議会員
  2015年 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」議長
  2016年 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構・理事長顧問
 
専 門: 放射線医学、核医学、放射線防護。主な研究テーマは機能画像医学で、特に陽電子断層撮影(PET)による循環代謝画像法の開発、脳機能画像の研究
 
著 書: 『臨床医のための核医学検査 -脳-』(金芳堂 1991)、『脳のイメージング -脳のはたらきはどこまで画像化できるか-』(共立出版 1994)(共著)、『知っていますか? 医療と放射線』(丸善 2007)(共著)など。
日本核医学会賞(1985年)
 
一 言: 放射線は目に見えないし、それを感じることもできないので、普段の生活で私たちが放射線を意識することはありません。しかし、目に見えないからこそ、原子力事故や放射性物質の漏えいなどによってまき散らされた放射性物質が、私たちの身体にどのような影響を与えるのか、とても不安になります。
? 放射線の影響を科学的に明らかにするためには、これまでに報告された多くの論文や膨大な実験データを客観的に見直して、何がどこまで明らかになっているのかを取りまとめる作業が必要です。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、放射線のレベルと影響に関するデータや論文を科学的に取りまとめて毎年国連総会に報告しています。UNSCEARはあくまで科学的な評価を行う委員会で、その報告を参考にして他の国際機関や各国政府が防護の仕組みや施策を決めています。
? 放射線に関する科学的な知見を、専門外の方々にどのようにしてわかりやすく伝えるかが大きな課題だと思っています。放射線は目に見えなくても測ることができます。それに加えて、これまでの科学的な知見を正確に理解することが、本事業の達成に役立つものと期待します。
 
評 価: 科学技術振興機構(JST)の支援を受けてきた「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築」が事業の最終年度を迎え、これまでの活動の取りまとめの会議が開かれた。2019年3月8日に京都大学・東京オフィスにおいて開催された「放射線研究・・・今後の展望と異分野交流」の会議には、放射線の人体への影響に関心を寄せる一般市民から、ジャーナリスト、産業界、そして放射線科学を専門とする研究者まできわめて多様な背景を持つ参加者が集まり、それぞれの立場から活発な意見交換を行った。翌3月9日には、前日の議論を受けて「市民と科学者の共同作業を進めるために」と題する討論会が開催され、福島において問題となっている甲状腺がんの検査や個人線量評価など個別のテーマについて議論が進められた。
本事業では、低線量放射線の生体影響に関する様々な考え方や意見がある中で、低線量放射線の人体への影響について市民と科学者が共通の場で意見を交換できるネットワークの構築を目指してきた。市民と科学者の垣根を取り払い、さらに科学者がそれぞれの専門性の枠を超えて率直な意見交換と議論を進めてきた。その中で、現在の科学で明らかにできることの限界や、その情報を幅広く市民に向けて発信することの困難さといった課題が浮かび上がってきた。この2日間の会議においても、異なる考え方を持つ人々が激論を交わす中で、参加者の意識がお互いの立場や意見の相違を乗り越えて、科学的エビデンスに基づいて放射線の生体影響に関する共通の理解を深め、その情報を発信する方向へと意見が集約されていったことは興味深い。
本来、科学者もまた一市民としての立場があり、市民と科学者は対立する構造ではない。ところが、原子力発電所事故のような異常事態が発生すると、それによる被害を受けた立場の市民と、客観的な立場から科学的事実を説明しようとする科学者の間には、意識の点で大きな乖離が生じてしまう。単に安全であるという説明だけでは逆に不安を増大させ、科学者に対する不信感を招くことになる。科学者や研究者は、自分たちの専門領域の知識や情報には精通しているが、他の領域を幅広く見通すことは必ずしも得意ではない。異なる専門性を持つ研究者が分野を超えて協力することによって、科学技術の新たな展開が生まれるが、このような異分野交流が成功する鍵はお互いの専門的立場の相互理解から始まる。市民と科学者の垣根を超えた交流を進める上でも、お互いの立場を理解することが出発点となる。さらには、率直な市民感覚からの問題提起が新しい科学の礎となる。このような活動を進めることによって、低線量放射線の影響についての共通の理解を深めるための基盤が構築されつつあることを実感した。