2024年04月17日

あいんしゅたいんアピール:「京都未来を担う人づくり推進事業」への応募者に対する年齢制限を問う

<「京都未来を担う人づくり推進事業」への応募者に対する年齢制限を問う>


世界的な景気悪化に伴う地域経済の後退が危惧される中で、就業機会に恵まれない人々が増加しています。その一方で、京都府内の企業では、人財の雇用ニーズがあるにもかかわらず、優れた人材の採用が困難であるといいます。
こうした状況下において、京都府は、産学公連携による京都の未来を担う人材の育成を目的とした「京都未来を担う人づくり推進事業」を立ち上げました。経済団体、労働者団体、行政関係機関など京都の総力をあげて、山田知事、門川市長、京都大学の松本総長、大学コンソーシアム八田理事長、京都商工会議所立石会頭の五者が、「中小企業等の経営安定と雇用の維持・確保のための緊急アピール」を採択し、発表しました。

この事業は、京都府内企業への中核即戦力人財のマッチング・供給をめざして、産学公連携による人財育成プログラムの開発を目指しているということです。そして、京都大学・京都工芸繊維大学・京都府立医科大学・京都府立大学、京都学園大学・京都産業大学・同志社大学・立命館大学・龍谷大学の10大学が、人材育成人財養成講座(原則6ヶ月:最長1年間)をもうけて、実習をまじえた訓練の場を提供しております。このあと、企業研修期間に人材のマッチングをサポートし、就労にまで至るキャリアパスを提案するということです。この事業の1つとして、若年求職者約100名の募集要項が発表され、6月22日から7月10日までの募集期間が設定されました。

ところが、この採用対象者は、満35歳未満(平成21年9月1日現在 ただし,看護コースは満40歳未満)と言う条件が付いていることを知りました。これは、私どもにとって、大変遺憾な措置であると考えます。

私たちは、科学の先端を切り拓く術を学び、科学的知識と技能を備えた人材が、その能力を活かして働くことができない状況を改善し、有能な人材が、より多様な分野で活躍する場を切り開くため、知的人材ネットワークを結成しました。働く場がない今日の現状は、当人にとって不幸であるばかりでなく、社会にとっても大きな損失であり、今こそ座視せず行動すべきではないでしょうか。

以上のように、大学院で学び知的人材が社会に有用に活用されていない問題、いわゆる「ポスドク問題」は、非正規雇用という社会的問題になっております。このポスドクの年齢は、例えば2004年の文部科学省科学技術政策研究所・科学技術・学術政策局の「大学・公的研究機関等におけるポストドクター等の雇用状況調査」みても、35歳以上の割合が26%を占めています。この調査では、ポスドクの数は、全部を網羅してはおらず、海外ポスドクをはじめ、かなり漏れがあると想定され、低年齢層の方にシフトしていると想像されます。しかも、2004年以後も年々高年齢の方へシフトしていることが推定されますので、現在では30%は優に超えているでしょう。こうした状況を鑑みると、採用の対象者として、35歳という年齢制限を設けることは、実情をそぐわない対策としか思えません。

特に、ご注意願いたいのは、年齢層の高くなるほど、女性の比率が増加していることです。こうした制限は、年齢による差別や女性への差別といった結果を生み出しています。

何よりも大切なことは、厚生労働省の通達「募集・採用における年齢制限の禁止について」にもあるように、雇用対策法が改正され、2007年10月から、事業主は労働者の募集及び採用について、年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないこととされ、年齢制限の禁止が義務化されました。現に他府県の雇用対策促進事業では、履歴書に年齢や性別を明記することが禁止されているということです。

真に、京都の未来を構築する力を必要とするなら、こうした年齢制限を設けず、人物の能力と可能性をしっかり見極める事が必要です。機会均等とは、働く意欲の高い、能力のある人なら、性別や年齢に関わらず等しく選考の対象に加えるということです。特に、様々な形で、自らの資質を養ってきた博士をはじめとする知的人材の場合、その資質を養うために、多大な年月を費やしています。それに加えて、社会や企業が必要とする新たなスキルを養うことは、それまで培った基盤の上に花咲くすばらしい可能性を秘めています。これまでもそのような人材が、どれだけのことを成し遂げていたかを、私たちはたくさん見てきました。

そもそも、人間を年齢や性別や国籍によって判別するのは、人権の侵害ですし、なによりも、未来を作る事を目的にする事業にとってもっとも忌避すべき態度ではないでしょうか。行政が年齢制限を課すとは、信じがたい憲法違反です。兵庫県の同様のプロジェクトでは、年齢、性別などは不問です。実際、35歳以上に方が採用されているということです。
※ 兵庫県の例は、こちらをご覧ください

この採用条件における年齢制限を削除し、本当に必要な人材をしっかりと採用することが、緊急に必要なことではないでしょうか。ご一考を心より期待しております。

NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん
名誉会長 佐藤文隆    理事長 坂東昌子