「あいんしゅたいん」でがんばろう 24
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2010年10月24日(日曜)13:21に公開
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作者: 佐藤文隆
京都STSフォーラム「おこぼれ」
あまり一般の科学者には知られていないが、毎年、十月の初めに、STSフォーラムというのが宝ヶ池の京都国際会議場で開かれている。今年はもう七回目のようである。ダボス会議の科学技術版という触れ込みで、かたちの上では主催はこの会議専用の団体だが、実質は総合科学技術会議や内閣府の肝いりでやっているのだと思う。多分、高額の会費制なのだろう。海外から各国の企業やアカデミーの幹部や科学技術政策担当者が集る。科学技術担当大臣の所管だが、多くの場合は首相もやって来て挨拶をしている様だ。今年は海江田大臣だけのようだが。
こんなん見て来た様な話をすると、「お前は出席したのか」と言われそうだが、私ごときは出たことがない。「では、なんで興味もっている?」と聞かれるだろう。知る様になった理由は以下の如しである。日本では「我々ごときには関係ない」が、海外から招待されてやってくる学者には、時々、宇宙や素粒子の偉いさんが含まれているからである。今年も素粒子実験でノーベル賞のFriedmannさんが記念講演をしたようだ。
2006年夏、突然、ケッブリッジの30年来の友人であるReesさんから「お前も出ると思うが、京都に行くからめし食べよう」とメールが入った。彼はえらい出世して当時はRoyal Society の会長であり、after-dinner-speechをする為にやってくるのだという。それ迄、私はそんなものの存在も知らなかったが、準備事務局と連絡して日を定めて、京都への客だから費用はこっち持ちだろうと、値段もリーズナブルな京大時計台会館の食堂を予約して、京大にいる私の元学生の教授二人とで待ち受けた。そこに彼がやって来て、殆どサイエンスの話しで議論が盛り上がった。「今日は私が--------」という支払いの段になると、ついてきた英国人が英國領事館の人だった様で、「こちらで払います」となったが、そんなことなら祇園あたりでも予約しておいたのにと、平民科学者は思った次第であった。
今年は、STSフォーラムのafter-dinner-speechはオランダ科学アカデミーの会長だったのか、京都にやって来たので、フォーラムの席とは別にオランダ大使館がアレンジした料亭での宴席があった。この会長さんが素粒子のストリング理論の理論物理学者の人なので、私もお相伴にあずかった。ドイツのアカデミーの幹部の方もいた。驚くことにオランダのこの会長さんは50歳なのである。新興国ならともかく、オランダの様なサイエンスの老舗国家で、こんな若造がそういう地位にあるのだ。彼の先生がノーベル賞受賞のトフーフトであり、僕より若い。もっともこれはオランダでも異例で、変革期の危機意識の表れのようだ。
同じ頃、やはりこのSTSフォーラムにやって来た英國の科学者の講演が大阪科学技術センターであり、聞きに行った。英國領事館との共催である。この人はあのファラデーレクチャーの王立研究所の会長みたいで、Royal Societyも副会長にようだった。今年はRoyal Society350周年の記念の年なので、そんな話をして、英國科学の強みは長い伝統、自由な教育、研究界の国際性の三つだと言っていた。質疑となり、幾人かから科学技術の世界で「日本は大変だ」という発言が続いた。あまりの愚痴に彼は切れたように「世界中どこも今は大変で、日本ほどうまくいってるとこはない。日本は10パーセントカットだが、英國は25パーセントカットだ」と、べらべらと喋り出した。その雄弁さに拍手がおこるほどだった。私も思わず拍手した。講演後、彼の同僚のReesさんによろしくと挨拶に行って、すこし喋ったが、「あなたのいう事は正しい」と言ったら「そうだろう」と我が意を得たりという風であった。
本題にかえると、問題提起は、STSフォーラムという日本政府が世界の科学技術界でプレゼンスを増すためにやってるものと、日本での一般の科学者との関係である。毎年、京都であるのに京都や関西の大多数の研究者はその存在すら知らないと思う。それなのに海外からの招待者には我々の知っている人も時々やってくる。上に書いた私の経験は、海外からの参加者を通じて、垣間見たSTSフォーラムの一旦である。足元の京都の研究者がやって来たガイジンさんからの「おこぼれ」話しか知らないというのはなんとも奇妙は話である。どうも海外での宣伝の仕方と国内の実情が整合しているのかを訝るものである。