遊具を使って…力のつり合いや運動を考える(ブログ その93)
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2012年10月01日(月曜)06:38に公開
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作者: 坂東昌子
「ある夕方、一生涯善良なカトリック信者であったガリレオは、ピサの寺院で説教を聞いていた。そのとき彼の目を引いたものがあった。それは礼拝堂の天井につるされた、大きなつりランプであった。それに番僧が火を灯していったばかりで、つりランプは左右にゆれていた。ガリレオはランプの振動をじっと見つめていた。その振動は、次第に小さくなっていく。彼の目は、次第に熱をおびてきた。彼はいつの間にか、じぶんの脈をはかっていた。彼の頭には思いがけない考えがうかんだのだ。・・・・」
これは、少年少女科学名著全集7(国土社 板倉聖宣ほか)に収められている「ガリレオの生涯」の中にでてくるものです。
1982年、ガリレオは、ピサ大学の医学生、18歳の時のことでした。
わかります? ガリレオが、礼拝堂でみつけたこととは? なぜ脈をはかったのか?
ガリレオの時代は、モノがどのように運動するのか、その規則がわかっていませんでした。そして、「アリストテレスが言っているから正しい」とか「アリストテレスの本にかいてないから間違いだ」などといって、大学の勉強とはアリストテレスの説をしっかり教えるのが大学であったということです。先ほどの本によると、イギリスのオックスフォード大学では、先生たちがアリストテレスの説や論理に少しでも違反すると、その度に5シリングの罰金を取られる、という学則があったのだそうです。ガリレオは、「人々は権威に頼るだけで、事実をもって証明しようとはしない。馬鹿げたことだ。」といったそうです。
ほんとに! 今の世の中でも、こうした安易な態度が出回っていることを感じています。私たちが、「低線量放射線」の勉強会を始め、情報を発信しようと考えたのも、こうしたいきさつもありました。
私は物理が専門ですが、教員免許更新の授業で、学校の先生方と直接お話をする機会を得ました。この時の感想に、「物理といえば、小学校の滑車の問題など思い出します。それと高校では、ものをこう投げたらこう落ちたなど、面白くなかったイメージがあります。ここへきて物理のイメージが変わりました。どうしてこんなことが起こるのか、なんで? ということをワクワクしながら分かっていくことが物理の面白さなのですね」と言ってくれました。そうなのです。モノの運動だって、ここまで分かってきたのはガリレオからニュートンへ、たくさんの謎を1つ1つ解決してきたからなのです。ホントに推理小説より面白いのです。
さて、ガリレオの場面にもどりましょう。
この揺れを見て、「あ、大きく揺れているときも、小さく揺れているときも、止まる寸前でさえ、往復にかかる時間は同じだ!」(振り子の等時性)ということにガリレオは初めて気がついたのです。当時は、時計というものもありませんでした。ですので、時計の代わりに脈拍で時間を図ったのでした。実は、このあと、彼は、患者の脈を測るプルシロギウム(脈拍計)を考案したということです。また、晩年になって世界最初の振り子時計を設計したのだそうです。(注:ピサの礼拝堂でみたのは、シャンデリアだとか香炉だとか、いろいろの説があるので、ほんとのところ、どのような状況でこの法則を見つけたのかはわかりません。ただ、振り子の等時性を見つけたことだけは確かです。)
今度の秋から始まる「親子理科実験教室(秋~冬コース)」は、こうしたモノの動きを確かめていきながら謎を解く過程をたどるものではないかと思います。山下先生は、これにすごく力を入れてくださっています。学校では、なかなか時間の余裕がないからでもありますが、この謎解きの面白さをじっくり味わうことができません。
実は私も、高校で習った物理は、たしかに、ものを投げたらどう落ちるか、みたいなことを、ニュートンの運動方程式、F=ma を使って計算していたのですね。ところが、大学に入って、力学を田村松平先生に教えてもらった時、先生が、「ニュートンのこの運動方程式をみて、感激しないのは、物理が本当に分かっていないことだ」といわれ、ショックを受けました。力とか運動とか、ということが、どのようにしてわかってきたのか、それを人間がだんだんわかってきたいきさつを見てみると、はじめて、力って何? 運動ってどういうこと? と謎がわいてきます。推理小説を読んでいる時のように。ドキドキワクワクしながらわかってくる。そんな経験を子供の時に持つと、価格を学ぶのが楽しくなるはずです。
第1回の準備の過程で、山下先生から、「シーソーを運びたいのですが、お金がかかるのでどうしましょう」という相談がありました。山下先生は、「予算的に厳しくても、心意気は私も発揮しなければなりません。参加していただく児童の皆さんには、なんとか本物のシーソーを使いたい」とおっしゃり、この熱意で、とうとうシーソーがお目見えすることになったのです。これは山下先生が手持ちの教材として開発されたものです。どんな工夫がしてあるのか楽しみです。その写真をご紹介します。
「親子理科実験教室(秋~冬コース)」は、いろいろな行事も重なることもあり、まだ定員までに余裕があります。子供たちが、知識を沢山持つだけでなく、もっと知りたい、どうして人間は色々の事が分かってきたのか、それはどんなにわくわくすることか、そういうことをぜひとも、私たちの実験教室で実感していただきたいものです。
さて、山下先生は、どのようにして、子供たちに、力や運動を実感させられるのでしょう。電磁気を中心に展開してきたわが親子理科実験教室も、この春には、「化学」を中心にしたシリーズ、そして秋には、シーソー遊びから始まる新しいテーマ:シーソーから重心への気づき、そして、シーソーからてこへ・・・いよいよ「力・運動・エネルギー」という問題を新しくシリーズとして展開することになりました。
山下先生に感謝です!