佐藤さんの受賞(ブログ その196)
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作成日 2024年11月19日(火曜)12:00
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作者: 坂東昌子
佐藤さんが毎日出版文化賞を受賞されたことを聞いて、「まあ、佐藤さんはほんとによく本を書くなあ、いつまでも好奇心にあふれて」と感心する。
この本は月刊誌「現代思想」に連載したものをもとにしているということだから、2~3年書き続けておられたのだろう。この佐藤さんの本はつい最近、2024年の出版である。
来年2025年は量子力学100周年で、国連が「国際量子科学技術年」と定めた。
国連が2025年を「国際量子科学技術年」に宣言:量子科学の未来を祝う年次イベントが始動|Silvia Network | WebX
量子力学の発展には2つのフェーズがある。当時、古典力学、電磁気学など、ほぼ自然現象の基本になる科学の基本が完成しており、「あとはこれらの法則を適用して自然現象を説明するだけ」と言った雰囲気の中で、新しく、極微の世界である素粒子や原子核の構造がわかってくるにつれ、古典力学では理解できないいろいろな現象が出てきた。
これらの奇妙な謎を解くのに、たくさんの天才科学者が様々なアイデアを出した。この極微の世界では、ものは2重人格を示していた。光は波だと思っていたのに粒子のような振る舞いをする。電子は粒子と思っていたのに、波のような振る舞いをする。これを理解しようとたくさんのアイデアが出たが、一向に統一的な理論が見えなかった。
1925年になって、初めてハイゼンベルグが行列形式を使って定式化したのが突破口で、続いてシュレーディンガーの波動方程式が提案され、しかもこの2つの異なった方程式が数学的に「等価」であることがわかり、「量子力学」が誕生した。
これで今までできなかった現象が精密に再現できるようにはなったが、常識的に今まで見てきた現象と直感からは奇妙な法則なので、その解釈の論争はずっと続いてきた。解釈をあまり気にしなければ、量子力学は、物理学、化学、工学、生物学に適用され成功を収めた。さらに、情報科学という「もの」から「こと」への分野にも広がって進展をとげている。
国際量子科学技術年という名前には、科学だけではなく技術も明示された名前が付けられているのは興味深い。この情勢の中、佐藤さんの「量子力学の100年」が出た。
それで思い出したが、昔基研で「学問の系譜」での佐藤さんの講演〈2003年〉である。
量子情報 : 湯川・朝永のやり残し(まとめにかえて,基礎物理学の現状と未来-学問の系譜・湯川・朝永をうけて-,研究会報告)
そこから、抜粋してみると・・・・
「最近、急に私は ” 量子力学の佐藤”という感じになっている。宇宙じゃなくて。数理科学別冊で『量子の新世紀』が出て、巻頭を私が書いている。表題の『いま、量子力学とは?』の『いま』とは、要するに量子情報とかで盛り上がっているいまという意味です。
量子力学とは何だろう?量子力学は物質の科学のツールとして発見されそこで大活躍した理論であるが、それどまりのものだろうか?という問題提起である。もっと広い意味での情報処理的な理論なのかということです。「量子力学は何の理論か?」という問いかけです。もうちょっと各論的に言うと、『時間と量子力学』『力学時間と認識順序としての時間』といった議論は最近廃れているが、重要だと思う」
佐藤さんが20年前に、すでに新しい科学技術への視座で量子力学を評価していたことに、さすがという思いである。
今私は、「量子力学で生命の謎を解く」という本を読んでいてワクワクしている。量子論が一番その威力を発揮しているのはひょっとして生命現象かもしれない。生命の起源と量子論がさらに発展して、光合成の神秘や酵素のすごさだけでなく、脳の構造脳科学とのつながりなど、外部刺激が電磁気情報として脳から脳幹を架け橋にして、体全体を動かす仕組み、生命の起源に迫るワクワクする謎ですね。
「もう残り少ないとなると、勉強したいことがいっぱい出てきます。ものすごく多いです。いままで研究してきたことなんかもういいですよ、ともかく次々と興味が発散しちゃって・・・」(上記佐藤さんの講演抜粋 一部省略)
わかるなあ、私も今は宇宙の起源と生命の起源のつながりが知りたい。でも私は今まで研究してきた素粒子論の肝心の謎を解けないまま、定年になり、生物の勉強を始めて、やり残したこと、やっぱり「もういいです」とは思えず未練がある。
一度佐藤さんの話を、わがあいんしゅたいんでお聞きする会を開きたいな、新春にふさわしい話かも・・・