2024年10月11日

第32回:「猫と語る -その2」by 青山

このところ,夜には,サイエンスニュースのために作詞をしたりしている.昨夜もイメージを膨らませながら眠りについたが,夜中に居候猫のドロンコ(♀)がまた,ベッドの枕元にコトリと乗ってきて,目が覚めた.

ドロ「ねえ.」

おっと,この前(第22回)は猫たちと夜中に話し込んでしまい,おかげで朝起きても人語になかなか戻れずに苦労したので,無視した方がいい.....

ドロ「ねえねえ!」
私 (寝たふり)
ドロ「ねえねえねえ!」
私「ぐーぐー」
ドロ「あはは,寝たふり丸分かり!」
私「オッケーオッケー,ギブアップするよ.なんだい,ドロちゃん?」
ドロ「私,ジローちゃんがお空に昇って行ってしまってから,なんだか空っぽになっちゃってね.」
私「うん,僕もだ.そうだ,気分転換に,最近印象に残った話をしてあげよう.」
ドロ「しょがないな,それでも聞いてあげるよ.」
私「人を起こしといて,恩着せがましいなぁ.まあいいや,可愛いから許す!これはどう?」

私はサイドテーブルに積んである紙束から一枚のプリントを取り上げた.そこにはこう書いてある.

The object of a liberal training is not learning,
but discipline and the enlightenment of the mind.
The educated man is to be discovered by his point
of view, by the temper of his mind, by his attitude
towards life and his fair way of thinking. He can see,
he can discriminate, he can combine ideas and perceive
whither they lead; he has insight and comprehension.
His mind is a practised instrument of appreciation.
He is more apt to contribute light than heat to a
discussion. ... He has the kowledge of the world
which no one can have who knows only his own generation
or only his own task.
What we should seek to impart in our colleges, therefore,
is not so much learning itself as the spirit of learning.
(Woodrow Wilson, The spirit of Learning, 1909)

ドロ「これはすごいわ!」
私「さすが,ドロちゃん.大学で野良猫やってるときに,英語教室事務の人たちにもゴハンをもらっていただけのことはあるね.」
ドロ「変な褒めかた!でも,あのお姉さん達は私の模様が似ているからって,ミュージカルの"Cats"からとって"Demeter"って呼んでくれてたよ.私はあの名前の方が好きだったなぁ.それをもじって『泥んこ』なんて"D"しか共通点はないじゃない!」
私「あはは,ごめん.でも,君の, 人間には到底発音できない内緒の本当の名前も "D" から始まるんだろ?」
ドロ「え,なんでそれを!(足の裏に汗)」
私「あはは!とにかく,彼が述べてるのはまさに大学教育の真髄だね.私もそんな大学教育を受けたいよ.」
ドロ「あれあれ,それはないよ(笑).アッキーの言うべき台詞は,気取って,『私はそんな大学教育を目指している!』でしょ.」
私「いやいや,僕はまだ未熟者で,とてもそんな教育は....でも,物理の教育にもそれに通じるところがあると思うよ.大事なのは導き出した結果じゃない.それに至る思考過程,その全体としての調和感,それらの結果の奥にある深い繋がり....う~~ん,この人ほどにうまく言えない.眠たいせいだ...むにゃむにゃ...」
ドロ「また寝たふり見っけ!」
私「ばれたか,ごめんごめん.さて,もう一つ,読んで欲しい文章があるんだ.これはルーズベルトのでね...」
ドロ「もうおなかいっぱい.次にするよ.でも,ありがと,あっきー.おやすみ.」
私「うん,おやすみ~~~Zzzz....」
ドロ「今度はほんとに寝ちゃったわ.疲れてるみたいね.明日はまた『力学続論』の講義だね.じゃあ,人語がしゃべれるように戻しておいてあげよう.」

と呟いたドロちゃんは私の眉間の辺りで何か前足でゴソゴソとやっていた.しかし,私はそれが何かを確かめる間もなく,深い眠りに落ちていった.

〈doronko〉