2024年10月05日

第25回:「物理屋の老後」by 小無

昔,物理屋は年をとると何をするかというのに,朝永ルールというのがあって
1. インチキ物理をやる
2. 政治をやる
3. 何もしない
の3パターンがあるという話があった.
まあ,この朝永ルール自体出所がはっきりしないし,誰かが勝手に名付けたと思われるのだが.

若い頃は「ふ~ん」だったものが年を経て「当たっているかも」と思い始めるようになった.
そんな折フト本屋で目にとまった本がある,どこかで聞いた名前を思い出し手に取ってみた.

S・シン著 青木薫訳の新潮文庫「フェルマーの最終定理」や「宇宙創生」である.

別段「フェルマーの最終定理」の証明を理解しようと思っているわけでもない.
また「宇宙創生」の間違いを突っ込もうという気持ちもない.
長年教養学部(今はないが)で物理や科学入門を講じてきた者にとっては,アレッと思うところがないわけではないが.

じつは最初は訳者の名前の懐かしさで読み始めたのだが,少し読んでいる間に訳のうまさに惹かれてしまったのである.
まるでこの本全部を自らが書いたかのような書きっぷりである.訳者後書きを読めばすぐに分かるが,文体が自分の部分と訳の部分で同じなのである.
訳したとは思えない文章が連なり思わず一気に読み終えてしまった.

我が輩の訳は他にない高尚な訳である,なんて所はみじんもない.
多くの人に読んでもらいたいという気持ちが伝わってくる訳といえばいいのだろうか.
読者を常に念頭に置いてあるような.とにかく読みやすいのである.

ところで,我々は今NPOで科学普及という活動も行おうとしている.若い人々に科学のおもしろさを伝えようとするのだが,
私などは,プレゼンツールや実験器具をしこたまそろえて,「ねっ,科学って面白いでしょう」と押し売りするのだ.
しかし,どこまで分かってもらえるのか,もらえているのか,はなはだ心許ない.
ところがなんと上記の「フェルマーの最終定理」に至っては16刷を重ねている.物理や数学を専門に勉強した人だけが買ったのでは16刷も売れるわけはない.いかに一般の人に支持されているかが分かる.

私の科学の押し売りは,手頃な教材を見事な訳で・・には勝てないのかも.いやもっと頑張ろう.

ということで4番目と5番目
4. 科学の普及に励む
5. 良い科学本の翻訳をする
というのもありかなと思っている今日この頃である.

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