2024年12月08日

恥ずかしい間違い・・・ミクロとマクロ(ブログ その47)

この1年の成果である「教材」完成品が20篇あり、YouTube上で見られるようになりました。そのうち1つは、「地球はなぜ暖かいか」という大人の教材1篇ですが、その他19編は、「電気磁気」をテーマにしたモジュール教材です。さらに完成品をこれからアップしていくつもりです。

ところで、これにちなんで書いたブログ46「教材公開に込めた思い」をお読みになって、「坂東さんは、いつ誤りを正すのだろう」と思われた方がいらっしゃるのではないかと思います。

実は、この中で、大学の電磁気授業をご担当の田中耕一郎さん(京都大学教授)との話が出てきます。そこに、

「電磁気学は、マクスウェルが完成した古典電磁気学と、19世紀に生まれた新たな量子力学の枠組で完成した量子電磁気学という理論があります。マクスウェルの理論では、マクロな量、電流・電圧・磁場 と物質の電磁的性質を表す、誘電率、透磁率などのマクロな量、 を使って語られます。しかし、実際に物質が原子からできているのですから、この原子の配置や性質から、いろいろな電磁気に関するふるまいを説明しようとすると、量子電磁気学で解くことが必要になってきます。そうすると、その間を繋ぐ理論というか処方が必要になります。ナノテクノロジーの時代に突入している現在、この間を繋ぐよりリアルな探求が必要になってきたのです。原子の性質が、マクロな世界でどう発現するか、それが分かってくると、原理に基づいた技術がさらなる発展をするに違いありません。その意味では、基礎科学と社会のつながりを深める素晴らしいネットワークがここに秘められているのではないでしょうか。」

という文章があります。

わざわざここで誤った箇所を繰り返し紹介すると、余計目立つのですが、私としては、間違いなら、修正して謝らないといけない、と思いました。「黙って削除したら?」ともいわれましたが、やはり、率直に謝った方がいいと思います。

さて、この文章について、ブログの上げた直後、ご意見を頂きました。1つは、

「この文脈に違和感をもちました。古典電磁気学ではなく量子電気力学が必要になるのは数ピコメートル以下のオーダーだったと記憶しています。これはナノスケールより遥かに小さいオーダーであり、確か現在のナノテクノロジーでは古典電磁気学で十分なはずです。あまり自信は無いのですが。」

というものでした。NPO会員でもあり、親子理科実験教室の運営にかかわっていただいた上田倫也君からです。ついでながら、彼は、大阪大学大学院理学研究科博士課程3年、もうすぐご卒業で、4月から科学教育関係の会社に就職されます。

私は、この段階でも、まだシステムを支配している力学が古典力学か量子力学かということと強く結びついたミクロとマクロに対するイメージを変えるには至らず、

「田中さんとの議論からわかったことは、マクロな量の定義に、例えば、物質に電磁場が働くとき、さらに物質自身が誘起するリアクションの効果をマクロな量の定義にどう取り込むかの問題のように思えます。確か透磁率の議論をしていた時、このあたりの検討がされないまま、電磁量子力学に突入したようなお話だったと記憶しています。」

と返事しました。

ところで、そのあと、また、「違和感があります」として、田中さんを訪問して一緒に議論した松田卓也さんから、

「田中先生は、ミクロレベルで量子電磁気学が必要ということではなく、Maxwellequationにはミクロの方程式とマクロの方程式があるということだと、私は理解しました。」

として、例えばミクロとマクロのマクスウェル方程式を参考資料として紹介していただきました。「Table of 'microscopic' equations」「Table of 'macroscopic' equations」です。

このお二人とも、「違和感」と書かれていましたが、実は「間違いじゃないの?」といいたかったのだと思います。2人に同時に言われて、やっと、私が誤解しているらしいことに気が付きました。そこで、私の誤解が田中さんの見識に対する誤解になるといけないので、問い合わせました。そしたら、

「Maxwell equationにはミクロの方程式とマクロの方程式がある」ことを言われ、さらに、電磁気学のなかにある分極、磁化という概念について「これらの量は分子レベルのミクロなMaxwell equationでも存在していて、古典電磁気学では現象論的に扱われます。しかし、実際は、電磁場と物質の相互作用を量子力学で取り扱う必要があります。この場合でも、ほとんどの場合は「光子」を量子化する必要はなく、いわゆる半古典近似で量子力学をとけばよいわけです。
マクスウェルの理論で、ミクロとマクロをつなぐ仕事がほとんどなされてこなかったことが、20世紀に量子力学が確立した後のあとに「光物性」などの物性論のほうで議論されてきました。そこでは、古典電磁場が原子、分子、結晶とどのように相互作用し、電流(J)を生み出すかを量子力学で計算しています。 量子電磁力学が必要になるのは、たとえば、励起状態の自然寿命を議論する場合だと思います。このような量は、上記の議論では現象論であたえています。田中耕一郎」

というお返事をいただきました。

以上のやり取りの内容はともかく、私が田中さんの発言を誤解して受け止めていたことだけは確かです。私の誤解は「ミクロ」といえば原子レベルのことだから、そこでは、当然量子電磁気学が必要だろう」と勝手に誤解していたことです。古典論であるマクスウェルの方程式に出てくる物質のマクロな性質をあらわす定数の計算が、古典論で十分なのだということの認識が足らなかったのです。田中さんの意見にあるように、量子力学の計算が必要になってくるところは、「現象論」で答えを与えているということでした。

ブログに書いた内容について、誤りを指摘していただいたことは、私には、とてもありがたいことでした。議論のネットワークが広がり(といって、今回は、もお二人とも議論をよくしていた方々でしたが)、思い込みを糺すことができ、恥ずかしながら訂正することにしたのです。

ブログ46は、1月24日ですから、すでに1か月がたってしまいました。もう忘れたころかもしれません。あるいは、「坂東さんはいつ誤りを修正するのだろう。しないつもりかな」と思われた方もあるかも知れません。このブログを書くのが遅くなったのは、当法人の次の活動を保障するには、いろいろと申請書を書く必要がありました。その締切りの仕事に忙殺されてすっかり遅くなってしまいました。やれやれです!

この議論のやり取りの中で、光物性という分野の位置づけが明確なイメージになったのも、うれしいことでした。また、この議論の中で出てきた、ミクロ・マクロの言葉の使い方が、分野によってさまざまだということを知ったのも新鮮でした。ついでながら、「トップダウン」「ボトムアップ」という言葉の使い方も、分野によって、まるで反対なのにも驚きました。