2024年12月06日

科学交流セミナー まあおききやす!(ブログ その23)

第五回科学交流セミナーは、谷村省吾さんのお話です。ご案内はこちらです。

谷村さんは、若いころから、視野の広い素粒子やさんでした。佐藤文隆さん、松田卓也さんと似たカルチャーを持っておられます。今回の話は「量子論」の今後を見通すのに必要な見方を提供してくれると思います。 
私は、長らく文系学生に、いろいろな最近の自然科学に関する講義を、試みてきましたが、量子力学・量子的世界像に関しての話は、単なるお話以上に踏み込もうと思うと、なかなか難しく、結局、この問題は取り上げないまま、定年を迎えました。
とはいえ、光の話をするときに、時には粒子としてふるまったり、時には、波としてふるまったりします。量子力学ができたころ、みんなこの問題に悩みました。そして、「光は月水金は粒、火木土は波」といい、日曜日はどちらにしようかな、というわけです。朝永先生の「光子の裁判」は、これを「みつこは粒子か波か」という裁判で、次々証拠を突きつけていくとてもスリリングなエッセイです。朝永先生らしい軽妙なタッチで、そのお茶目な性質が彷彿とします。実は、私は、この「光子の裁判」の劇を授業でやってみたいと思ったことは何度かありました。結局、準備に時間がかかりすぎるのであきらめましたが。

授業では、結局、「あるものを見る時、AかBか、どちらかをきめつけることができない場合は結構あるでしょう。環境が変わると、今まで善人だと思っていた人も悪人になるし、反対もあるよね。光も、時と所によって色々な振る舞いをするのです。結局、自然界を作っている物質や力の基(素粒子)は、エネルギーの塊と考えれば、時に粒のようにも振る舞い、時には波のように振舞うのですね。だから、光を粒と思えば、1つの粒の持つエネルギーの違いで違った光になるし、波動だと思えば、波長の違いが違った光にみえるというのこなのです」みたいな話でごまかしてきました。

実は、高校の時、理科の先生が下さった本が、朝永振一郎「量子力学」でした。その頃、理科クラブの先生(中塚先生)デンスケ先生とばれていましたが(そういえば最近はやりの理科の先生はデンジロウですね。デンスケはその兄貴にあたるなあ・・・・)、ガモフの「不思議の国のトムキンス」の話をしてくださいました。デンスケ先生は、校長先生に怒られながら、理科クラブのみんなを、天体観測につれていったり、時には爆発実験を、高校のグランドでやったりしてえらい騒ぎになったということですが、ともかく、面白い先生でした。そして、その先生から 「 A Course of Modern Analysis」(B. T. Whittecher, G. N. Watson)をもらいました。先生は、「これはノーベル賞を取った、リーとヤンが、学生時代勉強した本ですよ」といわれました(大学の教養時代になってやっとこの本を友達何人かで自主的に勉強会を長く続けましたけど、それまでには、私は歯が立ちませんでした)。実は、この本は、もうボロボロになっていますが、定年退職の時に、整理していたらでてきて、その本が1937年版だったので、「わ、私と同じ年だ!」とよけい捨てられなくなりました。全部持って帰ると、本が家に入らないのでかなり廃棄したのですが、まよった末、この本は持って帰りました。こんなことをしているので、家がますます狭くなって困っています?? まあ、素敵な先生に、出会ったってことですね。ところで、朝永先生の本は、私のように普通の子にはとても読めなくて、最初のところで、「あ、積分が出てきた!習ったぞ!」と思って読んでみましたが、∬ など2つも積分の記号が出てくるのです。賢い人なら、そんなものどうってことないと思うのでしょうが、普通の子で、積分も習いたてのホヤホヤの私には、お手上げで、結局、理解できずあきらめました。

話がそれますが、私が物理学会長をやっていた時、物理オリンピックの取り組みが始まって、選抜された高校生たちが、合宿しているところに、激励に行ったことがありました。出された問題を解いていたのですが、その中にまだ中学生だったM君が混じっていました。のぞいてみると、積分を使っています。「あら、積分できるの?どこで習ったの?」と聞いたら、「自分で勉強しました」というのです!はあ・・・すごい子がいるなあ、とびっくりしました。大学にはいって、もらった朝永さんの本でゼミをやろうというクラスの人がいて、何人か、おませな同級生たちがゼミを始めました(佐藤さんの入っていたかなあ??? 後に私の夫になった坂東君は入っていませんでした)ので、私もそれに出ていましたが、途中でそれもあきらめました。そして、大学3年生で、初めて量子力学の講義をうけました。その時は、量子力学の解釈で苦しみました。まるで違う世界でしたから。みんなで、自主ゼミを始めたのは、どうもすっきりした理解ができなかったのです。
今振り返ってみると、その当時最も抜けていた考え方は、「対称性」という観点から物事をとらえるという、姿勢であったように思っています。「もし、今、量子力学を教えるとしたら、私は、迷わず、この「対称性」という観点から「現象の客観性」こそ、物理学で最も重要な概念であり、「ある人が見たらこう見えるけど、別の人(あるいは別の環境の中にいる人)がみたら、別に見える」というのでは、科学になりません。いつ、誰が、どこにいても、いつも同じだという客観性が、どうして貫かれるのか、それを考えていくと、量子力学の方が自然な概念なんだ、ということが見えてくるような気がします。(「物理と対称性」という本では、このような視点からちょっぴり量子力学にも触れています。
実は、この本のカスタマーレビューに「対称性に関する書物である。数学的には群論に関係した議論となっている。教養課程の学生に向けた本ということで物理の全体像を明らかにしようという工夫が随所にこらされている。その最たるものが双対ピラミッドである。このシステムを理解できる文系学生がいたら優秀だと思う。」と書かれていますが、この「双対ピラミッド」を書いてくれたのは、この谷村さんでした(そのことは、この本のあとがきに、謝辞として書いてあります)。大昔の話ですが・・・・。

やっと、谷村さんにつながりましたね。 そんな因縁のある谷村さんの直観力と鋭い観察力には、いつも感心させられてきました。その谷村さんが、第2回科学交流セミナー(松田卓也さんの潮汐力の話)にひょっこり出てこられて・・・、というか、谷村さんなら、こういうセミナーには、そのうち出てこられるだろうな、と思っていましたが・・・やっぱり谷村さんの嗅覚に引っ掛かったのだなあ、こういう話、好きだものなあ、と思ったものです。そして、活発に議論に加わってくださったので、とてもうれしくなりました。
それで、次は谷村さんにお願いしたというわけです。谷村さんならいっぱい話題をお持ちだと思いました(この点では今までの話題提供者はすべて話題豊富ですが)。
ただ、そのタイトルをみたとき、「え?量子力学の解釈問題???」とちょっとビビりました。これって、はまると抜けられなくなるのですが、逆に、きちんとした成果を出すにはしんどい課題で、物理学者なら、一度は、はまってしまって、そこから抜け出せず、一生を棒に振ることにもなりかねないからです。少し前までは、「盆栽物理」「趣味の物理」といわれるテーマだったのですね(すみません、こういう問題を今も取り組んでいる人がいっぱいおられるはずで、失礼なことを言っていると思いますが・・・)。
学問として、ものになるかどうか、それは、学問の発展段階と自分の能力を勘案して、結構シビアに決める必要があるのです。若い時代は、ついつい、今流行っていること、というか学問の急成長しつつあるテーマが目につきます。でも、学問にも成長期と停滞期とがあります。もちろん、誰かが何かを発見してそれがブレイクスルーになって、急に思いもかけないところからある分野が急成長することもあります。今の状況に目を奪われず、「私は何をやりたいか」という思いと、「この分野は成長株か」というか、「この分野を探求するのに、機は熟しているか」ということを、少し先を見て考える視野の広さが大切ですね。

話がそれましたが、量子論は、今成長株の1つかもしれません。これについては、佐藤文隆さんが、「湯川秀樹のやりのこしたもの」という話をしておられましたが、一昔前、極微の世界でのみ必要な細かい補正だと思われ、実験で目で見えるような効果として表れないと思われて、単なる机上の空論のように見えた「量子効果」が、測定技術の発展で現実に見えるようになってきました。また、量子論を取り入れた情報理論、量子情報、という分野も、ただいま成長中のようにも思われます。もっとも、まだ、私には見えていませんが、注目している人が増えていることは確かでしょうね。
そんなわけで、こういう話をたまに聞くのは、刺激になるのではないでしょうか。
谷村さん、どうぞ、素人に分かるように、よろしくお願いします。

PS なお、第4回特別セミナーは、飯吉透先生でした。アメリカから短期滞在の機会をとらえて、急きょ、お願いし、セミナーをしていただきました。金沢や大阪からも関心のある方々が集まり、熱のこもった討論が行われました。時間がなくてもったいないかったですが、最後の方で、佐藤名誉会長が質問、「あんた何歳?」というのには、さすがの飯吉先生も面喰らったご様子でした。日本にはいないスケールの方でしたのでしたので、素直に聞かれたのだと思います。いつもは、当NPO 理事の保田さんが、ビデオで記録をとってくださっていますが、この日は外せない用で参加できなくなり、代わりに、下浦一宏さん  ( NPO法人科学カフェ京都で、ビデオ撮影、HP更新等を担当されています。科学カフェ京都は、当NPOと連携を進めている科学普及のためのNPOです )が撮影してくださいました。下浦さんは、当NPO会員でもあります。さっそく、飯吉先生の許諾をとり、レジメと合わせて、「取りあえずのページを作成致しました」と連絡がありました。
当NPOでも、第1回からの科学交流セミナーの記録をとっておりますが、近いうちに、皆さんに紹介できると思います。 

ついでですが、当NPOも徐々に活動を広げています。会員同志の交流のためのメーリングリストも、このたび開設いたしました。興味のある方、「こんな活動をしたい」というご提案のある方、ネットワーク会員になっていただき、私どもの活動をご一緒に盛り上げていきませんか?入会には多少のお金(月に100円)がいりますが、それ以上にこの会員になっていただく意味は大きいと思います。ごいっしょにどうぞネットワークを広げる側になってください。