2017年10月19日

行政刷新会議・・その2(ブログ その28)

行政刷新会議で行われている事業仕分け作業については、国民の関心も高く、その成果に注目が集まっているところです。ただ、現場の科学者の中からは、1時間足らずの、しかも短期的な成果が費用に見合うかどうかという一面的な視点での議論で、科学技術関連の重要施策に関する予算の廃止・縮減が決められていることに、大きな危惧を抱いている声もたくさん出てきています。

こんな時、基礎科学研究の主要部分を担っている国立10大学理学部・理学系研究科の運営に責任を持つ理学部長の連名で、緊急提言が発表されました。

主なポイントは
 1)基盤研究費としての国立大学法人運営費交付金
 2)最も透明度の高い公正な競争的資金である科学研究費補助金
 3)次世代の日本の研究を支える若手人材育成支援経費
の重要性を指摘し、これを充実させることを求めるという大変視野の広い観点からの提言です。この様子は、新聞などでも 報道されました。
この情報は、岡真先生(東工大)や吉川研一先生(京大)から、いただきました。大変格調が高く、現在の仕分けの功罪を論じており、科学者の世論を呼び起こすことになるでしょう。

先回(その27)のブログでも述べましたが、今回、若手が自ら声を上げています
さらに、11月24日、9大学総長・塾長が共同声明を発表しました。内容全文は、ここ にあります。

11月23日、昨日は「偽科学フォーラム」(大阪大学中之島センター)に出席しましたが、やはり懇親会ではこの話で持ちきりでした。HPにも出ています。若手も女性研究者も、まだ、自分たちに関係する項目については声を上げていますが、全体的な視野に立ちきれていません。もちろん、これからは、自分たちの問題を通じて成長していくと思います。
こういう時、広い視野に立った観点から、最も重要な問題を的確に指摘したこのアッピールは大変貴重だと思います。

そのほかにも、いろいろな動きがあります。例えば、生物物理学会は、「日本生物物理学会会員の皆様への緊急メーッセージ」を発信しました。また、スーパーコンピュータプロジェクト”の事実上の凍結に関しては、宇川彰氏(筑波大学)を代表とする「計算基礎科学コンソーシアム」が情報を発信しています。

これに関しては、メーリングリストでいろいろな意見が飛び交っています。「計画が採択された科学研究は、予算がある時に部分的に進めておいて、予算が不足すれば延期して、いずれ再開すればよいという性格のものではないということを、全く分かっていない人たちに、中断の意味を考えてもらう必要があるのだと思います」「部分的に作っていって、できるときに完成させるという進め方と違うと言うことを、科学と無関係な予算決定者たちに、理解してもらわなければならない」

このプロジェクトについては、佐藤さんのブログにもあります。確かに、トップだけで進めて、科学者仲間の意向をきちんと吸い上げていないきらいがあることは否めません。しかし、ついこの間、この秋の学会でも、少なくとも、素粒子原子核宇宙といった基礎科学を支えるグループでは、この計画について議論をし、皆さんの意見をしっかり受け止めたプロジェクトの推進を話し合ったところでした。

また、若手の育成についても、いくつか問題を感じてはいます。ですので、一概に、見直しをすべて遺憾だとするわけでもありません。仕分け人となられた方々の中から、「経常研究費を増やすことが必要なのではないか、といった正論もでているよ」という声もあります。例えば、スーパーコンピューターの項目では、「果たしで、このときのやり取りにきちんと答えられていたでしょうか?」という疑問が投げかけられ、議論が沸騰しました。これについては、事業番号3-17(独)理化学研究所 (次世代スーパーコンピューティング技術の推進 と、「計算基礎科学コンソーシアム」の意見を比較してみてください。

「今までのツケが来たといえばそれまでなのですが, それを背負わされるのは結局, 若手の人々であるという事実は是非認識してほしいと考えております。私もポスドク時代が長かったので、ある程度は分かるつもりです。あの事業仕分けのやり方はひどいと思う一方で、(人によっては)とことんやるべきだ、というレベルの認識の人もいて、日本人の先行きが思いやられる事態というべきかもしれません。目的と手段が混同され、社会的な混乱が収まりません。基礎科学の理解者が増えるべき時代に、残念なことです。」という声もあります。」 

ただ、「問答無用」で切り捨てるようなやりかただと、理解しようとしている人、評価しようとしている人まで、批判的になるでしょう。「TVなどで見ていると、国民目線とか言いながら、文系目線・経済目線で物事が決まっている様に思えます。昔、国民目線とか言いながら、男性目線で物事が決まっていた前近代を思い出させます」という声も聞きました。

「この意見表明は、会議において見られた事業目的に対する誤解を解くことが第一の目的であり、他の事業より優遇してほしいという要求では決してありません。その点もご理解頂ければと思います。」という仕分け人の発言がありましたが、このようなやり方では、これまで競争的資金を、科学者のピュアレビューの段階を飛び越えてトップで決定してばらまいてきた研究費配分のやり方に批判的だった研究者が、戸惑いを感じているのだと思います。

最後に、ある人(Mさん)のご意見を引用して、このブログを終わりたいと思います。

「明治維新の当時、(我々にとって)興味ある動きも知られています。物理ファンだったと思われる福沢諭吉のことです。明治維新の上野戦争が起こった時、数キロの距離で講義中だった福沢諭吉は、塾生を落ち着かせ、そのまま講義を続けます。その時の経済学の教科書を元にして、数年後に書かれたのが、あの『学問のすすめ』でした。今、その『学問のすすめ』を読んでみると、その過激さに驚くと共に、あの維新の時代に、超然として講義を続けた諭吉の、学問に対する信念に、感銘を受けます。彼は物理学のファンであったに違いなく(実際に明治元年には子ども向けの物理教科書『訓蒙窮理図解』を書いた)、従って、合理的な思考ができる人でした。いま『学問のすすめ』を読むと、今のこの時代においても、大いにヒントになるかもしれません。」