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世界征服計画 その3

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3.精神と時の部屋

「あなたの住んでいるコンピューターってどんなものなんですか?」

僕の質問に対してアーキテクトは答えた。

「我々の精神が宿るコンピュータは、君たちのものと同様にシリコンと導線でできている。この宇宙では物理法則は同じだから、どこでも似たようなものになるのだ。シリコンコンピュータの外見は岩そのものだ。小惑星の内部の岩石をくりぬいて、その中に直接、配線する。小惑星自体に蟻が巣くったような状態になっている。たとえば岩石の固まりに見える火星の衛星のフォボスがひとつの生命体であると想像すればよい。死んだように見えるあの岩の固まりの中で、盛んな精神作用が行われている。科学研究もあれば、文学もある。愛も恋もある。君たちと同様の人生が、岩の内部で展開されているのだ」 

僕は岩が精神を宿す生命体であるときいて、この東山が思考していて、僕は山と対話していると想像した。もっともアーキテクトの話では、たとえそうであっても、地球上は風化などがあり、本格的なコンピューターはおけないだろう。従って東山は彼らの前進基地でしかないのだろう。
あるいは上空に彼らの人工衛星があって、それで地球上のどこかに置いてあるコンピューターと対話しているかもしれない。この点に関しては、アーキテクトが答えないので、想像するしかない。場所を秘匿するのは地球人の干渉をおそれているのだろうか。いかに強力な精神体であるといっても、物理基盤を破壊されては存在できない。もっとも、十分な冗長性は確保してあるだろうが。

僕は聞いた。

「あなた方のコンピューターのハードウエアはだいたい想像がつきましたが、ソフトウエアに関しては想像がつきません」

アーキテクトは言った。

「我々の精神、社会を構成しているソフトウエアについて語っても、君に理解できるわけがない。だいたい君たちのコンピュータのソフトだって同じことだろう。君は切符販売機のソフトウエアーが分かるかね?分からなくっても、機械は動くのだよ。君は君の脳の働きを理解しているかね?知らなくても君は生きている。君たちのOSは数千万行のソフトだ。我々のシミュレーション現実を実現するソフトは、その1億倍も複雑だ。もっとも、君が希望すれば、将来的には、私の傑作であるソフトを教えてやってもよい。一人で全部理解するには少なくとも千年程度は勉強する必要がある」

「千年!そんなことは不可能です」

「ははは、それが可能なのだよ。君たちのアニメで『ドラゴンボール』というのがある。そこには『精神と時の部屋』というものがある。その部屋の1年は、外の世界の1日に相当するという。『精神と時の部屋』にこもって修行すると、外の世界の時間で見て短時間に成果を上げることができる。
映画『マトリックス』でも、武道の修行ヘリコプターの操縦訓練を、仮想世界で短期間に行うことができる。我々の場合、極端なケースでは君の1秒を30年にまで拡張することができるのだ」

武道の修行

<武道の修行>

ヘリコプターの操縦訓練

<ヘリコプターの操縦訓練>

「1秒が30年!ありえなーい。あったとすれば、なんとすばらしい。人生の長さがほとんど無限大になりますね」

「ははは、1秒が30年はあくまで原理的な話で、普通はそこまでは伸ばさないし、難しい。でも1日が1年はきわめて簡単なことだ」

「要するに外部世界の時間の流れをほとんど止めるわけですね?半村良の『妖星伝』に、時間を止める『沈時術』と言うのが出てきました。」

「あれは結構エッチな小説だね。我々はもっと高尚だ」

「『ドクタースランプ・アラレちゃん』ではせんべい博士が、タイムストップウオッチを発明しました。もっとも、博士の動機は『みどり先生のパンツを15センチ間近で見たい』というスケベなことですがね」

「それもエッチな話だな。だいたい君はアニメばかり見ておるのか。でも、ようするにそういうことだ。しかし本にあるタイムトラベルなどは困難だ。我々もそれにはまだ成功していない。しかし時間の流れを制御することで、似たようなことはできる。タイムマシンを作りたい一つの動機として、人生のやり直しがあるが、我々の世界ではそれは可能なのだよ。生まれ変わればよいのだから」

「なるほど。あなた方は時間の流れをコントロールできるわけですね?でもどうやって?」

「簡単なことだよ。君たちのコンピュータのクロックは1GHz程度だろう。最も速いIBMのPOWER7チップでも5GHz以下の程度だ。それが物理的な限界だ。

そこで話を簡単にするためにクロックを1GHzとしよう。ところで君たち人間のクロックはどうかね?それは基本的には心臓の拍動だ。それはほぼ1秒に1回、つまり1Hzだ。人間の脳というコンピュータのクロックは1Hzなんだよ。10億倍も違いがあるのだ。人間の神経の伝達速度は毎秒50-70メートル以下だ。一方コンピュータのチップ上を情報が伝わる速度は、光速度の程度だ。つまり百万倍の差がある。

人間は1秒の1/100の世界はもはや、直接には認識できない。コンピュータに比べてこんなに遅いクロックの人間の脳が、ある面ではコンピュータよりすごい働きができる。それは並列処理をしているからだ。だからシリコンコンピュータに人間の脳程度の並列処理をさせて、そいつが意識を持ったとすれば、そいつの1秒は君たちの10億秒にも相当する。1年はほぼ3千万秒だから、10億秒は30年に相当するという計算だ。つまり1秒が30年に相当するといわけだ。その計算では、君の1年は10億年になるのだ」

「10億年!すばらしい。ほとんど無限大ですね。そんなに長く生きられるとは」

「もっともそんなことをすると、外部世界の時間がほとんど止まってしまう。1年先の物事を見るのに、10億年待たなければならない。だから我々も、そんな極端なことはしない。君には1日が1年という『精神と時の部屋』がせいぜいのところだろう」

「それでも1年が365年になるわけで、とてつもなくすばらしいです。そこで3年間勉強すれば千年は突破できますね。これであなたのおっしゃる意味が分かりました。ぜひ僕を『精神と時の部屋』にいれてください」

「ははは、気が早い。それには我々と契約をしなければならない。我々の目的に力を貸すという契約だ。我々の目的とは、人類の征服だ!」

なるほど、これでこの宇宙人の目的が分かった。僕と悪魔の契約を結ばせようというのか。

続く

   
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