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世界征服計画 その2

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2.半知半能の神たるアーキテクトの話

アーキテクトは映画と同様にばりっとした服を着ていて、もったいぶったしゃべり方をした。この宇宙人は、僕の頭の中を読み取って、僕の知識や趣味に合わせて、姿形、しゃべり方を選んでいるのだろう。だから事代主命(ことしろぬしのみこと)になったり、ビーナスになったりしたのだ。もっとビーナスの状態でいてくれてもよかったのだが。でもそれだと、僕がビーナスの体ばかり見て、あらぬ妄想をして上の空になると思ったのだろう。アーキテクトならまじめに話を聞くはずだ。

アーキテクトは話し始めた。

「我々は先にも言ったように、君たちの言うところの宇宙人なのだ。この地球には約1万年前に到着した。我々も、もとは、ある星を回る惑星の上に、君たちと同様な、有機体の生命として誕生したのだ。そしてある段階、つまり君たちのSF作家であるA.C.クラークの言うところの『幼年期の終わり』に達して、『超人間』に飛躍したのだ。

我々は有機物でできた肉体を捨てて、君たちの言うところの意識、魂、ゴースト、いろんな言い方ができるが、純粋な精神生命体になり、コンピュータに住み着いた。もちろん我々のコンピュータは君たちのものより、はるかに発達したものだ。しかしその説明は長くなるので今は省こう。君たちのコンピュータでもソフトとハードは分離しているように、我々は精神と肉体を分離したわけだ。そしてそのコンピュータの中に我々はシミュレーション現実の世界を構築した。

その世界の中では、それまでの有機的肉体と同じ肉体が存在するように見えるのだ。君たちのSecond Lifeのような仮想現実世界で使われるアバターのようなものだ。

<Second Life>

しかしアバターと異なる点は、君たちの仮想現実世界では、人間はあくまで肉体としての人間であり、アバターはあくまでアバターで、それは仮の姿でしかない。しかし我々の場合は、アバター自体が現実の精神的生命体といえるのだ」

アーキテクトはさらに驚くべきことを言った。

「私はこの仮想世界に、君たちの言うところの神と人間を創造した。君は神と人間の違いが分かるかね」

いきなりこう聞かれて僕はとまどったが、ビーナスが登場するギリシャ神話の世界を想像して、こう答えた。

「神は不死ですが、人間は死すべきものです」

「そうだ。私は神を作り、人間を作った。私は神さえ作った究極の造物主なのだよ」

神を作った神!想像を絶する話である。アーキテクトはさらに続けた。

「私の作った世界は、君たちの人間世界と一見何の違いもないように見える。しかし大きく違うのは、人間にとってさえも『死』が恐怖や不幸の原因ではないことだ。もちろん私は設計段階で、人間に対して死をなくすこともできた。しかし私はそうはしないで、人間には死を残した。ひとつには神と人間を区別するためにね。生命には死の存在はもともと組み込まれていたものだ。なぜなら、そのほうが生命の発展にとって有利だからだ。しかし我々は、自然の生命を超越した。だから先に言ったように、設計段階で死を全て無くすこともできた。しかし私はあえて死を残した。しかし死が不幸や恐怖の源泉にならないように、必ず蘇ることを確約したのだ。つまり輪廻転生を保証したのだ」

「輪廻転生とは、また仏教的な話ですね。でもなぜ輪廻転生なのです」

「我々の世界では、人は生まれ変わると、どんな人間になるか分からない。それは確率的に決まるのだよ。例えば男の君が生まれ変わると、女になるかもしれない。白人が生まれ変わると、黒人になるかもしれない。このようにしておくと、男女や人種による差別がなくなるだろう。今の生で他人を差別していれば、生まれ変わったときに差別されるかもしれないだろう」

「なるほどね。差別や不幸のない理想郷を作ったのですね。でも全然、不幸は存在しないのですか?」

「お釈迦様は生老病死の四苦といわれた。生が苦であるかどうかは意見の分かれるところだが、死は人間にとって苦であることは確かだ。老、病が苦であるのは死に近ずくからだ。私は人間には生、老、死は残し、病は無くした。しかし再生を保証した。これで死は恐怖ではなくなり、従って四苦は基本的には不幸でなくなったのだ」 

「四苦八苦といいますから、残りの四苦はあるのでしょう。たとえば恋の悩みとか」

「ははは。こうして私はお釈迦様の言う浄土、キリスト様の言う天国をコンピュータの内部に実現したのだ。もっとも私の作った世界は、本当の天国ではなく、コンピュータの中に構築された仮想世界にすぎない。だから私のような神といえども所詮、君たち人間同様の有限の存在だ。なぜならコンピュータという有限の世界にいるからだ。その意味で私は全知全能ではなく、半知半能の神だ」

「半知半能の神!聞いたことがありません」

「ははは、その我々が住む社会だから、問題もある。それは認める。しかしそれは死と比べれば、全くたいした問題ではない。私の作ったのは天国と言うよりは、準天国だ」

有限の存在である神!神を作った神!半知半能の神!僕はアーキテクトの話す想像もつかない概念を聞いて驚愕した。

しかし同時に、それこそが僕の求めている理想世界だと思った。この宇宙人が僕を選んで、わざわざ九十四露神社で待っていたのは、僕の思想を知っていたからに違いない。僕との会合を町中ではなく、あんな辺鄙なところに選んだのは、人の目に触れないためであろう。だとすると、この宇宙人は人の頭の中も見通せるようで、とても逆らえる相手ではないと観念した。僕は好奇心に駆られて聞いた。

「そんな理想郷を築かれたあなた方が、どうしてこの地球に来たのです?」

それにたいしてアーキテクトは答えた。

「我々の母星が赤色巨星に変化しそうになったからだ」

我々はその際、大船団を組織して、銀河のあらゆる場所に植民することを計画した。我々は宇宙船を建造した。エンジンに用いるエネルギーはもちろん物質・反物質だ。

搭乗員は生身の生物ではないので、必要なエネルギーは加速・減速をのぞけばコンピュータを動かす電力だけだ。それでも、隣の星が4光年先として、航海は君たちの時間でいって4000年はかかる長いものだ。遠くの星まで行くのに、一気に飛ぶのではなく、星から星を伝って航海するのだ。この地球にやってきた我々は、太陽の隣の星、アルファ・センタウリから4000年間航海して、この地球に1万年前についたのだ。

我々は星に着くと、そこに住み着く者とさらに航海する者に分かれる。こうして星々を植民地にしながら、我々は銀河中に広がっていくのだ。もう全銀河に広がったはずだ。君たちのSFにある銀河帝国のようなものを建設した。しかし銀河帝国といっても、各星に住み着いた一団は、他の部分とはほとんど独立している。通信で情報をやりとりするだけだ。その通信もえらい長い時間がかかるので、補助的なものだ。我々は帝国の中の独立王国なのだ。

アルファ・センタウリからの4000年もの航海の間、社会を活動させるのはエネルギー的に無駄だから、大部分の間は電力を節約するために、コンピュータはクロックを極端に遅くして、我々の意識のスピードを落とす。そうすると、長い時間も短く感じられるのだ。もちろん非常の事態に備えて、一部のロボットは通常速度で外界を監視している。星に近づいたときは全員通常速度に戻って大騒動になる。一大イベントだからね。君たちのクルーズの寄港と同じだ。そうして我々は1万年前に地球に到達したのだ。一部はまた別の星に飛び立っていった。我々はこの太陽系に住み着くことにした」

僕はこの壮大な話に聞き入っていた。僕は聞いた。

「あなた自身、あるいはあなたのイメージを作っているコンピュータはどこにあるのです?」

それに対してアーキテクトは答えた。

「正確な場所は言えない。秘密だ。しかし、本体は地球上ではない。地球などの大きな惑星、衛星では地質活動があって不安定だ。月や小惑星のように、活動していないか、活動に乏しい天体が適している。小惑星で適当に小さいものを選び、太陽に面する側と、反対側の温度差を利用すれば、簡単に発電できる。そのエネルギーでコンピューターを動かすことができる。コンピュータは一カ所にあるのでなく、太陽系内に散在していて、お互いがネットワークで結ばれている。君と話している私は、もちろん地球にあるコンピュータにいる。月では話に時間がかかりすぎるからな。でもこのコンピュータは規模の小さなものだ。しかし我々は精神体であり、ソフトウエアであるから、どのハードウエアにいるかは問題ではない。どこでもコンピュータがあれば、そこに行けるのだ」

僕には聞きたいことが山のようにあった。でも何から聞いてよいか、分からなかった。一番の疑問は、アーキテクトはなぜ私に、彼らにとってこのように極めて重要な秘密をぺらぺらとしゃべるのであろうか?この神は自己顕示欲が強いのだろうか?あるいは後で、僕の記憶を消すのだろうか?

やがてアーキテクトは私には想像もつかなかった恐るべき真実を語り始めた。

続く

   
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