2017年05月28日

自然放射線 その3

「自然」といっても、いわゆる原子力の始った以後は様々な人工「源」が広域な環境に蓄積されている。人工源のもとになった惨禍や事故については高田純「世界の放射線被爆地調査」(ブルーバックス)を参照。ここでは「被爆地」というよりは影響が広域におよぶ低線量被曝を念頭に書いておく。

「福島」でも海洋汚染の可能性が高まっているようだが、1954,55年あたりの、日本社会が経験した海産物汚染騒動が記憶に蘇る。日本全体で水産業が半減したという。またこの頃、連日のように放射能雨に慄いた。この時代のことは記録も多かったが、多くの人の記憶からは消えている。筆者の手持ちには武谷三男「原水爆実験」(岩波新書1957年)、三宅静雄「死の灰と闘う科学者」(岩波新書1972年)があるが、三宅本の「はじめに」は「自然科学概論」の教科書として使ってほしい、と述べている。第五福竜丸事件の直後に科学者が俊鶻丸を調査船にして実験地に出向いた科学者の姿は今読むと隔世の感を覚える。もちろん、海産物汚染、放射能雨などのかつての科学的な知見の意味でもぜひ一読を勧める。

この「その3」では前回から続けて、基礎的な事項を述べていく。近年、核燃料の再処理問題でプルとニュームが話題になっているたが、ここでは核分裂生成物に焦点をあてる。
ウランは半分に分裂すれば質量数は120ぐらいの核になるはずだが実際は不均等に分裂し、ピークは95周辺と139周辺になるが、被曝の観点からいうと、「軽い方」の代表が放射性のRb(ルビジューム),Sr(ストロンチューム)など、「重い方」のが放射性のI(ヨウ素),Xe(ゼノン),Cs(セシューム)などである。分裂生成物の寿命が短ければ短時間で別の核に崩壊し、寿命の長い核に停留することになる。
とくにCs137は半減期30年と中途半端に長く、広域な汚染後もしばらく減らないのでその地域の汚染量と平衡になるまで身体のCs137は増加する。下の図は近藤宗平「低線量放射線の健康影響」(近畿大学出版局、2005年)から拝借したものである。

<近藤宗平「低線量放射線の健康影響」(近畿大学出版局、2005年)125頁>

この図はチェリのブイリ事故で汚染した平均的なブタペスト市民の身体に含まれるCs137の時間変化を示したものである。横軸は事故後の日数であり、数字は200,400,600,・・・である。縦軸の数字は下から500,1000、1500、2000である。ピークは400日あたり、また三年(1095日)ぐらいで減っていることがわかる。また同じ時期でのデータのばらつきは個人差である。平均して男性が女性より多い。これは全身ボデイカウンターであるから体重によるばらつきもある。

舘野之男「放射線と健康」(岩波新書、2001年)には「わたしの体の放射能」(69p前後)という小見出しでの話が興味ある。彼が勤務していた放医研では何人もサンプルになって三カ月おきぐらいに定期的に体内放射能の測定しているのだそうだ。Cs,K,その他の三分類。ここにチェリのブイリ後に20ぐらいがしばらく55ぐらいの増加し、また減っていった話が書かれている。今後は、監視の意味でも、もっと多くの病院や研究所でこういう「同一人間の体内放射線量の継続測定」をはじめるべきと思う。これは放射線医療と違って、余分に放射線を照射するのでなく、自分が放射線源なのであるから預託上も負担増ではない。

このように現在は自然放射線と言っても源は「地球」「宇宙線」「人工」があり、各々に核種と身体機能の関係で「外部」が主か「内部」が主かがある。
多くの人に関わる長期化するかもしれない低線量放射線汚染について我々は準備をしておかねばならない。広域だと逃げも、食べ物の忌避も出来ないのだから。

「自然放射線」おわり