2017年10月24日

自然放射線 その2

放射線「騒動」は相当ながく続くようである。排出をある程度覚悟してでもやらねばならぬ作業が増える可能性が高い。まさに原爆実験の時代を彷彿させるものである。

ここでは「自然放射線 その1」の続きを書く。「その3」まであるつもりです。放射線の自然の源は地球と宇宙線である。「地球」には土壌と地下から漏れ出る気体がある。土壌はそれ自体が源でもあり、さらに地下からくる放射線の遮蔽物でもある。空気中には表面から深さ30cmぐらいの土壌層がガンマ線源である。標準的な測定値は“比較的開けた野外で地表から高さ1m辺り”での吸収線量である。吸収線量でも空気吸収線量の場合と実効吸収線量の場合がある。人体への影響をいう時は後者である。これは前者に0.7をかけたものである。

地球の中は高温でマグマとして岩石も溶けた状態である。この熱はウランなどの超寿命放射線元素の崩壊熱による。放射線で出たエネルギーが周りの物質に吸収されて熱になり、表面に向かって流れ出ている。これは一様にならすと太陽光によるものの一万分の一程だが、火山、温泉、地熱発電などに見る様に、部分的には強力に吹き出している。土壌の放射性元素の含有比率はわずかでも膨大な質量であり、また熱の伝導が悪いので籠っているわけである。

日本のニュートリノ観測装置カミオカンデのあった場所にいまはカムランドという反ニュートリノを測定する装置が稼働している。これが、地球の中心での崩壊で発生した反ニュートリノを観測でき、カムランドは、素粒子研究から、地球内部の放射科学のツールなるかも知れない。

地球物質に含まれるラジュームなどの長寿命放射性核の崩壊生成物の中には、放射性物質であるラドンやゼノンといった気体もあり、これらは気体のまま地表に漏れ出す。しかも、緯度の高い地方の人間は大半の時間は屋内にいる。すると、地下から湧き出た放射性ガスが屋内に蓄積されることも考えられる。だから“開けた屋外”という設定が必ずしも人間に対する照射量として妥当でないことになる。これが「自然放射線 その1」に書いたラドン問題である。実際、合計2.4の半数の1.26がラドンなのである。崩壊で生じた気体は一様に出るだけでなく、地殻の割れ目とかを求めて、漏れ出るわけで、地域的な差がある。また、海外では特殊な建材からの放出も問題なったりした。また、住宅の密閉性も関係する。地下室に充満していた例もある。こういう事情もあって「ばらつき」が0.2ー10と五十倍もとってある。阪神淡路地震では神戸でラドンが噴出したこともあった。岩盤の覆いにひびがはいるとそこから漏れ出るような事がある。いったん、オープンスペースに出れば薄まる。ラドン吸入の疾病は肺がんである。

今度は宇宙線だがこの発見は約百年前である。オーストリーのヘスという若い男が1911年から1912年にかけて何回か気球にのって数千mぐらいまで上昇して、大気のイオン化度を測定した。放射線の大きな作用がイオン化である事は1896,8年のベックレルやキュリー夫妻の放射能発見以来注目されていた。一方で大気に含まれるイオン度が静電気箔の検電器などでわかっていた。だから直ぐに土壌の放射線で大気が僅かにイオン化していると考えられた。だとすると地表から遠ざかるとイオンは減ると予想される。そこでエッフェル塔に登るなどして高いところで減ることを確かめる実験がされた。ヘスはその高度の一番を目指した冒険をやった。そして、イオンは1500mくらいまでは減るが、それ以上になるとどんどん増加していった。すなわち、宇宙からも放射線がやって来ることを発見した。ヘスは1936年のノーベル賞を受賞した。来年は宇宙線100年記念の年である。

地球起源の放射線は不安定な原子核の崩壊によるものでいわゆるα線、β線、γ線である。今はニュートリノも測れるがこれは人体も通過するだけで無害である。核放射線にくらべると宇宙線という放射線自体は放射線の性質は大分違う。物理的な流量としては大きくてもGyやSvで表わされる吸収線量としては効果は下がる。地上に降り注ぐ放射線は二次宇宙線といって宇宙からやってきたものではない。宇宙から飛来したエネルギーの高い陽子が地球の大気に入射した後にエネルギーの低い無数の放射線に増殖したものである。シャワー状に増殖するので空気シャワーと呼んでいる。このように高い所では実効吸収線量も大きくなる。

1970年代まで日本の宇宙線で素粒子物理の実験をしようというグループはボリビアの首都ラパスの近くに実験装置を置いていた。エネルギーの高い陽子との反応を見るためであった。ここは3900mで百万以上の年であるが、外部照射は日本の平均0.26の10倍もある2.02である。特殊な場所でなく、高い所での一般人の被曝は航空機である。乗客は時間が限られるが、乗務員はそこが職場だから放射線管理の対象になっている職種である。

人体への影響からすると宇宙線の効果は炭素14による内部被ばくである。炭素14は年代測定のアイソトープとして有名な元素である。炭素は生物の主要な元素であるから摂取を避けるなどということは不可能である。宇宙線に炭素14があるのではなく、空気中に入ってからの宇宙線による原子核反応で生成されたものである。発生した中性子が空気の主成分である窒素に吸収されて炭素14になったものである。

(続く)