2017年09月25日

第76回:「京都府委託事業をほぼ終えて」by 前

当法人がこの1年間に行って来た「京都府委託事業」が終わりを迎えます。
この事業に関して、私が関わってきたことを少し振り返ってみたいと思います。

● 親子理科実験教室の運営

親子理科実験教室は、春夏コース5回、夏集中コース3回、秋冬コース3回の合計11回開催しました。
私はこの運営メンバーの1人として、主に、企画会議調整/参加、動画撮影/編集、当日提示用解説資料作成、会場準備/片付け、等を行いました。理科実験教室の運営が学べたことは、今後この種のイベントを行うときに大いに役立つ良い経験をさせて頂きました。
教える内容がいかに良いものでも学習者にそれを受け入れる心構えがなければ伝わらないし、また、授業への学習者の参加意識を高める上でも、授業の雰囲気作りは大事です。このことをこの実験教室のメイン講師である松林先生は大変上手にされていて、大変勉強になりました。

● 実験教室の経験を踏まえた共著論文投稿

実験教室のテーマは全て電磁気に関するものです。
電磁気は、身の回りに電気製品が溢れているように身近なものでありながら、電場、磁場という直接見えないものが主役となるので、その原理を直感的に/実感を持って理解するのが難しいものだと思います。ですが、それ故に教育の工夫のしがいのあるものです。この実験教室の経験から学んだことを、坂東理事長、山下先生、川村先生、石尾さん、上田さんのメンバーの中に私も関わらせて頂いて、「教育/学習上の可視化や擬人化/体験学習の意義」という視点でまとめた論文2本を投稿しました。以下にその要旨を記します。

(1)『坂東昌子、山下芳樹、上田倫也、石尾広武、川村康文、前直弘、「擬人化と体験学習」、京都大学高等教育研究 第16号、2010年』

abstract

We propose a mini-magnet model as an example for a possible method of education to help to understand magnetism. We show how this mini-magnet
model works in understanding various characteristic features of magnets, which were found quite different from those of the electric properties of materials.
We performed games using mini-magnets in a series of children’s classes with their parents, which were organized with the collaboration of JEIN(NPO) and Faculty of Science of Kyoto University. We have experienced and received various suggestions on essential ingredients not only for early-stage education program but for education programs for university students. We have also learned that, for children, personalization may be a very effective way to understand natural phenomena.

全文は こちら

(2)『山下芳樹、坂東昌子、石尾広武、上田倫也、川村康文、前直弘、「自然現象の可視化―親子理科実験教室から学ぶ―」
   立命館高等教育研究 第11号、2011年』

要旨

小学生を対象とした親子理科実験教室(5回シリーズ)を,京都大学理学部,またNPO法人あいんしゅたいん,さらにはNPO法人サイエンスEネットの協力のもと実施した。実施内容である「電気・磁気」は小学校理科の単元ではあるが,「私の小学校時代の夢」と題した第一線の研究者の講話を設定するなど,科学する心を大切にしながらも,ものづくりを通した科学実験を体験できる構成とした。小学生対象ではあったが,この実験教室を通して,大学教育,特に導入教育や一般教育にも通じる様々な知見が得られた。現象の可視化をはじめ,得られた方略は初等中等教育から大学教育へとスムーズな科学教育を模索し,展開しうる可能性を拓いた。

全文は こちら(じきに掲載予定)

● 動画を中心とした教材の作成

この1年で作成してきた教材は、地球の平均気温がどのようにして決まっているかを解説した教材「地球はなぜ暖かいか」(一般の方向け)と、実験教室で取り扱った電磁気の教材(小学校教員向け)です。

(これらの教材の実物はこちらをご覧下さい。また、ご覧になってのご感想/改善案等を是非お知らせ下さい。当法人ホームページお問い合わせフォームあるいは、動画内上部リンク先のYouTubeのコメント欄まで)

この電磁気の教材は、実験教室の内容を撮影したものと別撮りの実験動画を用いて、それを編集して解説をつけてweb上で見られるようにしたものです。この教材作成は、坂東理事長と立命館大学映像学部の山田さんを中心として進めています。山田さんは映像関係のセミプロと言ってもいい人です。色々教えて頂いたことは今後の教材開発の上で大変為になります。
実験教室の準備の過程でもそうでしたが、この編集/解説を付ける作業の中で、電磁気教育を小学校から大学まで振り返ることができました。特に最近の小学校理科の電磁気では、光電池や手回し発電機が出て来たり、教科書は「おもしろ理科実験本」のようになっていて、自分が小学生のときとはずいぶん変わっているようです。身の回りで身近になっている技術を取り扱うことに重点があるように思いますが、大学での電磁気教育に長年関わっているものとしては、電磁気現象のもととなる電荷が取り扱われていないことが気になります。電流や磁石は出てくるのですが、電流で何が流れているかが扱われていないようです。これが、よくある誤概念「同じ電球2つを直列につないだときに明るさが異なる(電流消費説)」等に繋がっているように思います。静電気現象は、セーターを脱ぐときにピリッとか、コピー機とかで身近だと思うのですが、なぜ小学校では扱わないのでしょうか?磁場に対して電場が視覚化しにくいからでしょうか?
計算機シミュレーション等の情報技術を用いて「可視化」を活かした電磁気/物理教育の米国における例として、MITの「TEAL」やCarl Weimanの「PhET」などは、イメージを豊富に持たせて直感/実感が働くようにさせる教材として興味深いものだと思います。1年前から京都府委託事業と並行して、坂東理事長、松田先生を始めとする当法人は、情報技術を用いた「可視化」の研究をされている京都大学小山田研究室と共同研究を進めております。また、当法人にはe-learning等の情報技術を教育に活かすことをされている鈴木先生、森さんがおられます。理学研究者と教育研究者と情報工学研究者の協力による科学教材の開発には大きな可能性を感じます。