2017年03月28日

第26回:「再びインフルエンザについて」by 宇野

【新型インフルエンザから身を守る最前線:自然免疫力とインターフェロンシステム】

一旦治まったかに見えた新型インフルエンザが、再び猛威をふるいつつある。限られたワクチンや抗ウイルス薬資源をどう使うか、優先順位をどのようにつけるか議論がなされている。
またインフルエンザ対策として、ワクチンと抗ウイルス薬について毎週のように情報が流れているが、インフルエンザ対策としてこの二つがあれば、これでおしまいというわけではない。この二つは国民に向けて厚労省としては、対策をしているというアピールには繋がりやすいかもしれないが、むしろ本当に必要なインフルエンザ対策としては、本日(9月27日付け)朝日新聞で紹介されていた、「大規模感染沖縄の教訓」のような記事の方が私たちには有用である。
もちろん、現場におられ、対策に係わる方々は日々対策を進められているであろうが、記事にもあったように、私たちが望んでいるのは重症例への確実で迅速な対応であり、開業医とICUを備えた中核病院での役割分担体制の整備であろう。また身近な近くの医師による、きめ細かな対応である。電話で症状相談と適切な指示が得られ、必要な場合には適切な薬が入手出来る体制が整備されていれば、どんなにか安心であろう。
小学生、保育園児の子供を持つ方々とインフルエンザについて話をする機会があったが、すでに京都・大阪では子供が通う保育園や小学校で新型インフルエンザ感染が広がっており、子を持つ方々の不安が募っている。
基本的には今流行している新型インフルエンザでも、通常のインフルエンザでも、通常の場合は約1週間でほぼ治癒する。
インフルエンザを広げない為にすべきことは、感染の疑われる者が動き廻らないことである。必要な情報、治療を受けるのに、あわてふためいて動き回らなくて良い状況を作ることこそ必要と思われる。

インフルエンザ対策としては、タミフルやリレンザといった抗ウイルス薬とワクチンのみが語られ、それが手に入らないとなれば、新型インフルエンザから身を守れないような不安に陥るというのは、何か本末転倒のような気がする。
実際、日本ではインフルエンザといえば抗ウイルス剤を積極的に使うべきであると感染症学会も 提言している。

一方、WHOは安易な抗ウイルス薬の使用は返って耐性ウイルスの出現を早めると 警鐘を発している。
日本は世界で有数の抗ウイルス薬が備蓄されているという。抗ウイルス薬が十分確保されているのは悪いことではないが、抗ウイルス薬さえあれば、と、本来すべきことが抜け落ちてはいないだろうか。

本来インフルエンザから身を守るシステムについて十分な説明をし、理解を求めるという努力がもっと必要ではないだろうか。
大半の方が免疫記憶をもたない新型インフルエンザ感染に際し、最前線で働くのはインターフェロンであり、自然免疫力であることへの知識の欠如に、筆者は危惧の念を抱いている。

実際インフルエンザ感染後の生体の反応について見てみると、ウイルス感染後ウイルスの増殖に伴って、Type Iインターフェロンが産生される。その頃の気道洗浄液には、まずウイルスの増殖、続いて数時間のずれでインターフェロンが検出される。インターフェロンはウイルスの増殖を抑えたり、ウイルスの拡散を押さえる300種以上のタンパク質を誘導し、その結果ウイルス量は低下していく。
ちょうどインターフェロンの産生がピークとなるころ、発熱もピークとなる。熱が下がり始めたということは、インターフェロンによりウイルスの増殖が抑えられつつあるということの証でもある。
一方、ウイルス抗原を認識した免疫細胞は、ウイルス特異的抗体を産生し、ウイルス感染細胞を殺すキラーT細胞が分化してくる。
これらの細胞が出現してくるのに約1週間、その間にインフルエンザは治癒する。これが自然経過である。
このような自然経過を経たヒトは、次に同様の新型インフルエンザウイルスに曝されると、今度は、ウイルス特異的抗体の産生や、ウイルス感染細胞に対するキラーT細胞の出現が数日で立ち上がるので、2度目は軽くてすむということである。
インフルエンザQ & Aで、新型にかかった人は、ワクチンを受けるべきかなどの質問が寄せられていた。不必要なのはいうまでもない。実際、1968年から流行した香港カゼ(インフルエンザA型)では、一度かかった人は、2回目は同じ香港カゼにはほとんどかからなかったという。ワクチンより、自身の身体が作り出した免疫力の方がよっぽど効果があることの証である。
これがいわゆる狭義の免疫(疫を免れる)で獲得免疫(特異的免疫)と言われる機構である。

とにもかくにも、今回の新型インフルエンザのような大半の型が免疫をもたない新規のウイルス感染においては、個々人の感染の重症化の有無を左右するのは、暴露されるウイルス量と自然免疫力(初期免疫)の力の差が結果を左右する。
ウイルス量を減らすと言う意味で、咳エチケットや手洗い、うがいは有効であるし(私は帰宅したら手洗い、うがい、そして顔をあらうというのも有効と考えている)、規則正しい生活というのも自然免疫力の保持に有効である。

自然免疫力とりわけウイルス感染の際に、重要な役割を果たすのが、Type Iインターフェロンである。
筆者は、20年来ルイ・パストゥール医学研究センターにおいて健常人および種々の疾患患者のインターフェロンを作る能力を測定してきた。長年にわたる結果は、インターフェロン産生不全の方の割合の多い疾患は、新型インフルエンザで報告されているハイリスク群の方とほぼ一致する。即ち糖尿病、種々の癌、骨髄異形成症候群、結核、C型肝炎患者、HIV感染者(未治療の方で血中にウイルスの多い方は低下していた。多剤併用療法が成功し、CD4数も正常という人は、健常人と遜色がないとは、手持ちのデータが示している)、一部の腎炎患者、には高い割合でインターフェロン産生能不全が認められる。
手持ちのデータでは妊婦のかたも通常の時より低下していた。つまり、ハイリスク群の抽出にあたっては、筆者は自然免疫力・インターフェロンシステムという観点からこれまでのデータを俯瞰してみることにより、より正確にハイリスク群が抽出可能と考えている。

Type Iインターフェロンは50年以上前に、ウイルス感染を阻止する液性因子として、日本(長野/小島)とイギリス(アイザックス/リンデマン)で独立して発見された。その後、現在では肝炎の治療薬や抗腫瘍薬として使われていて、これが元々抗ウイルス因子として発見されたことを知るヒトは以外と少ないと思われる。
ウイルス感染防御に体内で働くインターフェロンは、せいぜい数から数十単位とC型肝炎の治療で1回に投与される10万分の1?100万分の1の量である。オーストラリアでは低単位のインターフェロンを感染予防に使うという 治験が進行している と聞いている。
またインターフェロン/自然免疫の研究では、谷口維紹(東大)、審良静男(阪大)、藤田尚志(京大)といった日本の研究者が世界をリードしている。その割には学校現場での自然免疫に関する理解が不十分である。
免疫といえば、特異的免疫、そしてワクチンという認識は十年以上前に免疫の教育を受けた医療者の間にも根強い。もう少し現代の免疫学の知識からインフルエンザ対策を考えてほしいと、インターフェロン研究者の一人として提案するしだいである。

 追記:
最近、ある女性週刊誌に免疫が強くなるとサイトカインストームが起こるから要注意などとある医師がコメントしていた。(これは何でも免疫という漠然とした言葉で、説明する、困った風潮だと思った。一面を捉えてこんなコメントをすると、不安をあおるだけではないだろうか。)
またインターフェロンで予防といったら、サイトカインストームが起こり、重症化するのではと聞かれた。今、文献を検討しているが、少なくともインターフェロンの産生を押さえても、サイトカインストームは起こる。(筆者は、むしろ悪化すると思っているが。)
それに、特に強毒性のインフルエンザはNS1というインターフェロンの産生を抑制する蛋白をもっている。インフルエンザウイルスが人への感染にあたって、人のインターフェロンシステムに対抗する為に進化させてきたのが、NS1である。即ち、インターフェロンが出ないとウイルスが急速に増えて重症化するのであり、特に人のインターフェロンシステムを押さえる能力の高いウイルスが強毒性である。
1918年のスペイン風邪ウイルスはNS1を持っていて、インターフェロンが十分に出なかったから、重症化したようである。インターフェロンが重症化の引き金になることは、まずもってない。ただこの辺はまだまだ研究が十分でないと、あらためて、資料を調べていて思った。50年以上前に日本の研究者がこの発見に係わっていながら、正しく理解されていないことに、その研究者の一人として、インターフェロンシステムについて正しく、知ってもらう努力の必要性を改めて思った次第である。