2017年10月19日

教材公開に込めた思い(ブログ その46)

「こどもたちの質問に、分かるように答えられますか?」

ようやく、この1年、協働で作り上げた教材は、親子理科実験教室での授業から得た「教材づくり」の成果が、完成し始めました。
親子理科実験教室では、私たちは「電気磁気」をテーマとして取り上げました。これから、動画を中心に、原理を説明する部分を盛り込んで紹介していくつもりです。
この教材のねらいは、小学生から大人まで、納得できるようにという明確な意図を形にして、「どうしてかな」「知りたいな」と思う気持ちを満足させられるよう、組み立てました。そして、小学校の先生が、ご自分も楽しみながら授業の参考にできるよう心がけました。
教材は、私どもの「活動報告」ページに随時紹介していきます。どれも5分程度のモジュール教材です。モジュール教材とは、組み合わせて、1つのストーリを作れる部品教材という意味です。
どれも、小学校の教科書や学習指導要領を参考にはしたものの、不十分なところは補い、さらに、新しいアイデアを盛り込みながら、テーマと内容を決めました。

例えば、電磁誘導については、小学校では、コイルに巻いた電磁石の話から始まります。
しかし、電流が流れると周りに磁場ができる事に基本は、直線電流の理解です。今回、最初に完成した教材「電気と磁気のお話―電気の発見から応用までの歴史」という5シリーズがあります。

電気と磁気のお話シリーズ1(EM-TA-S-01~05) 電気の発見から応用までの歴史(杉原和男先生)

目次
1 フランクリンと平賀源内(静電気の時代)
2 ボルタの電池から電流の利用へ
3 エルステッドの大発見(電気と磁気の関係の発見)
4 ファラデーの心眼(電流と磁力の関係の解明/利用へ)
5 エジソンの送電事業(電気をみんなのものに)

このシリーズの3では、エルステッドが電流を流すと磁場ができることを発見した歴史がかたられています。このときの、演示実験は、明らかに直線電流で行っています。
私たちは、当初、小学校の教科書で、いきなり電磁石が出てくるので、どうして最も簡単で歴史的にも最初に取り組んだ直線電流の話が出てこないので、実はかなりの議論をしました。

「どうして、最も簡単な直線電流から話を始めないのだろうか」という議論です。実は、この直線電流の作る磁場は、中学校で出てくるのですが、
「基本に戻るべきだ」

ということで、電流を流してまわりの磁場を確かめる方法を探しました。そして、当たり前ですが、周りの磁場が地磁気に勝つためには相当強力な電流を流す必要があることに気が付きました。

強力な電流を実現するには、乾電池を少なくとも10個以上直列に配置して、電圧を上げないといけないのです。その上、強力な電流が流れるので、できるだけ抵抗の少ない電線が必要となりますが、あまり抵抗が少ないと電流が流れすぎて、逆にショートしてしまいます。理論しか知らない私たちにとっては、この解決は大変でした。

考えてみれば、たった1つの乾電池から流れる電流を使って強力電磁石を作り、それで人間がぶら下がっても大丈夫なくらいの磁石を作ることができるのですから、直線電流からコイル状に巻くという発想への転換は、技術、モノづくりの観点から考えるとすごい展開です。ファラデーという人は、理論だけでなく、いろいろな物質が奏でるさまざまな現象を自分で確かめ、そこにある自然法則を生き生きと描き出した科学者だったのだと、つくづく感心します。この原理こそ、大電流を作る仕掛けだったのです。

「地磁気にうち勝って周りに強力な磁場を作るだけの大電流を、どうして作るのだろうか」

インターネットで検索すると、直線電流の周りに方位磁針を近づけ、自身が動く実験はたくさん見つかります。しかし・・・、

「いったいどうしてそういう強力な電流を作れたのか?」

ということは、よくよく観察していると分かりました。実は、電線は1本ではなかったのです。つまり電線を何重にも通してまとめた電線だったのです。1本について0.1アンペアの電線を10本集めれば1アンペアの電流が流れたのと同じ効果が得られるということです。
コイル状に電線を巻き、それを束ねた電線を作るため相談を、この実験教室に協力していただいているSEネットの事務局長であるリテンの藤原さんに、「こういうものは作れませんか?」といった相談をしたのです。そしたら、藤原さんは、「そういう言う道具を杉原先生が開発しています」と教えてくださり、たどり着いたのが、杉原和男先生が工夫して作られたパスカル電線でした。こうして、私たちは、杉原先生から様々な事を学んだのです。
杉原先生には、秋コース親子理科実験教室でお話し願いました。そのお話は、とても面白く、子供たちだけでなく、大人にも好評でした。人間がいかにして、新しいことを発見し、それを私たちの生活に役立てるものづくりへと発展したか、よく理解できました。
電気磁気の話は、現代生活では欠かすことのできない電気の時代へと導いてきました。その歴史を話すことは、どうして原理を発見したか、そしてファラデーの仕事がマックスウェルの統一理論へとつながってきたのか、という人間の探求の歴史とともに、それを人間が利用して、さまざまな工夫をして、生活を便利にしてきた道のりを実感させてくれます。
5つのシリーズにまとめられた教材(EM-TA-S)をどうぞお楽しみください。

こうして、親子理科実験教室のまとめ役をしていた松田卓也さん(秋コース)も私(春夏コース)も、理論は一応理解しているつもりでいたが、電気磁気の奏でる様々な現象を本当には理解していなかった事を思い知りました。それは、松田卓也さんの「電流のエネルギーは電線の外を流れる」というシリーズ(EM-TA-M 来週にアップ予定)にもつながるのです。
教材の1つ1つには、このような、私たちにとって新しい体験に基づいた思いが込められています。小学生とともに楽しんだ「親子理科実験教室」は、私たち自身の自然に対する再発見でもありました。

「そんなこと、わかったことだ」というベテランの科学者や教育者の反応もないわけではありません。しかし、大切なのは、「なぜかな」と思った時、それをもう少し深く考え、新しい発見へとつなげていける気風をもつことです。そうすれば、大人にも、専門の科学者にも発見があるのです。これこそが、今回の取り組みの特徴であろうと思います。実験をうまくやればいいでもない、分からないことはいい加減にして、覚えさせるというのでもない、そういうことができない私たちが、試行錯誤して始めた親子理科実験教室は、私たち自身に新しい知見を与えてくれました。これも、可視化実験室を訪問されるたくさんの方々、親子理科実験教室を支えてくださった沢山の仲間たちという「場」が与えてくれた効果でしょう。

「こういう教材は大学でもやってみればいいなあ」とは、京都大学で電磁気学を講義しておられる田中耕一郎教授の感想です。田中さんには、第2回の春夏コース親子理科実験教室でお話し願いました。「見えないものを見る」というテーマで、子供たちに大好評でした。(これも、教材EM-TS-Tとしてお目見えする予定です)
田中さんとは、そのあとも、松田さんと一緒にお伺いして、電磁気の議論をさせていただきました。電磁気学は、マクスウェルが完成した古典電磁気学と、19世紀に生まれた新たな量子力学の枠組で完成した量子電磁気学という理論があります。マクスウェルの理論では、マクロな量、電流・電圧・磁場 と物質の電磁的性質を表す、誘電率、透磁率などのマクロな量、 を使って語られます。しかし、実際に物質が原子からできているのですから、この原子の配置や性質から、いろいろな電磁気に関するふるまいを説明しようとすると、量子電磁気学で解くことが必要になってきます。そうすると、その間を繋ぐ理論というか処方が必要になります。

ナノテクノロジーの時代に突入している現在、この間を繋ぐよりリアルな探求が必要になってきたのです。原子の性質が、マクロな世界でどう発現するか、それが分かってくると、原理に基づいた技術がさらなる発展をするに違いありません。その意味では、基礎科学と社会のつながりを深める素晴らしいネットワークがここに秘められているのではないでしょうか。

今回公表するモジュール教材は、進化する教材として、皆さんの中でもまれながら、磨きをかけられていくことを期待しています。それには、教材作成とそれをみんなで改善していけるインターネット上の交流広場が重要な役目を果たします。どうか、ご意見をどしどしお出しいただきたいと願っています。さらに、さまざまな活動の中で皆さんが工夫して作られた教材とのネットワークを作り、誰もがどこでも利用できる共有財産にしていくことを期待しています。

なお、この一連の教材に加えて、地球温度化でよく問題になる、地球の温度はどうしてきまるか」についても、教材開発のページに一覧表がありますが、そのなかの教材1というのがそれに当たります。これもご覧ください。