2024年03月29日

中馬さんとの出会い(ブログ その45)

ブログ その44で、再チャレンジ!女性研究者支援神戸スタイル のメンター制度 のことを書きました。実は、私もメンターとして登録されています。おばあさん力が少しでも役に立つといいなあ、そんな気持ちでした。
そこで、私は若い女性研究者と話す機会に恵まれました。その1人が、中馬いづみさんです。彼女は、神戸大学理系若手女性研究者プロジェクト奨励研究員です。大変活発で、視点も面白く、その楽しいメンターの経験をご紹介したいのです。

1.きっかけ

2009年3月10日、「神戸スタイル女性研究者支援報告会」に、私は出席しました。その第2部「 育成研究員」研究発表会で、3人の女性研究者の研究発表を聞いたのです。そのときには、以下のようなプログラムでした。

第1部「 子育て中の男女研究者支援」報告―あなたも利用できる研究支援制度の体験談―
 ◇ 人文学研究科 准教授 平井晶子
 ◇ 経済学研究科 准教授 衣笠智子
 ◇ 保健学研究科 講師 中山貴美子
 ◇ 自然科学系先端融合研究環遺伝子実験センター技術専門職員 岩崎哲史

第2部「 育成研究員」研究発表会
 ◇ 理学研究科生物学専攻 日下部りえ
  「 遺伝子制御が生み出す、からだの複雑性と多様性~microRNAの動物種間比較解析から」
 ◇ 工学研究科機械工学専攻 山本英子
  「 デザインの創造性を知るための仮想モデリング」
 ◇ 農学研究科生命機能学専攻 中馬いづみ
  「 イネ科植物いもち病菌の多様性と病原性変異機構」

若い研究者を奨励するプロジェクトはよくありますが、実をいうと、いろいろな評価に外部から関わっても、直接若手の話を聞くという機会はほとんどありません。書類上で評価することが多いのです。ところが、このプロジェクトの発表会にお誘いを受けたのです。そして、直接3人の女性研究者の研究発表を聞いたのです。興味深かったのは、このプロジェクトを引き受けた指導者がそれぞれの発表にコメントを付けることになっているのです。そこで発見したのは、どの方も、頑張っておられ、しかも自分の事だけでなく、研究室の環境改善や社会に向けてなんらかのお役に立ちたい、という崇高な精神を持っておられたことです。また、引き受けた研究室は、どれも、志が高く、新しい分野にチャレンジする気風があり、大変積極的な姿勢がみられてとても感銘を受けました。きっと、このプロジェクトを評価し決定されたスタッフの方々が、見識が高くご自身が優れた気風をお持ちだったと推察できました。まあ、だからこそ、研究発表会を堂々と公開で行える力量があったのだと思います。どの発表も興味深く異分野交流を促進する素晴らしいきっかけを与えてくれたものでした。

2.メンターとして

それはともかく、そのなかの1つが , 中馬さん (農学研究科) の「イネ科植物いもち病菌の多様性と病原性進化」という発表でした。いもち病菌と稲との戦いが、この社会で起こる戦いに対する戦略そっくりで、生物のしたたかさをよくあらわしていて、とても面白かったのです。
それからしばらくたって、「メンターお願い」があったのです。それが中馬さんでした。

******** 中馬さんのメール ********

坂東昌子先生

神戸大学大学院農学研究科の中馬いづみと申します。男女共同参画推進室の桜井さんより、坂東先生からメンタリングをご快諾いただいたとの連絡をいただき、メール致しました。お引き受けくださったこと、また、私のことを覚えていてくださったことを、たいへんうれしく思います。ありがとうございました。よろしくお願い申し上げます。

今回、メンタリングを希望したのは、特に急を要するという内容ではございません。先日の、育成研究員発表会の際に坂東先生とお話し、私の研究内容に対して先生からいただいたお言葉にとても感動し、ずっと心に残っていたため、またいつか先生とお話できたらと思っておりました。そのことを、桜井さんにお話したところ、早速桜井さんが坂東先生にお願いしてくださった次第です。

先生からいただいたお言葉というのは、「日本人は高い服を着てイタリアに行くとスリにあう。行ったことのない人はスリにあわないので高い服のまま」という、私の研究しているいもち病菌(日本人)と宿主植物(イネ=イタリア人スリ)に対する比喩です。とてもうれしく、研究が楽しいということを、強く実感しました。こんな喩えは、植物病理学のどの先生からも得られたことがありません。研究室に帰ってさっそくメモし、時々そのメモを見ると、元気が充電されたような気持ちになります。

ところで、私の慢性的な悩みといえば、パーマネントの職が得られていないということです。研究そのものに関しては、とても満足しております。修士課程のころから指導を受けてきた土佐幸雄教授が、とても理解ある人で、先生と研究をすることと、先生から学生の指導を任され、その学生とともに研究をすることが楽しく、あっという間にポスドクとして6年経ってしまいました。データはたまっているのですが、論文数が少ないため、今年はデータのすべてを論文にしなければと苦労しております。6年間論文が書けなかったことは、一番大きなコンプレックスになっていますが、今は開き直って書くしかないと思っています。

メンタリングの制度でなければ、先生の貴重なお時間をいただくことはできないことを承知で、先生とお話させていただき、先生から何かご助言をいただければと思います。

何卒よろしくお願いもうしあげます。

3.中馬さんとの交流とネットワーク

それから、論文を書くことや、生物に関する楽しい議論が始まりました。その仕事の話は、基礎科学研究所のブログや科学の散歩道に、紹介することとして、ここでは、その後中馬さんの活躍ぶりを紹介します。
例えば、

******** 中馬さんに出したメール例 ********

実は、先週若い人たちとの懇談会を私の家でやりました。そのとき、若い人がやはり「データはたまっているのですが、論文が書けなくて・・」という話になり、いっとき、その話になりました。この様子は こちら にあります。この中の稲垣さんという女性ですが、彼女は吉川先生に、「論文、はよ、書け」とせかされているそうです。私も一緒になって、「早く書いてね」などとはっぱをかけています。だいぶ進行しているみたいです。この会においでいただけばよかったなあ、などと思っているところです。 彼女の論文が仕上がったらまた集まろうね、と言っているところですので、今度またお誘いしますね!

などというのもありました。稲垣さんも、吉川先生のご指導よろしくPhysics letters というアメリカの有名な(インパクトファクターの高い)ニューズレターにまとめられました。これを見せてくださったのは、稲垣さんが属する研究室の教授、吉川研一さん(現在京都大学理学研究科長)で、論文のコピーをくださいました。とてもうれしそうな顔でした。いいですね。こういうの!ついでですが、稲垣さんは、いい伴侶に恵まれ、ついこの間、ママさんになられました。おめでとう!

わがNPOも、いよいよ子育て支援の立場からも、知的人材をサポートする実際の活動をと、女性グループが立ち上がりかけています。これには、子育ての済んだ「おばあさん力」が力を発揮することでしょう。
また、2010年のお正月に、女性たちが、私の家に遊びに来られたのですが、その時、いらっしゃってくださいました。(今年は京都府の委託事業の仕事と、基礎科学研究所の立ち上げなどで忙しすぎて、お正月は殆どパーティもできませんでした。来年はもっと余裕を持ちたいです!)  この時の写真と、稲垣さん、柳澤さんたちのカップルとの楽しいグル―プミーティングの写真も紹介します。

中馬さんも、いい上司に恵まれています。前向きでとても研究を楽しんでいましたのが、間もなく、彼女は猛然と論文を書き始め、その年度の終わりごろには、4本の論文をまとめたという勢いでした。
そして、なんと、中馬さんは、日本植物病理学会の平成23年度論文賞をゲットされたのです

次々と論文を仕上げて、思う存分研究を満喫している中馬さん、これから、さらに伸びていかれることと楽しみにしているところです。こんな交流も持てるなんて、メンター冥利に尽きますね。
若い研究者のみなさん、「近頃の若手は頼りない」などという声を吹き飛ばして、元気を出して、ネットワークを広げて!頑張れ頑張れ!