2017年12月16日

森脇先生のご紹介(ブログ その130)

あいんしゅたいんと京都大学理学部で共催している「おもしろ算数塾」ですが、2017年1月9日に開催する第2回の講座で、理学研究科長の森脇先生が子どもたちのためにお話しくださることになりました。

理学部と長らく一緒に共催して行ってきた親子理科実験教室では、素晴らしい若者たちが自ら教材を作り、自分たちが研究している材料も盛り込んで、子どもたちに「こんな面白いことやっているんだよ」と話しかけている姿は見ていて頼もしいし、彼らもよく成長してくれています。
そして、今年度からは、理学部だけでなくアシスタントをしている学生や大学院生に対しても、学部を超えて、大学としてのご援助をいただけることになったので、この秋から「おもしろ算数塾」を始めました。
最初に取り組んでいるのは、日本で大変軽視されているけれど、大変重要な「統計的なものの考え方とセンス」を養うことを目的としています。その心は、「実験や不思議な現象を見て好奇心を持つことが科学への第1歩」とはいえ、それが本当に、物事を解明する素晴らしい力に発展させられるためには、どうしても「数学」が要ります。
数学は、現象を語る「ことば」です。この「ことば」を使いこなさないと、理解があいまいになり客観的でなくなります。世の中にたくさん子どものための実験教室が増えてきたことは確かですが、それが、単なる「手品のようなおもしろさ」や「不思議だな」という好奇心からさらに高い認識に至るためには、現象を客観的に冷静に見るための道具、つまり数学が必要になります。
ここで躓くと、単なる好奇心で終わってしまうことになります。 そんな思いを込めて始めたのが、「おもしろ算数塾」です。

森脇先生は、親子理科実験教室をあいんしゅたいんと共催してくださっている理学研究科長でいらっしゃいます。
ご専門が、数学・数理解析ということで、難しそうな数学のご専門なので怖い先生かと思っていましたら、お会いすると、大変面白い気さくな先生でした。しかも、科学普及のための活動も行っておられます。
そこで今回、おもしろ算数塾で「特別レクチャー」をしていただくことになったのです。森脇先生のことを少しご紹介したいと思います。

みなさんは「数」というと何を思い浮かべますか?
小学校の1年生なら、1,2,3・・・というところから習いますね。これを自然数といいますが、足し算だけでなく引き算を習うと、例えば「1-2は?」といわれると、「そんなの、できないよ。1足りないよ」というかもしれません。ところが、数学では「マイナス」という数を考え出しました。これを整数といいます。
次に割り算を考えると「1÷2は?」というと、整数しか知らないと困ります。そうして分数とか小数を考えだしました。
さらに、ルート2とかいった数も仲間入りし、連続な数の中にはたくさんの違った性質の数があることがわかってくるのです。さらには「複素数」といって、2つの数で1つの数を表すようなものまで広がってきました。だんだん複雑で難しくなるようだとみんな思うかもしれません。

ところが、森脇先生は「数の中で一番難しいのは整数です」とおっしゃいました。
なるほど、連続している数なら、ちょっと隣の数のことを知るのにちょっと移動すればいいので、簡単にたどり着けます。そして、また隣というふうに、連続鉄器に移動して数をたどって考えることができます。
しかし、整数だけだと、1から2にとびますので、その間を飛び超えることが必要なのです。難しい言葉でいうと、「解析的な方法」が使えないのです。

ところで、私がお話に伺ったとき「整数論って役に立つのですか?」と厚かましくも聞いてしまいました。え?物理の、しかも役に立つとは思えない素粒子論などやっていた私が「役に立つの?」とは何事?と思われるかもしれません。
でも、先生はニコニコして、「暗号化技術は整数論を応用しています」とおっしゃいました。そうなんです。今はセキュリティの問題など暗号化は必要不可欠なのですね。

もっと不思議だったのは、先生はその中でも、数論幾何学という分野だそうです。 え?なんで整数論と幾何が結びつくの?と思われるでしょうね。
例えば、みなさんは、直角3角形の3辺が、2㎝・3㎝・4㎝になっているものがあることを知っている人もいるかもしれません。それは式で書くと

   32+42=52

となっています。これはピタゴラスの定理っていうものですね。 ところで、数学者というものはいつも「もっと一般化してみよう」と思うものです。そして、一般に

   xn+yn=1(nは自然数 X,Y,Zは整数)

というものにどういう解があるかというような数論の問題を考えだしました。結構、これ難しいのですよ。
こういうとっかかりから、ちょっとは幾何学と関係しているのことが分かってくれるかな? 整数論の研究に幾何学と結びつくお話は、20世紀になって発達した学問だそうです。思いもかけないつながりが、研究を深めていくと出てくるのですね。

森脇先生の研究のご紹介は難しいですが、先生も説明するのに苦労されているみたいで、「整数論を幾何学的な観点から研究していくというのが数論幾何学というものです。
その中でも、1960年代の終わりぐらいから70年代初めの頃にかけて、特にアラケロフというロシアの数学者が提唱した幾何学がありまして、私は今、そのアラケロフ幾何というものを中心に研究している状況です。それに対するいろんな応用はもちろんあるわけで、方程式にどういう解があるのかというようなことが、そういう研究を通して分かってきます。
例えばフェルマーの問題はワイルズによって解決されましたが、そういうところに重要な貢献を果たしていくという風に言えば少しは分かりやすいかなと思います。」と書かれています。 尤もこれ、大学生向けですが・・・・。

でも、私もこの説明を読んでいると、「アラケロフ」という人も聞いたことがなく、知らない言葉がいっぱい出てきます。「他分野と交流して、いろいろ自分の視野を広げなければ」と「どんな分野でもわかるはずだ」という意気込みを持っても、なかなか難しいことを悟りました。
困り果てて、学部時代、素粒子論で今では国際的に大活躍の大栗博司さんには、物理の中でも数学をよく知っておられるので、「恥ずかしいけど教えて」といって聞いてみたら以下のような答えを送ってくれました。森脇先生と同級生だったそうです。

「森脇君は私の学部時代の同級生で、いろいろな数学を教えてもらいました。今年の6月に、基礎物理学研究所の滞在型研究会で2週間ほど京都に滞在していた時に、森脇君や何人かの同級生と夕食会をしたばかりです。 森脇君の研究分野や、数論幾何といって、整数論の研究に幾何学的手法を取り入れるという20世紀に発達した斬新な考え方です。整数という離散的な対象を扱うので、私たちの持っている幾何学図形(円や三角形など)とは異なるものですが、幾何学の考え方を抽象して、一般化していくと、離散的な対象についても使える道具ができるというわけです。森脇君は、こうした整数論的な意味での幾何学において、「森脇の不等式」を証明して、これは整数論のいくつかの大きな問題で重要な役割を果たしました。幾何学図形は、代数方程式の解として実現される場合があります。この場合には、もちろん図形の上の点の数は連続で無限大ですが、変数の値を有理数(分数)に制限したときに、解が有限か無限かは、整数論で重要な問題です。たとえば、ファルティングスは、このような問題のひとつの「モーデル予想」を証明して、フィールズ賞を受賞しました。森脇君の仕事は、このモーデル予想の一般化の証明などにも使われたそうです。」

なかなか難しいですが、でもこういう数学研究があるというのはちょっと知っておいてもらうといいかなあと思います。私も勉強になりました。
せっかく、こういう分野もあることが分かったので、たまにブログにまとめて、書き留めておくこととします。大栗さんに感謝!感謝!です。