サロン・ド・科学の探索 第22回
日 時:2016年8月14日(日) 14:00~17:00
場 所:NPO法人あいんしゅたいん事務所(京都市左京区吉田本町 5-14)
|
テーマ:ヴァージニアウルフの日本と戦争へのまなざし
トーク:木下由紀子氏〔神戸女子大学名誉教授・京都大学・関西学院大学非常勤講師 専攻:英米文学)
8月は木下さんにお願いしました。木下さんは、昔からの女性研究者の仲間です。1982年奈良女子大学文学部英語・英米文学科を卒業、1984年修士課程修了(文学修士)、同年京都大学文学研究科博士後期課程(英文学専攻)に進学。1987年単位取得退学。京都大学研修員(1988年)、1989年より神戸女子大学文学部講師を経て教授として1999年まで務められました。その間、カリフォルニア大学客員研究員(1990年-1992年)、ACLSフェロー(1991年-1992年)、ロンドン大学クイーン・メリー(Queen Mary, University of London)大学院英文学・演劇研究科(School of English & Drama)(1994年 - 1997年在籍、1997年、博士号取得)、イエール大学客員研究員(2010年)、ロンドン大学クイーン・メリー客員研究員(2015年)で研修を積み、英米の現場を見てこられた方です。現在は、非常勤講師として京都大学・関西学院大学で教えておられます。科学研究費も取り大学のために奮闘しておられた木下さんがなぜ大学の教授職を辞し、非常勤講師の身になられたのか、それも大変長い話になるので、ブログにでも書きます。 8月は終戦を迎えた月です。木下さんが「戦争と女性と、そしてウルフの思い」を語ってくださいます。ごいっしょに、歴史を振り返りながら、終戦を迎えた8月を思い出していただければと思います。木下さんが書いてくださった挨拶を紹介します。8月は終戦を迎えた月です。木下さんが「戦争と女性と、そしてウルフの思い」を語ってくださいます。ごいっしょに、歴史を振り返りながら、終戦を迎えた8月を思い出していただければと思います。木下さんが書いてくださった挨拶を紹介します。 |
話 題: | ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf, 1982-1941)が日本を「発見」し、東洋に憧れたのは、岡倉天心の『茶の本』がイギリスとアメリカで同時出版された1906年前後。1902年の日英同盟、1904年の日露戦争における日本の勝利という政治的背景が19世紀半ばからあったイギリスの知識人の東洋熱を再燃することに一役買います。この社会的風潮に20代のウルフも無縁でなく、駆け出しの書評者のひとりとして、1902年に創刊されたばかりの『タイムズ文芸誌』に、日本と中国にかかわるエッセイと短編からなるローリマーという女性作家の『東洋の呼び声』(The Call of the East)の書評をしています(1907年)。その後も東洋は彼女の意識化にあり、1925年に『ヴォーグ』誌にウエィリー訳『源氏』の書評をします。彼女はこの時40代で、作家として最も脂がのっていた時期にあたります。彼女の作家としての本質に東洋が与えた影響は見逃せないと考えています。日本に関心を持ち始めたころ、日露戦争を経験したとはいえ、日本はウルフにとって基本的に「平和」と「女性」の国です。因みに、作家・批評家・活動家であったウルフの夫のレナードも東洋に関わりがあります。結婚前、彼はイギリスの統治下にあるスリランカの官僚でした。ここで7年働きますが、何より現地のスリランカの人々から信望を得たという点は特筆すべきです。(ヴァージニアと結婚を決めて、この職を辞します。この二人の関係も興味深い点が多々あるのですが、これを話し始めるとまた長いので、ひとまず置きます。)婚約時代、中国についての本をやり取りしたりしています。さて、東洋贔屓は岡倉と親交があり、ウルフの親しい友人であった画家・美術批評家ロジャー・フライ、海を挟んでアメリカの女性詩人のエミー・ローウェルとも共有されています。(ローウェルは英訳『紫式部日記・和泉式部日記』に序文を書いています。日本贔屓のローウェル家とウルフの実家のスティーブン家にも知的交流がありました。)ですが、ウルフが『源氏』の書評を書く20年代には日本の帝国主義は確実なものとなり、彼女の日本へのまなざしには批判と嘆息が混じります。ウルフはその『日記』でほとんど日本に言及しないのですが、1937年に日中戦争にただ一言触れています。(深読みになるかもしれませんが)これがその日の日記のほとんど最終行に短くあるために、重く残ります。拡大し泥沼化する戦争への深刻な懸念、幻滅とも読めます。ウルフをはじめとするイギリスの知識人には、中国と日本は分かちがたくつながっています。(これには岡倉の『茶の本』の浸透が一役かっているかもしれません。)『源氏』の翻訳者ウエィリーも元は中国文学研究者で、日本文学へと幅を広げます。ウルフの甥っ子は中国文学を専攻し、中国へも行っています。日中戦争はヨーロッパの戦争以上に「肉親の争い」と映ったかもしれません――などと書くと情緒に流れてしまいそうですが、そうならぬよう、日本との関わりに言及しつつ、ウルフの反戦思想の一端をなるべく正確に紹介できればと思います。 |
定 員:12名程度
申 込:「サロン・ド・科学の探索」総合ページをご覧の上、参加申込フォームよりお申込みください
● 申込方法が分からない場合は、直接下記連絡先へお電話ください
TEL: 075-762-1522(平日10時~17時)
● サロン参加経験者の方は、下記を明記の上、直接メールいただいても結構です。
● 氏名
● 希望参加回
メール送付先:secretariat[at]jein.jp ※ [at]を@に変更してください
備 考:クッキーとお茶代として500円をいただきます。ご協力お願いします。