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ドーパミンを賢く利用して充実した1日を送る方法

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ドーパミンは脳内に存在する神経伝達物質であるが、それは快楽、喜びのホルモンであると誤解されることが多い。ドーパミンの役割はそれだけではない。例えばパーキンソン病は手が震えたり、よちよち歩きになったりする病気であるが、それはドーパミン不足によるものである。脳幹の黒質という部分から分泌されるドーパミンが不足すると、大脳基底核が運動をうまくコントロールできなくなる。そこでパーキンソン病の治療法として、ドーパミンの材料となる物質を与える。本項では前回同様、スタンフォード大学医学部の神経科学者フバーマン教授のポッドキャストに基づいて、ドーパミンの別の側面、つまり我々のやる気と集中力を高める作用について述べる。

やる気を持続させるドーパミンをうまく出す方法

先に述べたように、ドーパミンは我々のやる気や集中力に密接に関係した脳内化学物質である。ドーパミンレベルが上昇すると、我々は目標に注意を集中して、それを追求する意欲を感じる。それで仕事や勉強がはかどり、充実した人生が送れる。それではどうすればドーパミンのレベルを上げることができるか。

まず1日を3つのフェイズに分けることを考える。フェイズ1は起きてから約8時間である。簡単に言えば朝から午前中、午後早くの時間である。この時間帯は頭脳的にも身体的にも最も活力的な時間で、集中して物事を考えるのに適している。フェイズ2は起きてから9時間後から16時間後までの時間である。要するに午後後半から夜にかけての時間帯である。この時間帯はだんだんと疲れてくるので、あまり集中的な仕事や勉強には適さず、ゆったりとして創造的に物事を考えるのに適した時間帯である。フェイズ3は17時間後から24時間後までで、要するに寝る時間帯である。

フェイズ1で最も重要なことは、朝日を浴びることである。毎日、日の出を拝むか、遅くとも日の出の数時間以内に、太陽を見ることは動物としての人間の生理にとって極めて重要である。これにより睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、活動のホルモンであるドーパミンとコルチゾールの分泌が始まる。

朝日を浴びることは概日周期(サーカディアンリズム)を整えるのに重要である。概日周期とはほぼ24時間の周期であり、体内時計で管理されているが、普通は24時間より長い。だから努力しないと、起きる時間と寝る時間がどんどん遅くなって行く。朝日を浴びることは、この概日周期を24時間に設定し直す効果がある。サーカディアンリズムに関しては以前の記事を参照されたい。

メラトニンと近赤外線1: 可視光について

どのくらいの時間、太陽光を浴びる、あるいは見るのが良いのか。(目の安全のため、太陽を直視してはいけない)。それは明るさによる。晴天の場合の典型的な空の明るさは10万ルックス程度、曇天の場合は1万ルックス程度、室内照明で最も明るい場合で1000ルックス程度、普通の照明なら100ルックス以下である。つまり太陽光を見るのと室内照明を見るのでは、千倍以上の違いがあるのだ。太陽光を見るなら数秒から数分、曇天の場合なら数十分、室内ならフェイズ1の全時間で、室内照明を最大限に明るくする必要がある。もっとも、これでも足りないのは先の数字で明らかであろう。

ここで読者は疑問に思うだろう。朝日を見ることが大切というが、自分はそんなものは見たことはないし、見なくてもこれまで生きてきたし、これからも生きていけるはずだ。それは確かにそうである。しかし不安やウツを感じたことはないだろうか。集中力がなく、なんかやる気が出ないと感じたことはないだろうか。これからもボケないで元気に長生きできると確信できるだろうか? 冬季ウツとか高緯度帯の人々にウツが多いことと、太陽光の不足が密接に関係していることが知られている。つまり朝日を浴びることは、ウツや不安にならないだけでなく、元気で活力に満ちた人生を送る秘訣なのだ。その生理的な機構がドーパミンと密接に関係しているのである。

照明に関していうと、フェイズ1では室内照明はできるだけ明るくする。それも頭上から照らすのが良い。ブルーライトはこの時間帯はむしろ好ましい。

フェイズ2ではだんだんと照明を落として行く。とくにブルーライトは避ける。寝る数時間前からはPCやスマホのスクリーンは見ないのがよい。夜の照明はできれば赤い色のものにして、しかも低い位置から照らすのが良い。暖炉の火とかキャンプ・ファイアーの火を思い浮かべればよい。ところで夕日を見るのも良いことだ。それが1日の終わりであることを体に確認させるためである。

フェイズ3、つまり寝ている時間帯はできるだけ暗くするのが良い。寝る時は照明を最小限にする。この時間帯に明るい光を見ると、ドーパミンの量が激減する。夜にトイレに行く場合も、照明はつけないのが好ましい。一度、明るい光をみるとメラトニンの分泌が止まってその後に寝付けなくなる。

カフェインについて述べる。コーヒー、紅茶などのカフェインはドーパミンを穏やかに上昇させるので、それらを飲むことは悪くない。またカフェインはドーパミン受容体の利用可能性も増加させる。しかし睡眠近くにカフェインを取ることはよくない。コーヒーはどの程度遅くまで飲めるかは人によって様々なので、それは実験して決めるしかない。朝一番にコーヒーを飲むのは、むしろ避けた方が良い。寝たとしても多少は残っている眠気のホルモン、アデノシンの受容体をカフェインがブロックするので、午後になって眠くなる場合があるからだ。また勉強や仕事のはじめにカフェインを取るよりは、終わる直前とか終わった後の方が良い。それは記憶力を強化するからである。

朝に冷水浴・冷水シャワーを浴びること。これは別項で紹介した方法である。冷水浴をするとまずびっくりホルモンとでもいうべきアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌されて、その後にゆっくりとドーパミンが分泌される。その後の数時間は集中力、気力、記憶力がまし、活力感と幸福感に満たされる。

食事からドーパミンの材料を取ることについて述べる。ドーパミンの原材料はチロシンというアミノ酸である。それは赤身肉、ナッツ、チーズに含まれるというが、豆腐、納豆、バナナにも多く含まれるので、日本人が普通の食生活を送っていれば、特に問題はないだろう。

夜寝られない場合にメラトニンのサプリメントがあるが、これはドーパミンのレベルを低下させるので、あまり使わない方が良い。

ドーパミンのピークをコントロールする方法

ランダムな間欠的報酬タイミング(Random Intermittent Reward Timing=RIRT)を利用する。RIRTとは行動心理学と学習理論で使われる強化学習の手法である。ラスベガスのようなところでギャンブルをして勝利をするとドーパミンが放出されて、客は喜びに満たされる。ところが勝利がランダムで間欠的である場合、客は勝利を予想できずに、次は勝つだろうといくらでもかけて、結果的にはギャンブルにハマってしまう。店の側はこの理論を知っているので、それを利用して確実に儲けるし、客は確実に損をする。この理論を仕事や勉強に利用するのである。仕事や勉強で成果が出た場合、その勝利を祝う、つまり自分にご褒美をあげるのだが、それはいつもというのではなく、時々に気まぐれにするという手法である。そうして仕事や勉強に、あたかもギャンブルであるかのようにハマってしまうのである。つまり勝利を期待するよりは、仕事・勉強自体を期待するのである。

集中力を強化する手法として、スポットライト法がある。これは視覚を利用する方法である。視野を狭くすると脳内にドーパミンなどの神経化学物質が分泌される。具体的には特定の点(部屋のどこかとか)に注意を集中する方法である。競走馬がよそ見をしないためのフードをつけるとか、人間が庇のある帽子(野球帽など)をかぶることは、視覚を制限する効果があり、注意力が増す。天井の低い部屋の方が集中力を増やす効果がある。逆に天井の高い部屋は、意識を拡散させて創造的な思考をするのに適している。これを聖堂効果とよぶ。

ドーパミン分泌を強化するさまざまな方法がある。たとえばエネルギー・ドリンク、音楽、友人や社会との繋がり、特殊な薬物などであるが、これらを使いすぎないことも重要だ。これらも使いすぎると、ドーパミンが増えた後で激減する現象があり、長期的にはやる気や意欲が阻害されてよくない。

終わりに

筆者は冷水シャワーと、朝日を浴びて散歩することを日課として以来、毎日が気力と活力に満ちた楽しい日々を過ごしている。それまでは時折感じていた軽いウツ症状や不安がすっかり解消した。もっともこれらを習慣にすることは、なかなか大変なことは分かっている。次回は良い習慣の付け方について述べたい。

文献

Tools to Manage Dopamine and Improve Motivation & Drive

動画

<How to Increase Motivation & Drive | Huberman Lab Podcast #12>
   
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