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40ヘルツ・バイノーラル・ビートの驚くべき効能

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前回の記事で米国のスタンフォード大学医学部神経科学・眼科学教授のアンドリュー・フバーマン博士のポッドキャストに基づいて冷水シャワーの驚くべき効能について述べた。今回もフバーマン教授のポッドキャストに基づいて40ヘルツ・バイノーラル・ビート(40Hz Binaural Beats)の驚くべき効能について説明する。

私はこの話を聞いた時に、また目から鱗であった。というより音の話だから、耳から耳垢ポロリという方が正しいかもしれない。実際、こんな話は聞いたこともなかったし、身近の人も誰も知らなかった。多分、多くの人は知らないと思う。ということは、結構新しい知見であるようだ。知っていて損はない。ぜひ試してみてほしい。

まずそもそも40ヘルツ・バイノーラル・ビートとはなんのことか。ヘルツとは周波数の単位のことだ。40ヘルツとは一秒間に40回振動を繰り返すことをいう。ここでは音の話をする。40ヘルツの音は非常に低い音であるが、しかし40ヘルツ・バイノーラル・ビートは40ヘルツの音を直接聞くということではない。バイノーラルとは二つの音という意味だ。それに対して一つだけの音ならモノラルである。ビートとはうなりのことである。例えば400ヘルツの音と440ヘルツの音を足し合わせるとどうなるか。数学的には420ヘルツの音が40ヘルツの振動数でうなるのである。

それでは具体的な方法を説明しよう。イヤフォンかヘッドフォンを使って、例えば右の耳から400ヘルツの音、左の耳から440ヘルツの音を聞いたとする。音の感じとしては420ヘルツの音を聞いているように感じられる。ところがこの二つの音は、脳の下部にある脳幹という部分で合成されて40ヘルツの振動として知覚される。そしてそれに相当する脳波が脳内に励起されるのである。要するにバイノーラル・ビートとは特定の周波数の脳波を励起する手法である。

だから原理的にはどんな周波数の脳波でも励起することできる。そのなかで特に40ヘルツが着目されているのは、その周波数帯の脳波をガンマ波とよび、人が集中して物事を考えているときは、ガンマ波が励起されるからだ。そこで逆に40ヘルツのバイノーラル・ビートを聞くことで脳内にガンマ波を励起してやれば、集中できるのではないかというわけだ。つまりカル・ニューポートの言う「深い仕事」に集中するために良いという話だ。ニューポートによれば、現代の気の散る環境の中で深い仕事ができる人間だけが成功するという。

脳波はその振動数により低い順からデルタ波(1-4ヘルツ)、シータ波(4-8ヘルツ)、アルファ波(8-12ヘルツ)、ベータ波(12-30ヘルツ)、ガンマ波(30-100ヘルツ)に分類される。デルタ波は深い睡眠状態や無意識のときに出る。シータ波はうとうとしている時、瞑想している時、非常にリラックスしている時に出る。アルファ波は起きているが、リラックスして平和な心の状態のときに出る。ベータ波は覚醒していて、精神的に活発に活動していて、問題を解いている時などに出る。ガンマ波は極度に集中して学習している時に出る。

だからバイノーラル・ビートの手法を用いると、人を集中させるだけではなく、リラックスさせたり、眠りに誘ったりすることもできる。実際、たくさんある携帯アプリでは、さまざまな効能が謳われている。iPhoneのAppストアなどのぞいてみれば良い。たくさんありすぎて、何を選んで良いか当惑してしまう。本項では特に集中的に勉強したり仕事したりするときに有効な40ヘルツのガンマ波を励起するバイノーラル・ビートの話をする。

40ヘルツのバイノーラル・ビートがどのようなものかは簡単に試すことができる。YouTubeにそれこそ山のように動画がアップされている。40Hz Binaural Beatsでググってみれば良い。私は特定のものを推奨するつもりはないが、例えば以下のようなものがある。

https://www.youtube.com/watch?v=MDJC16ShEDM&t=904s

https://www.youtube.com/watch?v=1_G60OdEzXs&t=809s

私は個人的にはパソコン上のアプリではなく、iPhoneのBrainWaveというアプリを使っている。しかしこのアプリは有料であるので、勧めるわけではない。これが優れているという確証もない。他のものとの比較検討はしていないからだ。皆さんも手軽に試すなら、YouTubeのものを聞かれるのが良いだろう。

ただBrainWaveを使った短い経験から言うと、これは様々な脳波を励起するように設計されていて、私はパワーナップ(昼寝)をするのに使っている。そのモードでは、まず眠りを誘うデルタ波を励起して眠りに誘い、その後にベータ波に移行して目を覚まさせる。集中と注意というプログラムではベータ波からガンマ波に移行する。このように一種類のバイノーラル・ビートではなく、複数のものを組み合わせているのが味噌で、そのために有料なのだが、単純な40ヘルツだけで十分だと思う。このアプリではバイノーラル・ビートの他にアンビエンス音として波の音とか雨の音を同時に聞かせるようになっている。しかしフバーマン教授によると、これらのアンビエンス音が効果的であるという実験的証拠はないので無意味だと言っている。私はアンビエンス音を消して使っている。

さて40ヘルツのバイノーラル・ビートの使い方だが、集中して勉強したり仕事したりする準備段階として使うのが良いとフバーマン教授は言う。彼自身は最初の5分間だけこれを聞くと言う。論文の実験では30分間ほど使うとか、20分とかいろいろある。皆さんは色々試して見られたら良いだろう。なぜ始めにやるのが良いのか。それは脳のウオームアップだとフバーマンはいう。激しい運動をする場合でも、いきなりするのではなく、ウオームアップから始める。勉強や仕事もいきなり超集中状態に入ることはできない。だんだんと集中するのである。その補助として40ヘルツ・バイノーラル・ビートを使うと良い。それでは勉強中にバイノーラル・ビートを聞くのはどうか。フバーマン教授自身は、それはしないというが、べつにしても構わない。とくに周りの音がうるさくて集中できないばあいなどはそうだ。

ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズ

周りの音が気になる場合に、それに対抗するために音楽を聴くとか環境騒音を聞くとかさまざまな方法があるが、フバーマン教授はホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズを紹介している。ホワイトノイズとは、シャーというような音で、周波数スペクトラムが平坦な音だ。これらもYouTubeで聴くことができる。

<ホワイトノイズ>
 
<ピンクノイズ>

<ブラウンノイズ>

https://www.youtube.com/watch?v=RqzGzwTY-6w&t=239s

ひとつ注意すべきことがある。赤ちゃんを寝かしつけるのにこれらのノイズを使うべきでないとフバーマン教授は言う。なぜかというと、我々が音の高低を聞き分けられるのは、生まれてからさまざまな環境音を聞いて、その特徴を聞き分ける練習をするからである。ホワイトノイズには、特定の周波数に対する特徴がないので、赤ちゃんがいつもこの音を聞いていると、耳が鍛えられないので、育った後で聴覚に異常が生じる可能性があるという。しかし大人には問題はない。

40ヘルツガンマ波とアルツハイマー病

40ヘルツのガンマ波を脳内に励起することはアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性があるという驚くべき研究がある。例えば以下のTED講演では、バイノーラル・ビートではなく、椅子に取り付けたスピーカーから40ヘルツの音を出して、体を振動させる。それによってアルツハイマー病を患っていた老婦人が、アルツハイマー病が軽減して、それ以降も進行が遅れたと言う。

<Music Medicine: Sound At A Cellular Level | Dr. Lee Bartel | TEDxCollingwood>

https://www.youtube.com/watch?v=wDZgzsQh0Dw&t=0s

別のTED講演ではアルツハイマー病に罹患させたネズミに40ヘルツで明滅する光を見せて、病気の進行を遅らせたと言う。ネズミにはヘッドフォンを装着できないので、明滅する光を見せたのだが、それでも効果があったと言う。脳内の振動を調べると、視覚第一野が40ヘルツの光の振動と同期して振動しているだけでなく、体性感覚野(触覚)、海馬、前頭前野なども同期していることがわかった。

<Could We Treat Alzheimer's with Light and Sound? | Li-Huei Tsai | TED>

脳が正しく機能するためには、さまざまな領野が同期して働く必要がある。たとえば人の話を聞いている場合、音を聞く領野と言葉の意味を理解する領野が同期して働く必要がある。認知症の人はこの同期が難しい。つまり言葉の音は聞くことができても、その意味が理解できないのだ。そこで40ヘルツの振動を与えると、脳内にガンマ波が励起されて理解が進むと推測される。

これらはあくまでもまだ研究段階なので、実際にアルツハイマー病の治療に使えるようになるには時間がかかるだろう。しかし我々はそんな特殊な椅子とか光パネルを用いなくても、イャフォンで40ヘルツ・バイノーラル・ビートを聞くことは簡単だし、集中力を増すという本来の目的に使っていれば、アルツハイマー病に罹患する可能性を減らせるのではないだろうか。

以下はフバーマン教授の40ヘルツ・バイノーラル・ビートに関する講演動画である。

<What is The 40 Hz Frequency and What Can It Do For You? | with Dr. Andrew Huberman>

https://www.youtube.com/watch?v=YZWy6Do-vVA&t=1s

   
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