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世界征服計画 その30

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30. 第2次太平洋戦争

オババ皇帝の戦争宣言は、即座にオリンポス山の神々の知るところとなった。そしていつものように、ゼウス、ビーナス、アテナ、マーズ、ポセイドンの会合が始まった。マーズがうれしそうに口火を切った。

「オババは戦争開始と言いくさったな。戦争ならワイの領分や、まかしといてんか」

アテナは心配そうに言った。

「マーズに任して大丈夫でしょうか。あまり乱暴なことをして、たくさんの死者が出るのは、私としては好みませんが」

「心配せんでええ。人死にはほとんど出んようにするつもりや。ワイはこのときのために、ポセイドンと計って密かに潜水艦隊を整備してあるのや。ワイの潜水艦はアメリカやロシアのみたいに大きくはあらへんで。千トン程度や。動力は小型のトリウム型原子炉や。一番の特徴は全自動で、人は乗ってへんことや。人の住む空間が必要ないのでコンパクトにできるのや。人間が必要ないから、食料も必要ない。魚雷を撃ちつくさん限り、補給も必要ない。そやから一旦潜行したら、燃料の切れるまで、だいたい20年間は潜ってられる。ワイはこの潜水艦を無人島の造船所で作ったんや。造船所の上は屋根があって覆われてるから、衛星写真では分かれへんのや。できたらそのまま潜行して、20年は浮いてけえへん。だから米帝はワイの潜水艦の存在を知らんはずや」

「へえー、たいしたものですね。でも潜水艦と言ったら、魚雷攻撃でしょう。そうすれば船が沈むから、死者も出るでしょう」

とビーナスは心配した。

<魚雷攻撃>

「それも心配せんでええ。ワイの潜水艦の攻撃兵器は、コバンザメ魚雷や」

「コバンザメ魚雷って?」

「こいつは魚の形をした魚雷や。大きさもコバンザメの程度や。こいつは魚のように泳いで相手の軍艦に近づく。そして舵やプロペラの近くの船尾に、コバンザメのように吸い付くのや。ずっと吸い付いたままや。船上からは察知でけへん。普段はそのままやけど、いざとなったら爆発する。しかしたいした爆発やないので、船が沈むほどのことはあらへん。船尾の舵とプロペラがいかれるだけや。でも舵かプロペラが壊れたら、船は進まれへん。ただ浮いているだけや。つまり人は死なんけど、軍艦としてはパーや。

この潜水艦はできたときからすぐに、ハワイ、サンディエゴ、グアム、横須賀、佐世保などのアメリカの軍港のそばで静かに潜行して待っているのや。そしてそばを通った相手の軍艦にコバンザメ魚雷を発射する。そしてこいつは船尾近くの船底にへばりつく。

米帝はアメリカ連邦とは友好関係を結んどるから、アメリカ合衆国からアメリカ連邦が受け継いだ軍港は米帝がそのまま使っとる。ワイはすでに米帝の主な軍艦には、全部コバンザメ魚雷を付着させてある。いつでも来いや」

「ほおーっ、それは用意のいいことですね」

とアテナもビーナスも感心した。

米帝海軍作戦部長は太平洋艦隊司令官を呼んで、作戦開始を告げた。ハワイの真珠湾にいる太平洋艦隊司令官ミミッツ大将はさっそく麾下の第3艦隊に出撃を命じた。第3艦隊は本来は太平洋東部が担当で、極東は第7艦隊が担当である。しかし今回は、横須賀の第7艦隊は外交上の配慮から、そのままとどめ置くことにした。第3艦隊は麾下の5隻の空母の内、出撃可能な空母ジョージ・ブッシュとバラク・オバマ、それに随伴する空母打撃グループに出撃を命じた。指揮は第7艦隊ではなく、直接、ハワイの太平洋艦隊司令部でとることになった。艦隊は空母2隻の他に巡洋艦4隻、駆逐艦8隻、フリゲート16隻、それに潜水艦数隻からなり、従軍する兵員も2万人近い大艦隊である。

<空母打撃グループ>

そのとき船隊大和は5隻がひとつの船隊を作り、それに駆逐艦2隻と補給艦、工作船、農場船などが随伴していた。そのような4船隊が沖縄近海、紀州沖、小笠原近海など日本に比較的近い北太平洋を遊弋していた。

サンディエゴ、パールハーバーを出港した空母打撃部隊はハワイ沖で落ち合い、一斉に西に向かった。そのことを知っているのは、当の艦隊の乗組員とオリンポスの神々、それに船隊大和の首脳陣とその護衛艦隊だけであった。船隊大和の乗員も、日本国民も、世界の人々もこれから起きる第2次太平洋戦争については何も知らされていなかった。知ったとしても、この非力な護衛艦隊では何もできないことは明らかであった。余計な心配をかけるだけ無駄である。

空母打撃部隊は二手に分かれて、一隊は小笠原近海、もう一隊は沖縄近海の船隊大和の船団に向かった。小笠原近海に向かった艦隊と船隊大和の船団の距離が、空母艦載機の射程内に入ったとき、ミミッツ大将はついに攻撃命令を下した。

ところが空母艦載機がまさに離艦しようと準備態勢に入ったときにそれは起きた。後部飛行甲板にいた空母の乗員は、艦尾で水柱があがるのを見て、小さな振動を感じた。そして空母ジョージ・ブッシュは急速に速度が落ちていった。ジョージ・ブッシュと別れたバラク・オバマは急に右に回り始めた。なんだ、なんだ、何が起きたのだ。空母の艦橋では大騒ぎになった。その原因はすぐに分かった。空母の左右を随走している巡洋艦、駆逐艦、フリゲートの艦尾に次々と水柱があがり、それらの艦は停止するか、急回頭を始めた。潜水艦による魚雷攻撃であることは明らかだった。しかし不思議なことに、どの駆逐艦、フリゲートのソナーも潜水艦の兆候を全く察知していなかったのだ。すわステルス潜水艦かと艦橋では大騒ぎになった。ともかく、全艦隊は太平洋上で停止してしまったのだ。潜水夫を潜らせて調査した結果、いずれも舵かプロペラが破損しており、船尾には穴が開いていた。フリゲートのように小さい艦では、浸水が大きく、沈没の危険にさらされたが、幸いにも今回の魚雷は普通の魚雷ほどの威力はないようで、沈没した艦はなかった。

ハワイの太平洋艦隊司令部でも大騒ぎになった。急遽第7艦隊の出動を命じた。しかし準備が整うまでに数日かかった。はたして船隊大和を攻撃する作戦を実行するか、太平洋上を漂流する第3艦隊を救助するか。司令部では大きな議論になった。オババ皇帝にも状況はリアルタイムで伝えられていた。オババは第7艦隊に船隊大和の攻撃を命じた。出港できたのは駆逐艦数隻だけであった。しかしこれも小笠原沖で謎の艦底爆発を起こして、漂流を始める始末であった。明らかに敵のステルス潜水艦による攻撃である。そこで司令部は軽武装の艦船を派遣して、漂流艦隊の救助を行うことに決定した。ところがこれらの艦船も、目的の漂流艦隊に合流したところで攻撃を受けて、漂流を始めた。被害を受けたのは水上部隊だけではなかった。作戦に参加していた潜水艦はすべて行動不能に陥ったのだ。海上に浮き上がることが、せいぜいできることであった。

事ここにいたり、オババはブラックハウスに例の首脳陣の他に、軍の統合参謀本部議長であるマイケル・ジョーンズ大将を呼んで会議を行った。ペイン副皇帝は大陸間弾道ミサイルによる船隊大和への核攻撃を主張した。潜水艦は使えないし、爆撃機は見え見えである。クリキントン国務長官、バッタ国防長官、ジョーンズ大将は、艦隊の乗組員の救出を最優先すべきであると主張した。オババ皇帝は難しい選択にさらされた。常識的に言えば核攻撃は狂気の沙汰で、乗組員救出を最優先すべきなのは当然である。しかし戦争が好きなオババとしては、この際、核ミサイルのボタンを押したくて仕方がなかった。第二次大戦の時に広島、長崎に原爆投下を命じたトルーマン大統領を尊敬していたのである。そこでオババは言った。

「確かに乗組員を救出するのが重要であることは認める。しかし本作戦の本来の目的は、船隊大和の壊滅である。だからペイン副皇帝の主張するように、船隊大和をまず核攻撃で壊滅すれば、後でゆっくりと乗員は救出できるはずだ」

<船隊大和をまず核攻撃>

ジョーンズ大将は反論した。

「お言葉ながら皇帝陛下、今回の攻撃はステルス潜水艦によるものと思われます。従って船隊大和を壊滅しても、潜水艦が残存する限り、乗組員は救えません」

この言葉は正論で、ペイン以外は賛意を示した。しかしここで折れては、皇帝の権威が廃る。オババはヒステリックに叫んだ。

「私は米帝皇帝として、最高軍司令官としてジョーンズ大将に、大陸間弾道弾による船隊大和の攻撃を命令する。これは最終決定じゃ。これで会議は散会じゃ」

ペインは拍手喝采し、クリキントンはまだ文句を言った。

「陛下、壺を割ったら、後で弁償しなければなりませんよ」

「どういう意味だ、それは?」

「そんな命令をしたら、あなたは後世に戦争犯罪人として断罪されるでしょう。あなたは悪の帝王です」

オババはここにいたり、堪忍袋の緒が切れた。

「クリキントンはクビや、クビ、クビ、クビ、クビ、クビ、クビ、・・・ビク、ビク、ビク、ビク」

「まあそう興奮なさらずに」

ジョーンズ大将はたしなめた。

「これが興奮せずに、いられるか。お前もクビにしてほしいのか」

オババはそう言い残して部屋を出た。言うたった・・・、はははは。悪の帝王の怖さが分かったか。オババは胸のすく思いがした。

軍最高司令官の命令とあれば仕方がない。ジョーンズ大将はすぐに決定を空軍に伝えた。空軍では地球規模攻撃軍団に命令を伝えた。そこでワイオミング、モンタナ、ノースダコタの空軍基地から計5発のミニットマンミサイルが発射されることが決定された。

<ミニットマンミサイル>

それをオリンポス山の神々は見ていた。ビーナスは言った。

「あのオババ皇帝は狂っているのではないかしら?」

「いや、自己顕示欲の固まりでしょう」

とアテナは応じた。マーズはうれしそうに

「ついに、やるか。ワシはこれに対しても、ちゃーんと手は打ってあるんじゃ」

「へえー、どんな手ですか?」

「恐ろしい手や。核ミサイルが発射された瞬間、自爆するように仕組んだるのや」

「核爆発するのですか?」

「いやいや、そんなことしたら一大事や。発射されたロケットが爆発して、火の海になって吹っ飛ぶのや」

<発射されたロケットが爆発>

「それなら、安心ですわね、ほほほ」

というわけで、ミサイル基地から発射されたミサイルはすべて謎の大爆発を遂げた。他のミサイルを発射しても同じ事だった。空軍はこれ以上の被害を危惧して、ミサイル発射を止めた。ミサイルの爆発は、テストであるとウソの発表がなされ、国民は納得した。しかし、かくしてオババの陰謀は壊滅したのである。

続く

   
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