ついに念力で物を動かせるようになった・・・Emotiv EPOC
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- 2012年6月10日(日曜)14:33に公開
- 作者: 松田卓也
たった300ドルで脳から直接にコンピュータを操作できるデバイスが売り出された。Emotivという会社のEPOCという装置である。念力が科学的に実現したのである。
念力
スターウォーズにフォースという概念がある。ジェダイやシスだけが使える力である。フォースにはいろいろな力があるが、その中でも念ずるだけでものを動かす力がある。英語ではサイコキネシスとかテレキネシスという。要するに念力のことである。
これはもちろんおとぎ話であり、現実世界ではサイコキネシスは疑似科学に分類されている。
ブレイン・マシン・インターフェイス
しかし最近コンピュータでこれに似たことができるようになった。ブレイン・マシン・インターフェイスの発達のおかげである。
ブレイン・マシン・インターフェイスとは脳とコンピュータをキーボードなどのインターフェイスを用いず、直接に接続して情報をやり取りする技術である。SFではよく使われる概念である。サイバーパンクの「ニューロマンサー」ではジャックインと言う概念が提唱された。手術をして、首の後ろにUSBポートのようなソケットを作るのである。そしてそれにコードを差し込むことによって脳とコンピュータを有線で接続するのだ。攻殻機動隊の映画の第二作である「イノセンス」ではバトーがジャックインするシーンがあった。
脳とコンピュータのインターフェイスには大きく分けて侵襲的と非侵襲的なものがある。
侵襲的とは、頭蓋骨に穴をあけて電極を差し込んだり、チップを埋め込んだりする手法である。実際、猿の脳に電極を差し込んで、猿が思念でロボットアームを動かす実験がなされている。先のジャックインはまさに侵襲的な手法である。
非侵襲的とは侵襲的とは逆に、人体を傷つけるることなく外部から脳波を測定したりして、脳の活動を読み出すものである。例えば、頭蓋骨の周りに電極をつけて、脳波を測定したりする。
ブレイン・マシン・インターフェイスの分類として、読み出しと書き込みがある。読み出しとは、脳からコンピュータへの情報の伝達であり、書き込みとはその逆である。
侵襲的な技術は動物実験では良いかもしれないが、人間に適用するのは問題が多い。それがどうしても必要な、身体障害の患者の場合はともかく、健常者に適用するのは抵抗が多い。読み出しと書き込みでは、読み出しの方が技術的に楽であろう。
Emotiv EPOC
ここに画期的な商品が現れた。Emotivという会社の販売す るEPOCという装置である。それがどのようなものかは、Emotivのホームページの写真を見ればわかる。写真に見るように、16個の電極を持つ装置で、頭に簡単に装着することが出来る。髪の毛を剃る必要もなく、ジェルで装着する必要もない。その電極が読み取った電気信号を無線でコンピュータに伝える。
従来のこの種の装置はもっとたくさんの電極があり、かつまたそれを装着するのに髪の毛を剃ってジェルで接着する必要があった。そのために外した後は傷が残ることすらあった。それよりも、とても高かったのである。ところがこのEmotiv EPOCはなんと300ドルであるという。
その威力を見るためには次のTEDのビデオを参照のこと。Emotivの共同経営者であるタン・レという中国系の女性がプレゼンテーションを行っている。ちなみにEmotivはオーストラリアの会社であり、2003年に四人の科学者と実業家により作られた。
デモビデオの例ではコンピュータ画面に浮かぶ立方体形状の物体を意識で動かしたり、回転させたり、さらに消したりすることができる。EPOCは脳波による意識的な考えの他に、顔の表情、頭の運動を読み取ることができる。顔の表情の変化を使って車いすを前進させたり、あるいは左右に転向させたりすることができる。
この装置の装着法に関しては次のビデオを参照のこと。
実際にこれで何をすることができるか?YouTubeに見られる例では、ゲームをしたり、カーテンを開けたり閉めたり、電気をつけたり消したり、ロボットを動かせたり、クワッドコプターを飛ばせたりしている。あるいはスケートボードにつけたモーターを意識で操作している例もある。
会社のホームページには、第三者の開発したいろいろなソフトがある。実際この装置がどれほど有用になるかは、どんな有力なソフトができるかにかかっている。そのためにSDKセットが有料で提供されている。またこの装置は当面はWindowsのみで動く。
私が興味あるのは、この装置でコンピュータにタイプ入力できるかどうかである。Mind Technologyという第三者の開発したタイプ入力ソフトウェアがある。画面にバーチャルキーボードが現れ、カーソルを思念で上下左右に動かすか、あるいは組み込みのジャイロを使って目の動きで動かす。正しい位置に来ると、キーボードを思念で押す。はじめはゆっくりだか、慣れてくると素早く入力できる。これを使って、コンピュータを自由自在に思念だけで操ることができる。健常者にとってはキーボード入力の方がはるかに速いが、身体に障害のある人には非常な救いである。
思念で信号を送るには、意識を集中させなければならず、それには頭をかなり使う必要があるし、反応も遅れる。顔の表情を読み取るほうが、遥かに速いと言う。
例えば筋萎縮性側索硬化症の患者が、自分の意識だけで外の物を動かすことができれば非常に便利になるであろう。また車椅子の人が自分の顔の表情だけで、車いすを操縦できるとすれば遥かに便利になるであろう。身体障害を持つ人にとっては大きな福音になると思う。
この種の技術はまだまだこれから発達するであろう。楽しみである。