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太陽光を浴びて幸せになろう

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前回の記事に続いて今回もスタンフォード大学医学部の神経科学専攻のアンドリュー・フバーマン(Andrew Huberman)教授のポッドキャストに基づいて、太陽光を浴びることが生物としての人間にどれほど重要かについて述べる。今回フバーマン教授は米国国立精神保健研究所の光と概日リズムに関するセクションのチーフであるサマー・ハタール(Samer Hattar)博士にインタビューしている。だから今回述べることはハタール博士の説である。

ハタール博士は、概日時計(サーカディアン・クロック)を決める、目の光感受性ニューロンを発見した数少ないグループの一人である。ハタール博士は明るさの変化と摂食リズムや健康の関係についての新しいモデル(三者モデル)を提案している。ハタール博士によれば、光とくに太陽光は、生物としての人間の気分、学習、摂食、空腹、睡眠などに影響を与える重要な要素である。

本質的感光性網膜神経節細胞(IpRGC細胞)

概日周期(サーカディアン・リズム)とは、およそ24時間より少し長いリズムであり、その影響は動物の細胞、体内組織、行動に現れる。太陽光は、概日周期を正確な一日周期(24時間)に調整する。ハタール博士たちの発見した「無意識の視覚」が光の環境の変化を検知して、24時間より長い概日周期を正しく24時間の周期に合わせる。体内時計を調整して概日周期を正しい24時間周期にすることは、野生の生物の生存のために不可欠である。ちなみに現代の人間は人工照明のために、この生物の本質的行動から外れている。それによって生存が脅かされることはないが、生物としての本来の行動から外れることは、健康や幸福感などに微妙に負の影響を与える。

2000年、イグナシオ・プロベンシオとデビッド・バーソンらは、昼と夜の情報を脳に伝える細胞のサブセットを発見した。このシステムは、人類が色や形を見るようになる以前の、最も古い視覚の形であると考えられている。本質的感光性網膜神経節細胞(ipRGC=Intrinsically photosensitive retinal ganglion cells)と呼ばれるこれらの細胞は、明るさを感知する細胞であるが、昆虫の目に似ている。 光を電気信号に変換する色素「メラノプシン」は、カエルのメラノフォアで初めて確認された。杆体や錐体がなくても、これらの細胞は光に反応することができることを、デビッド・バーソンは発見した。人間の目はその内部にいわばカエルの皮膚を持っているのだ。

盲目であっても、目がある人は、メラノプシンという本質的な光感受性細胞を持っており、明暗のサイクルに合わせることができる。このような人は睡眠と覚醒のサイクルを持つことができるが、昼夜の特定の時間帯に光を見る必要があることに気づかないため、睡眠に問題がある場合がある。昔の医師はこのような人々は盲目であるため、眼球を摘出するべきだと考えていたが、それをすると周期的な睡眠障害を引き起こす。

太陽光を浴びる最適な時間帯と時間

明るい光、理想的には太陽光を、1日の早い時間に10~30分ほど浴びる。曇っているときは、外にいる時間を長くする。非常に暗く曇っている場合は、もっと長く屋外にいる。

北の方に住んでいて雲が多い場合は、人工光源を使用する。概日周期をリセットするために人工光源を使うよりは、実際の太陽光を浴びるのがベストである。しかしそうも言っておれない場合があるので、人工光源の使用も考慮しよう。赤道付近で進化した人類は、赤道付近の光環境に適応している。だから朝だけでなく日中にも明るい光を浴びることは健康によいことだ。

夜型人間は時差ボケ人間

家に引きこもったり、スマホをやりすぎたり、太陽光を浴びないなどすれば、旅行しなくても重度の時差ボケになる可能性がある。起きるのも寝るのも遅い人、つまり夜型人間は、ある意味で時差ボケ人間であり、うつ病や失敗が圧倒的に多いことが知られている。逆に朝型人間は成功しやすい。夜型人間は社会であまり評価されない。

なぜ夜型人間になるのか。それはその人の光の環境が、睡眠覚醒サイクルを決めるからだ。一度夜型のリズムを作ると、朝の太陽光を浴びない限り、なかなか朝型のリズムに戻れない。人間には本来は夜型というタイプはなかった。これは夜の人工照明が作り出したものである。実際、学生を一週間の人工照明なしのキャンプに連れ出した実験では、全員朝型になり、その後、その習慣は崩れなかった。

朝日を浴びることは、概日時計のリセットに重要であるが、太陽光の重要性はそれだけではない。日中も、できるだけ明るい光を浴びるのがよい。動物には「光飢餓」という現象があり、これは環境中の食べ物の有無に関係する。また夕暮れ時は、夕日を浴びて1日の終わりを確認して、恒常性維持に役立てることが重要である。

サングラスとコンピュータ・スクリーン

光に敏感なipRGC細胞は、青色光に最もよく反応する。だから夜はブルーライトを見るなと良く言われ。しかしipRGC細胞は他の色にも反応する。つまりどんな波長の光の影響も受けるのである。だから夜間にはブルーライトに限らず、どんな明るい光を見ることもよくない。夜間は家を薄暗くし、必要であれば赤色灯を使用する。それも低い位置に置く。なんとか見える最小限の明るさを見つける。目が低い光量に慣れるまで10-15分待つ。夜にコンピュータ・スクリーンを使用することは控えめにする。

コンピュータ・スクリーンの明るさはプログラムによって、調節することができる。夜間は画面を最低限に暗くする。夜間は明るい光が目に入らないようにする。夜8時半から9時以降は、携帯電話やiPadを使用しないようにしよう。

夜間に明るい光を見ることの危険性

午後10時から午前4時までの間に明るい光を見ることは体にとって良くない。とくに気分と学習への悪影響がある。光はすでに述べたように概日時計に影響を及ぼし、睡眠と覚醒に影響を及ぼす。しかし概日時計への影響とは別に、光は人間の気分、ストレス、学習に直接的な影響を及ぼす。

その生理学的な機構は以下のようなものだ。光は外側手綱核(perihabenular neucleus)に直接的な影響を及ぼす。その部分は腹内側前頭前野を含む、脳の気分を制御する領域に軸索を投射している。このようにして光は前頭前野に直接的な影響を与える。前頭前野は脳の実行機能、学習、ストレス、および気分を制御する司令塔である。

ハタール博士の三者モデル

ハタール博士の提案する三者モデルには、概日時計、恒常性(ホメオスタシス)維持、環境からの入力が組み込まれており、光が動物の行動に影響を与えることを説明できる。恒常性維持機能とは、起きている時間が長ければ長いほど、眠くなる機能である。光は気分、覚醒、学習、記憶、恒常性維持機能に対して直接的な影響がある。

光は、上に述べたように睡眠覚醒サイクルの調節とは無関係に、気分に直接影響を与える。昼間に明るい光を見ることは気分を高揚させるが夜間には逆にウツ気分にさせる効果がある。この効果には、外側手綱核が関与しているが、その正確な機能はまだわかっていない。ともあれ気分をよくするためには、一日の早い時間に光を見て、日中にもできるだけ明るい光を浴びて、夜間の光を避けることが推奨される。そうすれば一日中、幸福な気分でいられる。

光の食欲に対する効果: 規則的な光と食事時間

光の見え方と摂食行動は相互に影響し合い、支え合っている。概日時計に合わせた規則的な食事時間は、空腹と摂食行動を調整するのに役立つ。食事は1日のうち活動的な時間帯に限定し、非活動的な時間帯は避けるべきである。ハタール博士は概日周期に沿って、夜は照明を落としている。日中は活動的であるので、朝食と昼食を一日の主要な食事としている。概日リズムが停止する午後3時以降は重い食事は控える。午後9時に就寝し、午前4時30分から5時の間に起床する。運動は午前中にする。寝る前に運動するのは良くない。理想的な睡眠と食事のスケジュールは、三位一体モデルとの相互作用を理解することで発見された。

精神的、肉体的活力の最適な時間帯は年齢により異なる

人の朝の活力は、生涯を通じて変化する可能性がある。10代は自然と夜更かしをしたくなる。朝の活力は加齢とともに強くなる。 睡眠・覚醒サイクルを調整する際には、社会的なリズムを考慮する必要がある。

クロノアトラクション仮説というものがあり、互いに惹かれ合う人々は睡眠覚醒のスケジュールが異なることが多い。そのため昼夜のサイクルを通して子供の世話をすることができ、穏やかな結婚生活を送ることができる。24時間時計は、実際には24時間プラスマイナス20分であると考えられている。これは、100~200人の一族で外敵から身を守るためであろう。社会リズムは睡眠、覚醒、食習慣に影響を与えるが、体内時計に強い影響を与えるかどうかは分かっていない。

不適切な光環境と病気

睡眠の乱れは、精神疾患の症状であると同時に原因でもある。就寝の2時間前にコンピュータ画面を薄暗くし、画面を見ないようにすると、健康に大きな効果がある。携帯電話をポーチに入れることで、光と注意散漫を減らすことができる。

光や明暗の周期が適切でない場合、ヒト以外の種では、死亡や交尾の減少につながることがある。 人間では、この逸脱は、肥満、代謝症候群、生殖症候群、内分泌症候群、気分障害、うつ病の原因となる。

時差ぼけに打ち勝つ方法

新しいスケジュールに早く慣れるためには、通常より少し早めに光を見ることと、現地の食事スケジュールにあわせることである。夕方の明るい光は体内時計を遅らせ、朝の明るい光は体内時計を進める。 新しいタイムゾーンに移動するときは、午前中の光を避け、食事や運動で調整する必要がある。新しいスケジュールに合わせるには、1日にどれくらいの光のシフトが起こるかを計算し、それに合わせて調整する必要がある。

夜中に目が覚める人は、早く寝た方がいいという可能性がある。体内時計が明暗のサイクルとずれている可能性がある。異なるタイムゾーンに旅行した場合、よく眠れても2時間後に目が覚めることがある。 夜中に目が覚めても、明るい照明を使わなければ、通常、再び眠りにつくことができる。光と目覚まし信号の異なる組み合わせは、睡眠覚醒リズムと睡眠維持に影響を与える。

季節リズムと気分、ウツ、無気力、生殖

自殺の多くは、春4月に発生する。仮説としては、冬の間の光量不足がうつ病を引き起こし、春になると自殺する気力が出てくるというものである。動物が交尾行動や子孫の出産のタイミングを計るには、季節性が不可欠である。アメリカでは人間の出生率が低下している。北欧では季節性うつ病が発生し、冬にはエネルギーレベルが低下し、夏には躁病のエネルギーが発生する。人工照明は人間の季節感を狂わせている。

参考

本稿を書くにあたって、筆者は下記にあげた2時間14分27秒の動画を視聴した。アレクサ・ゴーディック氏はフバーマン教授のポッドキャストの全てについて、人工知能を用いてその要約を作っているので、その英文を自動翻訳ソフトDeepLにかけて日本語に翻訳した。その文章を元に、取捨選択してまとめて本稿を執筆した。

参考動画

<Dr. Samer Hattar: Timing Light, Food, & Exercise for Better Sleep, Energy & Mood | Huberman Lab #43>

https://www.youtube.com/watch?v=oUu3f0ETMJQ&t=3665s

参考動画の全書き起こし

アレクサ・ゴーディク氏によるフバーマン教授のポッドキャストの検索サイト

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