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長生きと沖縄

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長生きするにはどのような食事をするのが良いのか、どのような生活をすれば良いのか。それを研究するのが長寿学であるが、動物実験をする方法と実際に長生きをしている人々を調査する方法がある。

長生きを調査するには、ひとつには平均寿命の長い国を調べる方法がある。よく知られていることだが、世界の主要国で日本がもっとも平均寿命が長いのである。 2016年のデータで84.2歳である。男性が81.1歳で女性が87.1歳である。日本に次いでスイス、スペイン、オーストラリア、フランス、シンガポールと続く。米国は日本より6歳も短くて78.5歳である。中国は76.4歳、ロシアはさらに短くて71.9歳しかない。データのある国で最も短い国はアフリカのレソトで52.9歳である。アフリカ諸国は全体的に短命である。

健康寿命という指標もある。健康寿命は自立した生活ができる期間のことだ。これだとシンガポールが1位で76.2歳、日本は2位で74.8歳だ。以下スペイン、スイス、フランスと続く。

長生きのもっと別の指標として100歳以上の人口が全人口に占める割合がある。100歳以上の人を百寿者、英語ではセンテナリアンとよぶ。百寿者が多い地方をブルーゾーンとよぶ。ブルーゾーンとしてよく知られる地方として沖縄、イタリアのサルジニア島、コスタリカのニコヤ半島、ギリシャのイカリア、アメリカのロマ・リンダなどがある。そのなかでも沖縄が特に有名で、百寿者が人口10万人につき68人もいる。米国の3倍以上だ。したがって欧米の研究者による沖縄の食事と生活習慣についての詳しい研究がある。

長生きするための要因として食事と生活習慣がある。まず食事について述べよう。沖縄の百寿者の食事の特徴は炭水化物中心だということだ。とくにさつまいもが全体のカロリーの67%を占める。米が12%、野菜が9%、豆が6%、その他の穀物が3%、魚や肉類は2%なのである。つまりほとんどが炭水化物であり、肉類のタンパク質はごくわずかだということだ。

炭水化物がカロリーの主体でタンパク質はわずかというこの事実は極めて興味深い。というのも米国を中心としてアトキンス法とかケトダイエットまたはケトジェニックダイエットというのが流行っていて、炭水化物を抑えてタンパク質中心にする食事法である。糖質制限とか低炭水化物食という言葉を聞いたことはないだろうか。日本でも糖質制限は結構流行っているのだ。しかし沖縄の百寿者たちは、そんな食事はしていない。ケトダイエットは確かに減量することができるという科学的根拠もあるのだが、長生きに適しているという証拠はない。

この矛盾はどう理解したら良いのか。糖質制限つまり炭水化物を制限するというのは、白米とかパン、パスタなどのような消化のよい炭水化物、つまりデンプンを制限するということだ。これらの消化の良い炭水化物は食後の血糖値上昇が大きい。高い血糖値は血管の健康に取って良くない。動脈硬化や糖尿病を誘発するからだ。そして老化を誘い、アルツハイマー病を誘発する。

血糖値の上がり方はグリセミック・インデックス(GI)という数値で表される。ブドウ糖が100で食物繊維は0である。白米とかパン、パスタに含まれる小麦粉はグリセミック・インデックスが高いのだ。だからよくないというのだ。

ところで沖縄の百寿者の食事はサツマイモ中心だ。サツマイモは食物繊維が多い。小腸に入った時に、食物繊維は消化できないので、デンプンの消化が遅れる、つまり血糖値の上昇が緩やかになるのだ。だから沖縄の百寿者の摂取カロリーが炭水化物中心といっても、白米中心ではないので健康に良いわけだ。

以前、ヴァルター・ロンゴ教授の「長寿食」という本を紹介した。その中で述べられていたことは、老化を誘う誘引は二つあり、それは砂糖とタンパク質だという。その話と沖縄の百寿者の食事は矛盾していない。つまり炭水化物でも食物繊維を豊富に含むさつまいもを食べて、炭水化物の害を防ぎ、またタンパク質とくに動物性タンパク質はあまり取らないという食事が長生きに良いのだ。

沖縄の百寿者の食事がサツマイモ中心だと述べたのは、摂取カロリーから見たらそうだということで、食べる量としては野菜や果物をたくさん食べている。野菜ではゴーヤという苦瓜が有名である。また豆腐や味噌といった形での大豆の摂取も多い。魚や肉類は2%といったが、タンパク質の摂取量は全体の10%程度である。残りのタンパク質は豆腐などの植物性のタンパクから取っている。タンパク質は体の構成要素であり、これを取らないわけにはいかない。しかし同じタンパク質といっても動物性と植物性があり、どうやら大豆などの植物性のタンパク質が体に良いようだ。また沖縄の百寿者は海藻なども多く食べる。これも食物繊維を多く含むので良い。

食事以外の生活習慣に関しては、沖縄の百寿者は社会的つながりが豊かである。地域コミュニティが崩壊していないので年寄りの面倒を地域でみる。孤独は健康に取って非常に良くない。都会で一人孤独に暮らしをしていては長生きできないだろう。

また運動は体にも脳にも良い。沖縄の百寿者は運動といっても畑仕事などの労働が多い。またストレスの少ない南国の生活もよい。

さて沖縄には百寿者が多いといったが、今やそれは幻想になりつつある。実は沖縄が平均寿命の長い県というのは、過去のことなのだ。いまや長寿県の一位は長野県に取って代わられた。沖縄では女性はそれでもまだ長寿なのだが、男性は若い人を中心に短命化が激しい。特に65歳以下の人たちは年齢が下がるほど死亡率が高くなっているのである。だから沖縄に百寿者が多いということは、過去の伝統的な食事や生活が良いということだ。

近年、沖縄では若い人を中心に短命化が進みつつある。その原因は食事の欧米化であろう。具体的には肥満が増えて循環器疾患が増えている。脂肪太りが多い。脂肪といっても皮下脂肪より問題なのは、内臓周りにつく内臓脂肪だ。さらに血管に入り込むと、心臓の血管に動脈硬化が起こり心筋梗塞を起こしやすくなる。それが脳で起きると脳梗塞になる。また糖尿病になりやすくなる。

というわけで、長生きするには伝統的な日本食、伝統的な沖縄食が良いということだ。つまり野菜、果物を多くとる。炭水化物として、白米は少なくして玄米にする。白米を食べるならおかず程度にする。サツマイモを食べる。海藻のような食物繊維を多く含むものを食べる。タンパク質は、肉は少なめにして、植物性タンパクを中心にする。65歳以下であればタンパク質は全体の10%程度にとどめる。ただし65歳以上の場合は、筋肉の衰えを防ぐためにタンパク質の摂取は増やす。

座りっきりの生活をやめて運動する。別にジムに行く必要はなく、速歩するとか階段を登るとかで良い。人付き合いをよくして、孤独な生活をしない。いろんな社会的活動に参加する。自然に親しむ。

前回、神経新生の話をしたが、ボケない生活と長生きする生活法は基本的に同じなのである。ボケで長生きすると周りの人に負担が行く。ボケない方法と長生きする方法が同じなのは都合が良い。

   
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