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超知能への道 その22 北方領土に進出する

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世界一極委員会が開かれた。ゼウスが口火を切った。

「アテナ、事代主命システムの進捗状況はどうだ?」

「はい、システムの設計は完了して、チップは三洋電子の工場で生産中です。それをシステムに組むことも近い将来にできます」

「それをどこに置くのだ? 京阪奈か、ポートアイランドか、西播磨か?」とゼウスは聞いた。

「択捉島(えとろふとう)に置きます」とアテナは答えた。

「択捉島!!! 日本が北方領土と呼んで、ロシアともめているところじゃないか。何でよりによってそんなところに」とゼウスは呻いた。

「ロシアだからです」とアテナ。

「なんでロシアだからなんだ?」

「事代主命システムは我々が世界の支配権を握るための重要な要素です。それはアメリカの覇権と真っ向から対立します。それを日本におけば、アメリカは日本政府を通じて圧力をかけてくるでしょう。島嶼国家におけば、攻撃してくるでしょう。ベトナムにおけば、攻撃するかどうかは分かりませんが、攻撃されれば、守りきれません。しかしロシアに置くと、アメリカは攻撃できません」とアテナはキッパリといった。

「うーーん」とゼウスは呻いた。

我々が取り組んだプロジェクトは北方領土に進出することである。具体的に言えば択捉(えとろふ)島である。日本政府は北方領土が日本の固有の領土であると主張している。そしてロシアに対しその返還を要求している。それに対しロシアは応じる気配はほとんどない。これは言ってみれば当たり前のことだ。

例えば中国と領有を争っている尖閣列島を考えてみよう。ここは日本が実効支配している。それに対し中国は、尖閣列島は中国のものであると主張し返還を要求している。しかし日本は拒んでいる。もし中国が本気で尖閣列島を自国の領土にしようとすれば武力で奪還する以外はない。韓国と領有を争っている竹島も同じことである。こちらは韓国が実効支配している。日本は、竹島は日本領土であることを様々な証拠を挙げて主張しているが韓国は聞く耳を持たない。これも日本が本気で領有しようと思えば武力奪取する以外にはない。というわけで領土問題というものは、両者にそれぞれ言い分があり、実効支配している方が勝ちなのである。

われわれはその北方領土の択捉島に、密かに計画中の最終システムである事代主命(ことしろぬしのみこと)システムを建設することにした。ちなみに事代主命とは大国主の命の息子とされている。

択捉島

なぜ択捉島かというと、第一の理由はそれが実質的なロシア領であるからだ。つまり択捉島に作ったシステムをアメリカは攻撃することはできない。もし攻撃すればアメリカとロシアの核戦争になってしまう。その意味で安全なのだ。

第二の理由は電力である。事代主命システムは膨大な電力を使用する予定である。そのためには原子力発電所を作らねばならないが、それを日本国内に置くことは出来ない。国民の合意が得られないからだ。また択捉島は北にあるので、太陽光発電はあてにできないし、安定的な電力供給が期待できない。火力か原子力しか選択肢はない。

第三の理由は士郎正宗の漫画「攻殻機動隊」において、択捉島の巨大都市が描かれていたからだ。攻殻機動隊に基づいた劇場アニメ「イノセンス」にも、それは北端として描かれていた。それを真似るためである。 一種のしゃれだ。もっとも漫画ではその都市は択捉島の南西端にあるベルタルベ火山の周りに広がっていた。ベルタルベ山は1,220メートルの標高である。漫画ではビルの高さが山の高さよりも高く描かれていたが、それは無茶であろう。またベルタルベ山は活火山であるからいつ噴火するかしれない。そんな危険なところに都市を作る事は考えられない。

択捉島は幅が20-30キロ程度、長さが214キロの細長い島である。島の広さは沖縄の2.7倍もある。北東端はラッキベツ岬、南西端はベルタルベ岬である。山が多く平地が少ない。火山がたくさんある。 1番高い山は択捉島の中心地、紗那村の北の半島にある散布山(ちりっぷやま)で標高は1,585メートルの火山である。

われわれは都市を択捉島の中心部にある単冠湾(ひとかっぷわん)の北側に作ることにした。単冠湾は太平洋側に面した湾で、太平洋戦争の初めに連合艦隊が真珠湾攻撃に出発するときに集合した湾として有名である。

単冠湾を選んだ第一の理由は、その近くに空港があることだ。ロシア名をブレヴェスニク空港という。留別村天寧にある日本名、天寧飛行場ともいう。その空港は霧が出やすく老朽化しており、また択捉島の人口集中地である紗那村から砂利道を自動車で2時間半もかかるという不便なところにあるので、ロシアは紗那村の近くの別飛(べっとぶ)に、滑走路が2,500 メートルの新しいイトゥルップ空港を2014年に作った。ちなみに紗那村の人口は2,000人である。われわれは、天寧空港を改修して、 3,000メートル級の滑走路を持つ近代的空港にする予定だ。立派なターミナルビルも建設する。

我々が単冠湾を選んだ第ニの理由はその付近が比較的平坦であることだ。われわれは単冠湾の北側に、人口100万人の巨大都市を作ることを計画している。それを単冠市と呼ぶことにした。

われわれは代表団をモスクワに派遣し、ブータン大統領と会談した。今回は慣例を破って森君自身が代表団に加わった。ブータン大統領は武術好きだと言う。森君は戦闘ロボットを相手に剣術を披露した。ロボットの顔をした相手に真剣で斬りつけるのである。真剣同士で切り結んだ時は、カーンという音がして火花が飛び散った。ロボットの腕を切り落とした時は皆がどよめいた。腕が空高く舞い上がったからである。もっともその後で腕はすぐくっついたので皆はほっとした。 森君はブータン大統領と意気投合した。

ブータン大統領は我々の提案を歓迎した。なぜならばわれわれはロシアの主権を認めながら、総額1兆円以上にものぼる投資をして、ロシア領に100万都市を建設しようとしているからだ。単冠市と紗那村、東北部の蕊取(しべとろ)を結ぶ鉄道も建設する予定である。ブータン大統領は単冠市を経済特区とすることを認めた。主権はロシアにあるが、警察権を含むかなりな自治権も認めた。特に医学的な実験をすることの許可を与えた。これで我々の先進的な医学を単冠市で実現することができる。

日本政府は当然おもしろくないであろう。しかしこのまま北方領土を放っておいても埒があかない。われわれは名より実をとることにしたのだ。これは、日本の権力機構に対する挑戦であり、鈴木宗男氏のような悲劇に陥る可能性がある。しかし我々はその轍を踏まない。もし日本の権力機構、特に検察特捜部がアメリカの意向のもとに攻撃を加えてくるとしても、その前に我々は権力機構に浸透するつもりだ。そのための装置が実は、単冠市に建設を予定している事代主命システムなのである。これは超巨大な人工知能システムである。まさに神のような存在だ。だから我々はそれを事代主命と命名したのだ。

ブータン大統領には建設計画は詳細に説明したが、事代主命システムの裏の目的は明かさなかった。明らかにしているのは巨大な人工知能システムを作るということであり、それは人類にとってとても役に立つということだ。ただひとつ本当のことを言った。それはアメリカに先駆けて超知能を作るという我々の目的だ。ブータン大統領はそれがロシアにとっても有利になると判断した。そこで事代主命システムを守るために、空港の近くにS400対空ミサイルを装備した部隊を設置することを約束した。われわれは択捉島の中心より東にある旧日本軍の蘂取(しべとろ)飛行場を改修してロシア軍の空軍基地にすることを提案した。ブータン大統領はそこに24機のスホイSu-35戦闘機を派遣することを約束した。その費用はこちらが出すことにした。思いやり予算である。これで米軍対策ができた。我々の真の目的は、米国と戦争することでもロシアを助ける事でもない。事代主命システムを使って世界を支配することだ。でもそのことは誰にも明かすことはできない。つまり事代主命システムが我々の考える唯一者( Singleton )の本体なのだ。

事代主命システムの次も考えている。阿弥陀如来システムであるが、それは先の話だ。当面は事代主命システムに専念する。

続く

   
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