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世界征服計画 その17

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17. 僕が神々に認められる

ビーナスの会議修了宣言に伴って、神々は解散した。かれらは自室に戻ったようだ。ビーナスは僕に向かって

「ビーナス神殿にあなたの寝室を用意してあります」

といって、僕の手を引いて連れて行った。なんか少しイヤな予感がした。神殿に入るとビーナスは僕を寝室に連れて行った。そこでまたするすると衣服を脱いで全裸になった。

「こんどはバルカンはじゃまをしないでしょう。さあ私を抱きなさい」

またやーーー、と僕は思った。子供のいる前で、よく平気でこんなことが言えるものだ、どうしよう。ところがそこへ、ヘラとアテナが乱入してきた。

「ビーナス、ずるいわ、森君を独り占めしようとして」

そういって、アテナもまた衣服を脱いで全裸になった。ビーナスに対する対抗意識はなかなかのものである。ヘラはさすがに貞淑のようで、そこまではしなかった。パリスの審判の再来である。

<パリスの審判 左からアテナ、ヘラ、ビーナス、キューピッド、パリス>


ところがそこになんと、先ほどまで説明をしていたマーズが乗り込んできた。マーズはビーナスの愛人である。マーズは剣を引き抜いて、大喝した。

「なんやこれは。おんどりゃ、ワイの女に手付ける気か?」

「違いますよ、誤解ですよ」

僕は必死で弁解した。しかしビーナスが誘惑したとも言えなかった。僕が口ごもっていると、マーズは言った。

「ワイの女に手を出さんように、いてもたろか!」

言いながら、腰の剣を抜きつつ、あまり早くではないが、僕の頭上に剣を打ち込んできた。多分、半分は冗談で、剣を寸止めして、僕を怖がらせるつもりであったのだろう。ところが僕の体が電光石火の速さで動いた。僕は左に体をかわしつつ、マーズの右隣に入り身で入り込んで、体を転換した。マーズは剣を振り下ろしたが、的が無くなったので、少したたらを踏んだ。僕は少し下がったマーズの首筋に左手を掛けて、思い切り胸に引きつけた。マーズは僕の方に倒れ込んできた。僕はマーズの首に前から右手を掛けて、そして入り身投げの体勢で力任せにマーズの体を地面にたたきつけた。受け身を取らせないように、僕は体ごと沈み込んだ。頭を打たせる危険な反則技である。そのためマーズは頭から地面に落下した。ヘルメットの金属がガチャンと大きな音を立てた。いかんせん古代ギリシャ式のヘルメットは緩衝機構がないので、マーズは頭をしたたか打ち付けて、脳震盪を起こして、静かになってしまった。しまったと思ったが、僕には手加減をする余裕はなかった。何せ相手は剣を持った武人なのだから。しかしマーズは神だから死ぬようなことはなかろう。

<入り身投げ>


三人の女神は呆然としていた。しばらくして、自身も戦いの神であり、武術のベテランであるアテナが感嘆しながら言った。

「あなた、見かけによらず強いのね」

騒ぎを聞きつけて他の神々もやってきた。みんなびっくりしていたが、ゼウスだけはニヤニヤしていた。ビーナスが事の顛末を説明した。ゼウスは言った。

「マーズは乱暴者で何かというと剣を振り回すので困り者だ。でもそれを森君が投げ飛ばすとはたいしたものだ。これでマーズも少しはおとなしくなるだろう。もっとも、オリンポス山であまりけんかをされても困るが」

僕はゼウスのニヤニヤ笑いが気になった。そもそも僕ごときが軍神マーズと白兵戦をして勝てるわけがない。しかも相手は剣を持っていて、僕は徒手空拳だ。勝てたのが全くの僥倖で、不思議である。

しかし考えるに、僕もマーズも所詮、ゼウスことアーキテクトの設計したシミュレーション現実の中の住人である。だから僕の電光石火の動きは、ゼウスがプログラムに多少手を入れて、僕の体を動かせたのではないだろうか。映画「マトリックス」の中でネオの体が超人的な動きをしたのと同じ事ではないだろうか。僕はここではまるで塩田剛三先生のごとき強さを発揮したのだ。ゼウスの意図は、乱暴者のマーズを懲らしめようとしたのか、ただのいたずらか、それは分からない。

<塩田剛三先生>

マーズはやがて息を吹き返した。僕はマーズに手荒なことをしたことをわびた。マーズは言った。

「おまはんがこんなに強いとは、思いもかけなんだわ。ワイの大失敗や。堪忍したってや。ワイは強いやつは好きや。これから仲良うしようやないか。ビーナスがほしかったら、やるで」

「イヤ、とんでもありません。ビーナス様はバルカン様の奥方ですし」

ともかく、この事件をきっかけとして、僕は神々の尊敬を勝ち得たし、マーズとも仲良くなった。これで僕は晴れてオリンポスの12神の仲間入りを果たした。これがゼウスの狙ったことではないだろうか。もっとも僕は13人目であるので、あだ名はユダということになった。

その後は、たいしたこともなく、僕はビーナス神殿で寝た。ビーナスがそれ以上ちょっかいを掛けてくることはなかった。その次の朝、また我々は会議室に集まった。今度はポセイドンの演説である。

船上研究所

ビーナスはポセイドンにうながした。

「ポセイドンの船上研究所構想について、もう少し詳しく話してもらいましょう」

ポセイドンはまた揉み手をして言った。

「ふっふっふ、またワシの出番か。でもワシの構想はあらかた話した。後は細かい問題じゃ。なんで研究所を船の中に作るのかというと、一種の合宿じゃな。陸上の場合、寮にでもせんかぎり、研究者は昼間は研究、夜は自宅というふうになる。しかし船の中じゃと、いわば行住坐臥研究といった感じじゃな。船の下部には研究所空間を設ける。研究者はそこに狭いながらも個室のオフィスが与えられる。しかし重要なのはアイデアを交換するロービーじゃ。それからセミナーや、研究会をする会議室も完備しとる。ともかく、毎日がセミナーと研究会じゃ」

家庭生活の神ベスタが口を挟んだ。

「それでは、少し窮屈どっしゃろ。プライベートな生活があらへんとは」

「イヤ、プライベートな生活は保障する。船の上部の船室には、十分なスペースの個室を与える。それから居住空間、研究空間のほかに、パブリック空間がある。店舗、レストラン、劇場、運動広場、プール、病院、学校なんかじゃ。なんせ、この船は要するに、豪華客船じゃ」

ゼウスの妻で結婚の神のヘラが聞いた。

「研究者はみんな独身だっか?それやといびつな社会やね。ワテはそんな社会はいややなあ」

「いやいや、結婚も出産も奨励する。研究者でもその他の者でも、結婚しとるものは2倍の居室面積を与えてやる。子供ができると、子供の数に応じて面積を増やしたる。それでこの船は、太平洋に浮かんでいるか、寄港を繰り返しながら世界一週航海をする。楽しいぞ」

アテナが聞いた。

「毎日が豪華クルーズですか。贅沢ですね。でも理論研究はそれでいいとして、実験研究はどうなるのです」

「うん、そこが問題じゃ。小規模な実験は船の中でもできる。実験専門船構想もある。しかし加速器などの大型装置は陸上に作るしかない。そもそも研究所を船の中に作る、もう一つの理由は、秘密めかすことじゃ。3千から6千人の研究者が船に集まって、毎日研究しとるのじゃ。そんな船が10隻から100隻もあってみろ。どんな発明、発見があっても不思議ではないじゃろ。研究爆発、情報爆発をワシは起こしたる。しかし最重要なアイデアはワシらが供給するから、しょせん船隊大和計画はGDP作戦の一環じゃ。人間どもは敵も味方もだましたる。ひっひっひ」

ビーナスはアテナの方の向かって言った。

「実験的研究に関して、アテナの構想を話してもらいましょう」

アテナは話し始めた。

「私は素粒子実験用の加速器、核融合炉、トリウム原子炉、宇宙開発などの大型研究は陸上でするのがよいと思っています。それでもポセイドンの言うGDP作戦の一環として、これらの研究所は青森と北海道に集中しようと思っています。青森県の下北半島にはすでに国の核燃料サイクル基地、石油備蓄基地、原発なんかがあります。ここに核融合炉とトリウム原子炉の研究施設をおくのも手です。それから、北海道の知床半島の付け根の網走とか、稚内、留萌などに大型研究施設を置きます」

ポセイドンが口を挟んだ。

「えらい、辺鄙なところやな。確かに秘密めかしとるが。なんで知床や?」

「カール・セーガンの小説に基づいたコンタクトという映画がありました。そこではタイムマシンを知床半島の根本の秘密研究所で作りました。そのパクリです。まあ、北海道と協議したら、どこにでも作らせてくれるでしょう」

<コンタクト>


「それにしても辺鄙すぎる」

「ワハン回廊やケルゲレン諸島よりはましでしょう」

「それはそうや。でもワハン回廊に置くのはデータセンターで、常駐する人員は少数や。全部ロボットでもええ。しかし、大型実験装置のある研究所ともなると、研究者の交流が必要や。そのための交通手段を確保せんとあかん」

「ええ、ですから、研究所は比較的、空港の近くを選びます。そして関空との交通を確保します。京阪奈学園都市がよいでしょ。さらにポセイドンの関空整備計画があるでしょう」

ポセイドンはまた自分に話を振られたので、喜んだ。

「そうや。ワシの関空整備計画を話そう。現在の関空は多額の借金を抱えて、青息吐息や。それに関西の地盤沈下で、便数も減っとる。ワシはマーキューリーが十分儲けてくれたら、関空を全部買い占めたらどうかと思っとる。1兆円もあれば、何とかなるやろ。そして第二滑走路のそばに壮大なターミナルを作る。そこに巨大なホテルと会議施設をおいて、毎日国際会議をするんや。便利やで。これも数千億円あればでけるやろ。それから前にも言うたように航空会社を作るんや。JALを買って前日空にする手もあるけど、一から作るのがしがらみがのうて、ええかもしれん。大阪日本航空という名前はどうかな。OJALという名前で「オジャル」とよぶんじゃ。オジャルでごじゃる、はっはっは。これは関空をハブ空港にして、日本各地の研究所、島嶼国家、赤道の宇宙基地との間に定期便を飛ばすんじゃ。もちろん、その他国内外の要所とは定期便を飛ばす」

ビーナスが口を挟んだ。

「関空はそれで良いとして、伊丹と神戸空港はどうなるのです」

「ええことを聞いてくれた。ワシは関空、伊丹、神戸空港を結ぶ磁気浮上列車を考えとる。どこも30分以内で接続する。3空港を一体的に運用するのじゃ。京都、京阪奈、奈良とは既存の鉄道、バスのほかに垂直離着陸機で結ぶ。磁気浮上列車は大阪湾をぐるりと回ってもええ。このさい淡路島をワシらの一大産業基盤にしたらどうかと思っとるんじゃ」

ここでバルカンが始めて口を開いた。バルカンは通商産業大臣である。

続く

   
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