東日本大震災にまつわる科学 ー 第1回公開講演討論会
テーマ:放射線はどれくらい怖いか ~低線量放射線の生物への作用を検証する~
日 時:2011年7月3日(日) 13時30分〜16時30分
場 所:京都大学理学部セミナーハウス
プログラム:
公開討論会(13:30~16:30)
【第1部 講演】
13:30~13:35 はじめに 司会:松田卓也
13:35~13:50 挨拶「科学のウソを突破するために」 坂東昌子
13:50~14:50 「放射線と生命の関わり」 内海博司
14:50~15:20 「がんの科学最前線:がんリスク軽減のための免疫の役割」 宇野賀津子
【コーヒーブレイク】(15:20~15:40)
【第2部 パネル討論】(15:40~16:30) 司会:坂東昌子
パネリスト 内海博司・宇野賀津子・佐藤文隆・松田卓也
基礎科学研究所開所記念懇親会(17:00~19:00)
受講者、講師を囲んでの討論会・意見交換・今後の活動の展望についての話し合いなどを行います(※ 飲み物と軽食をご用意します)
申 込:申込不要(どなたでもご参加いただけます)
主 催:基礎科学研究所(NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん附置機関)
後 援:日本物理学会京都支部・京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー・科学カフェ京都
※ 本講演会は、NPO法人あいんしゅたいんの京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(VBL)入居に伴う、基礎科学研究所開設記念行事を兼ねております。
2011年3月11日、東日本大震災の試練を受けました。中でも、原子炉事故をめぐって、放射能、食料汚染、さらにはエネルギーの将来に対して、さまざまな情報が飛び交っています。今こそ、正確で科学的なデータをもとにして、一人ひとりがしっかりと判断することが必要です。このシリーズの目的は「科学のウソ突破作戦」を目的に、しっかりと科学リテラシィを身につけた判断ができる自覚的な方々のネットワークを作っていきたいと希望しています。これは、わが国ばかりでなく人類の大きな課題でもあり、情報を共有し検討しあって正しい判断ができるための公開講演会を企画したものです。このシリーズの最初として、まず、「放射線の影響」を取り上げました。この問題は、専門家の中でもかなり意見の相違がありますが、しっかり現状を理解することから始めるべきだと考えます。 放射線の影響として、高線量をあびた場合に起こる明らかな健康障害が起こる(非確率的影響)ことはほぼ共通に認識されています。しかし、もっと少ない放射線を浴びたときの影響については、かなり時間がたって現れる(晩発性)症状、あるいは、「がん貧乏くじ」にあたる確率が増える(確率的影響)障害については、今、議論がどこまで本当かどこまでわかっているのか、はっきりしないまま、いろいろなところで論じられています。なかでも、遺伝情報を担っているDNAの鎖を破壊(DNA切断)するために起こる様々な障害が、子どもや弱い人に現れる場合がいろいろ論じられています。 講演は、その中でも、最も深刻といわれるDNAの2重鎖切断によるがん発生の評価と修復機能について、この道では最新の研究成果をお持ちの内海先生にお願いしました。引き続き、がんリスクに対する免疫の働きについての実践で豊富な経験をお持ちの宇野先生に補足説明をお願いしています。 この企画では、あいんしゅたいんが中心に検討してきた最新の情報と突き合わせて、若いものもシニアなメンバーも市民も一緒になって議論できる機会をつくり、むやみに怖がらず、安易に軽視しないために、ご一緒に、放射線の正しい知識を持つための材料を提供していきたいと考えています。ことです。 どなたでもご遠慮なく参加し、質問や議論をしていただければとねがっています。なお、引き続き、「地震・津波」(8月7日予定)「エネルギーの将来」(未定)等も取り上げていくつもりです。 あいんしゅたいん情報発信グループ(宇野賀津子・坂東昌子)
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内海博司「放射線と生命の関わり」 エネルギーの高い放射線(X線やγ線などを電離放射線という)は、ガン治療、X線写真、殺菌など、人類に無くてはならない存在ではあるが、生命を担う遺伝子DNAに働き、色々な悪さをするだけに、その最悪の状況である原爆やチェルノブイル、福島原発を思い浮かべて、強い恐怖を感じるのが一般的である。放射線は一般に電磁波とよばれ、よりエネルギーの低い紫外線、可視光、赤外線、電波(非電離放射線)なども含まれている。 30数億年前、現在より数千倍も強かった太陽からの「紫外線」は、生命誕生にも寄与したと考えられているが、生命を傷つけ、破壊する「諸刃の刃」でもあった。植物が誕生して初めて地球上に出現した「酸素」は「オゾン層」を形成し紫外線量を軽減したが、この反応性に富む酸素は新たな生命の脅威となった。宇宙から降り注ぐ電離放射線も生命には脅威であったが、地球が強い磁場を持ち、「バンアレン帯」が形成されると、宇宙からの電離放射線(宇宙線)の脅威も激減した。この電離放射線や紫外線や酸素の脅威は、「DNA傷害」として現れ、それらを修復し、耐える能力を獲得した「したたかな生命体」だけが、現在も生き続けている。 これら能力は、環境中の種々の化学物質が作るDNA傷害も治すだけに、この能力のほんの少しのほころびも癌や老化につながる。このような「放射線」や「酸素」と、ヒトをも含めた「生命」との関わりについてお話をする。 特に、ヒトの放射線影響については、広島長崎の尊い被ばく者のデータが基礎になっている。そこで何がどこまで分かったのか、最近のスリーマイル島、チェルノブイル、福島原発などについても概観する。LNT仮説はあくまでも防護の最適化のための道具であり、ごく低線量放射線被ばく状況での集団線量に用いるのは、国連科学委員会とICRPの両方が厳しく禁じている。 宇野賀津子「がんの科学最前線:がんリスク軽減のための免疫学最前線」 低線量放射線の生体への影響は、晩発効果といわれるもので、数年から数十年先にがんのリスクがあがる可能性が指摘されている。放射線で遺伝子が傷つき、その修復が出来きれなかったとしても、細胞が臨床的がんになるには、ながい道のりがある。遺伝子の修復機構とがん化に至る最近の知見を紹介し、生体のがん化を抑制する何段階もの防御機構について紹介する。また、たとえ、変異した細胞が出現したとしても、がん細胞除去に働く免疫機構について紹介する。さらにはその免疫活性を上昇させ、がんのリスクを低下させる免疫細胞の活性化法について紹介する。
講演者紹介 内海博司(うつみひろし)氏略歴: 1941年生まれ。京都大学理学部卒。理学博士。京大医学部助手、京大放射線生物研究センター助教授、京大原子炉実験所教授(京大大学院理学研究科及び医学研究科教授)を経て、2004年に停年退官。 その間、米国アルゴンヌ国立研究所に留学、コロラド州立大学客員教授などを歴任。専門は、放射線生物学/放射線基礎医学。 2004年「放射線影響功績賞」、2005年「日本放射線影響学会論文賞」、2009年「国際癌治療増感研究会菅原賞」受賞。現在、京都大学名誉教授、(財)京都「国際学生の家」理事長、NPOさきがけ技術振興会 理事長、(公財)体質研究会 主任研究員、「いのちの科学」プロジェクト主査、(財)基督教イーストアジアミッション理事、社会福祉法人 京都国際福祉センター 理事など。 宇野賀津子氏略歴: 1972年大阪市立大学理学部生物学科卒業 インターフェロンシステム、癌免疫療法、免疫機能と病気との関連の研究を進めると共に、性差・女性のライフサイクルの研究や女性研究者支援活動にも取り組む。 著書には、『理系の女の生き方ガイド』(ブルーバックス)・『サイトカインハンティング:先頭を駆け抜けた日本人研究者達』(日本インターフェロン・サイトカイン学会 京大出版会編著他)・『性教育・性科学事典』編著(小学館)、訳書『女性とは何か』(人文書院)等
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