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腸と老化

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このテーマは既に取り上げたのだが、私は老化には特に関心があるから再度取り上げる。マイケル・ルストガルテンという米国の研究者が書いた「微生物負荷: 老化と老化に関連した病気の主な原因、それといかに戦うか」という本をもう一度読んで、新たな発見があった。結論を一言で言えば、老化と戦うにはイヌリンとフラクトオリゴ糖を取れということだ。イヌリンとフラクトオリゴ糖を比較すると、フラクトオリゴ糖の方が、効果が大きいというのが、私の今回の発見である。

なんでこんなことに興味があるかというと、私はオリゴ糖としてイソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖を全部買って摂取しているが、効果の違いがそれだけではよくわからないのだ。やはり権威者のお墨付きが欲しいと思ったからだ。ルストガルテンによればフラクトオリゴ糖が良い。

ルストガルテンの主張によれば、老化は体内に入り込んだ微生物およびその生成物に原因があるという。本の1章では若い人の血液にすら、微生物のDNAが発見されたことを述べている。これは恐るべきことだ。老化は既に20代から始まっているのである。普通、血液には細菌はいないと思われてきたがそうではないのだ。

2章でその細菌がどこから体内に入るかを述べる。腸と皮膚と口である。人体と共生する細菌の99%は腸にいる。だから腸が最も重要な侵入口である。皮膚と口の問題は別に取り上げたいので、今回は腸に焦点を当てる。

3章では体内に入り込んでいる細菌は、特に老人に多いことを述べる。たとえばある小規模な調査では、サイトメガロウイルスは、50歳以下の人で20%、50から70歳で40%、70歳以上ではなんと100%だという。別のもっと大規模な調査でも、80歳以上の人は91%だという。このウイルスに感染していると、実際の年齢よりも体は12歳も老けているというのだ。この部分が私としてはショックであった。

4章では細菌と戦う力、つまり免疫は年齢とともに衰えることを述べる。これもショックだ。なぜなら老化すると細菌が体内に入りやすくなるだけでなく、それと戦う力も衰えるのである。

5章では老化の主要因は体内に入り込んだ細菌であることを述べ、老化の機構について説明する。その一つの機構として、歳をとるとインシュリン抵抗性がふえることがある。つまり糖尿病的になる。その他、たくさんの機構がある。

6章では体内に入り込んだ細菌が心臓血管疾患、ガン、脳血管疾患、アルツハイマー病の主な原因であることを述べる。

20世紀半ばまでの人々の死因の一番は肺炎とインフルエンザ、次に結核、さらにコレラなどの消化器系の感染症であった。つまり細菌などの病原菌による感染症である。ところが21世紀になると、死因の一番は心臓病、次にガン、感染症でない呼吸器疾患、脳卒中とつづく。細菌による直接の感染症はたった3%しかない。それは抗生物質の発見と大々的な使用による。つまり細菌による直接の感染症はほとんど問題にならなくなった。

しかしそれでは細菌は死因に関係ないかというと、そうではなく、非常に微妙に関係しているというのが本書の主張である。ところで心臓病、ガン、脳卒中にかからずに百歳まで生きた人の最大の死因はなにか? それはふたたびインフルエンザと肺炎である。

第7章が一番肝心の部分で、それでは細菌を腸から体内に入れないようにするにはどうすれば良いかを論じている。それは腸の透過性を減らすことである。どういうことか。小腸は長さが8メートルくらいあり、その表面積はテニスコートくらいもあると言われている。その表面は上皮細胞という一重の細胞で覆われている。その細胞間はタイトジャンクションという、いわば、関所のようなもので守られている。タイトジャンクションを通過できるのは水とか小さな栄養分子である。炭水化物はそのままでは通過できずに、分解されて糖になったもののみが通過できる。例えばブドウ糖とか果糖などである。タンパク質もアミノ酸に分解されて通過する。

ところがストレスとか、あるいは人によっては小麦粉に含まれるグルテンとかがあると、タイトジャンクションが緩んで、細菌やその生成物が通過できるようになる。これがリーキーガット現象である。リーキーガットを防ぐ立役者が酪酸である。

酪酸とは何か。短鎖脂肪酸の一種である。短鎖脂肪酸には酢酸、プロピオン酸、酪酸などがある。このなかで酪酸が最も重要である。酪酸は英語ではビュテレイトというがビュテはバターからきている。つまり酪酸はバターに含まれている。これらの短鎖脂肪酸は食物繊維やオリゴ糖を腸内細菌が分解して生成される。

食物繊維の中で重要なものが、なんども取り上げているイヌリンである。イヌリンは果物に含まれる甘味の成分である果糖の分子が長く繋がったものだ。果糖の分子が一つだけだと小腸はそれを消化吸収できる。果糖の分子が3個以上10個以下つながったものがフラクトオリゴ糖である。それより長く果糖の分子が繋がったものがイヌリンである。これらは腸内細菌の働きにより酢酸や酪酸のような短鎖脂肪酸に分解される。酪酸は上皮細胞により吸収されて、そのエネルギー源となると同時に、腸透過性を減少させる。だから酪酸が重要なのだ。実際、動物実験では酪酸はハエやネズミの寿命を伸ばし、筋肉減少を防ぐ。

酪酸は酪酸生成菌という腸内細菌により作られる。あるいは酢酸からも作られる。よく知られているビフィズス菌は酢酸を作るので、結果的には酪酸を作る助けもする。ちなみにビフィズス菌と並んで善玉菌の代表である乳酸菌は乳酸を生成する。これらの酸は腸を弱酸性に保つので、病原菌の成長を防ぐ。またカルシウムなどのミネラルは酸性で溶けやすいので、結果的にはミネラルの吸収を助ける。

さてその大事な酪酸を生成する酪酸生成菌は年齢とともに減少する。それを増やすのがイヌリンであり、フラクトオリゴ糖なのだ。著者のルストガルテンは毎日、野菜から食物繊維を山のように取っている。具体的には1日平均105グラムとっている。ちなみに日本人と米国人の平均摂取量は15グラムであるから、通常人の7倍も野菜を食べているわけだ。ちなみにルストガルテンは自然食主義者で、イヌリンやフラクトオリゴ糖はサプリメントからは取っていない。ともかくルストガルテンの便を検査すると酪酸生成菌が通常人の1.3-3.6倍も多いし、酢酸生成菌は7.8倍も多い。

さて酪酸生成菌を育てる力はイヌリンとフラクトオリゴ糖で違う。菌によって違うのだがフラクトオリゴ糖は8-26倍、イヌリンでは2-4倍も酪酸生成菌の成長を促進する。この数字を見ると、フラクトオリゴ糖の方が有効であることがわかる。イヌリンとフラクトオリゴ糖は酪酸生成菌だけでなく、ビフィズス菌の生育も促進する。

またビタミンKがリーキーガットを防ぐのに重要という話もしている。ビタミンKの必要摂取量は90-120マイクログラムとされている。しかしルストガルテンはその15倍取るべきだと主張する。彼はほうれん草などからビタミンK1をとっているが、日本人なら納豆を食べればよい。納豆にはビタミンK2が非常にたくさん含まれている。

もう一つショッキングな記述がある。タンパク質はタイトジャンクションを緩めるというのだ。つまりリーキーガットになりやすく、その意味では健康に良くない。実際、ヴァルター・ロンゴの「長寿食」では、二大老化要因は砂糖とタンパク質であると述べている。また沖縄の百寿者の食事を調べると、圧倒的に炭水化物であり、タンパク質は10%でしかない。筋肉トレーニングに励む人はプロテインを積極的にとっているが、結果的には寿命を縮めているのかもしれない。

   
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