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ボケない生き方

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前回はブラント・コートライト教授という心理学の専門家の書いた「神経新生、食事とライフスタイル」という本の一部を紹介した。ニューロンとは神経細胞、脳細胞のことである。神経新生(ニューロジェネシス)とは神経細胞つまりニューロンが新しく生まれることだ。以前は神経細胞の数は20歳台までは増えるが、それ以降は減少する一方だと言われていた。しかし最近の研究ではそれは間違いで、海馬の神経細胞は歳をとっても新生することがわかった。これが神経新生である。

海馬とは脳の奥深くにあるタツノオトシゴのような形をした器官で、短期記憶を担当する。海馬の神経細胞の数が減ると、短期記憶が障害される。つまり物忘れが激しくなる。ついそこに置いた携帯電話や鍵のありかを忘れてしまう。知っているものの名前が出てこない。これらは海馬の神経細胞数が減ったからだ。

しかしネズミの実験によると、ネズミに良い環境と良い食事を与えると、ネズミの海馬の神経細胞数はなんと5倍にも増えるのだ。5倍とは恐るべき数字だ。つまり正しい方法をとれば、我々も神経新生を行い、海馬の神経細胞数をふやし、単にボケを防ぐだけでなく、頭を鍛えることができるのだ。

そこで海馬の神経細胞の増やし方が重要である。それには正しい食事と正しい生活が重要なのだ。前回は正しい食事法について述べた。今回は脳にとって良い生活、正しい生活とは何かについて述べる。

コートライト教授は食事以外の要素を体(ボディ)、心(ハート)、精神(マインド)、魂(スピリット)に分ける。

まず体であるが、ニューロン新生に必要なのは運動である。運動の中でも有酸素運動が有効だ。有酸素運動とはエアロビック運動ともいい、ジョギング、水泳、自転車、早い歩行など、心臓の動悸が高まるような運動である。逆に有酸素運動でないのは、息をせずに一挙に行う、例えば重量挙げのような運動だ。有酸素運動が良いのは血行がよくなり脳にたくさんの血液を送り込むからだ。

ジョギングは脳の健康に良いのだが、私は自分の周囲の人の経験からジョギングには少し危惧がある。それは膝や脊椎の軟骨をすり減らすことである。筋肉は鍛えることができるが、軟骨は鍛えることができない。軟骨を痛めると取り返しがつかないのだ。だから私の意見ではジョギングよりは早歩きの方が良いと思う。これは個人的意見である。

体に関しては運動の他に、良い睡眠、音楽、静寂、自然に浸ること、新しいことに挑戦することなどがある。セックスも脳に良い。つまり気分の良いことは全て脳に良いのである。

次に心つまりハートの部分である。これはポジティブな感情である。喜び、興味、良い感情、良い興奮、親密な人間関係などである。愛し合うことはオキシトシンというホルモンを分泌して、それはニューロン新生にも良い効果がある。

つぎに精神(マインド)である。これには学習、読書、執筆、問題を解くこと、複雑な作業をすること、人とアイデアを議論すること、楽器の練習などがある。つまり頭を使うことは全てニューロン新生にとって良いのだ。

アメリカの修道女の研究で、若い時に先生をしていた、つまり頭を使っていた修道女はボケにくいことが分かっている。これを認知予備という。修道女がなくなった後で脳を解剖してみると、脳が非常に萎縮していて、解剖学的にはアルツハイマー病に違いないのに、生前はそうは見えないという例がある。これは若い時に頭を使って認知予備を作ったからである。

魂の部分である。マインドフルネスという概念がある。これは神経新生に有効だ。そのほかヨガ、座禅、瞑想、宗教の祈りなども

神経新生をするための正しい生活法について述べた。次に逆に神経新生にとって良くないことを列挙しよう。

まずは慢性の血糖値上昇である。糖尿病とか前糖尿病段階は脳の健康に悪い。糖尿病にはよくある2型糖尿病と、遺伝的な1型糖尿病がある。最近アルツハイマー病は3型の糖尿病だと言われている。糖尿病の原因とアルツハイマー病の原因は共通している。血糖値が高いとなぜ脳に悪いか。血糖値が上昇すると慢性の炎症が体のあちこちで起きる。慢性炎症が血管で起きると、血管がつまり動脈硬化が起きやすくなる。動脈硬化は脳に良くない。

血糖値が上がる一番の原因は砂糖の取りすぎである。つまりケーキ、まんじゅう、アメ、ドーナツ、コーラ、ジュース類の取りすぎである。1日に取って良い砂糖の量はティースプーンで6杯、25グラムと言われている。しかしコーラ1本で57グラムもの糖が含まれている。コーヒーなどに入れるスティックシュガーは1本が3グラムであるから、コーラ1本で19本のスティックシュガーに相当する。つまり1日の許容量の倍以上なのだ。米国人の普通の食生活では、1日にティースプーン数十杯の砂糖をとっている。だから糖尿病患者や前糖尿病の人が多い。これは全てアルツハイマー予備軍だ。

ここで意外に思われるかもしれないことは、ジュース類である。これらは一見、体に良いように思われるが、果物ジュースでも野菜ジュースでも、果糖という糖分を含んでいるのだ。この果糖が曲者である。果物をそのまま食べるのは良いのだが、そこから食物繊維を取り去ったジュースは果糖の塊だから良くないのである。果物を液体状にするならジュースではなく、食物繊維を残したスムージーが良い。

次に血糖値の上昇を招くのは単純な炭水化物である。単純な炭水化物とは消化しやすい炭水化物で、つまりデンプンである。食べ物で具体的に言えば、パン、白米、パスタなどだ。これらはグリセミック・インデックス(GI)という値が高い。グリセミック・インデックスとは血糖値の上がりやすさの指標である。ブドウ糖を100、イヌリンのような食物繊維は0とする。グリセミック・インデックスの高い食品は食後の血糖値の上昇を招きやすい。これを防ぐには米なら玄米を食べる、白米を食べる量をほどほどにするなどがある。私自身はご飯を炊く時にイヌリンとともに炊いている。また食べ過ぎは当然よくない。米国人の食事量を見ていると、これで糖尿病にならないとしたら不思議である。コーラのボトルサイズも米国では日本に比べて異常に大きい。腹八分目という生活習慣は体にも脳にも良いのだ。

油で揚げたフライは良くない。というのは、油が高温で酸化されるからだ。酸化した油は体に良くない。植物油は酸化されやすいので、それで揚げたり炒めたりするのには注意が必要だ。

加工食品は良くない。添加物が問題なのだ。例えばトランス脂肪酸は体に良くなく、米国では禁止されているが、日本では禁止されていない。トランス脂肪酸は日本のさまざまな加工食品に使われているという。どの食品に使われているかは添加物の成分表をよく見ないとわからない。見てもわからないかもしれない。だから加工食品は避けるのが賢明なのだ。

さらに体と脳に悪いものとしてタバコ、アルコール、肥満、否定的な感情、ストレス、うつ状態、頭を打つこと、水銀、退屈な生活などが挙げられている。テレビの見過ぎもよくない。まとめると、要するに体に良い食事も生活も、脳にとっても良いということだ。

   
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