長生き食
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- 作成日 2021年6月07日(月曜)12:14
- 作者: 松田卓也
長生きするには、どんなものを食べれば良いかという話だ。なぜこのテーマを選んだかというと、私は78歳の後期高齢者であり、現在の大きな関心事は死ぬまで元気でいること、つまりピンピンコロリと死ぬことだ。
長生きと食事の関係に関しては、以前に「微生物負荷と老化」というテーマで取り上げた。その時はルストガルテンという人の「微生物負荷」という本を紹介した。ルストガルテンの主張は、老化するのは体内に入り込んだ細菌のためだというものだ。そこで老化を防ぐには、第一に細菌を体内に入れないこと、次に細菌が体内に入ったとしたら、それを免疫で殺すことだ。
細菌を体内に入れないためには、一番入りやすい腸の防壁を固める必要がある。そのためにはリーキーガット、つまり腸壁が漏れやすくなる現象を防ぐことが重要である。食物繊維を十分にとって、腸内細菌の適切なバランスをとる必要がある。つまり腸内細菌のバランスが取れていない状態であるディスバイオシスを起こさないことだ。
体内に入り込んだ細菌を殺すには、免疫を鍛える必要がある。そのためにはビタミンKを初めとする栄養を十分にとる必要がある。要するに老化を防ぐ、または遅らせるには食事と栄養が重要だというのがルストガルテンの主張である。その食事は基本的に野菜などの植物を中心とした植物中心食だ。
今回取り上げるのはブァルター・ロンゴという人の書いた「長寿食:Longevity Diet」という本の話だ。ヴァルター・ロンゴは米国の南カリフォルニア大学長寿学研究所所長である。長寿食とは長生きするための食事法である。本書が他の栄養関係の本と違うのは、日本でいうダイエット、つまり体重の減量を目指すのが目的ではないということだ。さらにガンとか心臓病、脳卒中のような特定の病気を防ぐためのものでもない。というのは老化こそがこれらの病気の根本原因であるから、老化さえ防げばさまざまな病気にもなりにくいのである。老化すると免疫力が落ちるから病気になりやすいのである。
ロンゴ教授の本「長寿食」の内容を簡単にまとめると、次の二点に集約される。1)食事は長寿食にすること。2)断食をすること、である。本書の内容は興味深く、重要であるので二回に分けて解説する。今回は1の長寿食について話したい。次回は2の断食について話す。
長寿食について要点を述べれば次の二点に集約される。1)糖分を控えること。2)タンパク質を控えること。要するにこの二点だ。これは先に述べたルストガルテンの主張する食事法と矛盾しない。
まず著者のヴァルター・ロンゴ教授について簡単に説明する。というのもとても面白い経歴だからだ。彼はイタリアのジェノアに生まれたイタリア人である。彼の本来の希望はロックスターになることだった。そこで16歳の時に、ロックの本場であるシカゴにいる親戚を頼って米国に渡った。シカゴではギターを弾き、ジャズ音楽に明け暮れた。大学は北テキサス大学の音楽学部でジャズ音楽を専攻した。その後、軍隊に入った。除隊後に大学に戻り音楽の勉強を続けた。卒業後に就職先として軍楽隊の指揮者の職が提示された。しかしロンゴはロックかジャズのミュージシャンになりたいのであり、軍楽隊の指揮者になりたいわけではない。
そこで急遽、志望を変更して長寿の研究に取り組むことにした。そしてカリフォルニア大学ロサンジェルス校に入った。そこは栄養学と長寿学の中心地であった。なんで音楽から長寿の研究に急転換したか? ロンゴにとって長寿の問題は音楽の次に関心があったテーマだったからだ。ロンゴは北イタリアの生まれだが、おじいさんが南イタリアの小さな村に住んでいた。そこは世界的に見ても、非常な長寿地帯である。そこで知り合った100歳以上の老人に興味があったのだ。だからその長寿の秘密をときたいと思ったのだ。
ロンゴ教授の長寿食の理論の要点は、砂糖とタンパク質が老化を早めるという点だ。砂糖のとりすぎが健康に良くないことは殆どの栄養学者の一致した見解だ。しかしタンパク質はなぜ長生きにとって悪いのか? それはタンパク質が成長ホルモンの生成を促し、これが寿命を縮めるからだ。実際、エクアドルには映画「ホビット」に出てくるような小人の人達がいる。彼らは成長ホルモンが欠乏しているのだ。彼らはガンや糖尿病のような慢性疾患にかかりにくい。彼らの生活習慣や食生活は不健康であるのに不思議と病気にかからない。
そこで長寿食の要点を列挙する。
1 基本的にはビジタリアンつまり植物中心食にする。タンパク質は魚から取る。それもオメガ3不飽和脂肪酸の多い魚だ。たとえば鮭、イワシ、タラ、マスなどである。魚でも水銀に汚染されている可能性のある大型の魚、例えばマグロやカジキなどは避ける。
2 タンパク質を制限するのは65歳以下の場合である。65歳以上の場合は筋肉の衰えを防ぐために、タンパク質の摂取量を少し増やす。その場合はタンパク源も魚だけでなく卵、鶏肉などから摂取しても良い。しかしできれば豆などの植物から取ることが勧められる。
3 飽和脂肪酸と砂糖を避ける。飽和脂肪酸はバターや普通の植物油に多く含まれている。だからフライなどの揚げ物は避ける。その代わりに良い不飽和脂肪酸を多く摂る。良い不飽和脂肪酸の例はイワシなどの魚に含まれるオメガ3不飽和脂肪酸である。またオリーブ油も勧められる。砂糖やデンプンなどの消化の良い炭水化物は避けて、野菜などの複雑な炭水化物を積極的に取る。
4 ビタミンとミネラルの豊富な食物を食べる。ビタミンのサプリメントは3日に一度程度とる。
5 親や祖父母などの祖先が食べていた、安全な食物が勧められる。例えば牛乳は北欧の人間には良いが、日本人には適していない。日本人には乳糖を消化できない人が多いからだ。
6 65歳以下の人の食事回数は一日に2度にする。それとおやつが一回である。朝食は抜かさない。昼食か夕食を抜く。ただしヤセ型の人や65歳以上の人は、一日3度の食事にする。
7 食事は12時間以内の時間帯に限定する。朝食を朝8時に食べたとしたら、夕食は午後8時以前にする。また夕食後、就寝するまでは3時間は開ける。
8 65歳以下であれば定期的な断食類似食をとる。これについては次回に述べる。
長寿食の分類は魚を食べても良いとする緩いベジタリアンである。以前「アルツハイマーの終焉」で紹介したデール・ブレデセンの食事法とも矛盾しない。食事の時間帯を12時間以内に収める点、夕食後に寝るまで3時間は開けるのも同じである。また一番初めに話したルストガルテンの食事法とも矛盾しない。
食事法に関しては主として米国を中心に世界的に大きく2つの流れがある。ここで紹介した植物中心食とケトダイエットだ。ケトダイエットはタンパク質中心主義だ。つまり肉を積極的に食べる。また糖質制限ダイエットでもある。ロンゴ教授が正しいとすると、ケトダイエットは確かに減量できるかもしれないが、命を削っていることになる。実際、沖縄を含む世界の長寿帯を研究すると、糖質制限なんかしていない。タンパク質の摂取は少ない。ケトダイエットとは真逆の方向である。
まとめるとヴァルター・ロンゴ教授の主張は砂糖とタンパク質が老化を促進するということだ。老化を防ぐには、野菜などの複雑な炭水化物を多く取り、タンパク質は必要最小限に抑える。食事法の分類で言えば、魚は食べても良いとする緩いベジタリアンである。