一帯一路計画と中国の野望
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- 作成日 2019年11月19日(火曜)17:34
- 作者: 松田卓也
一帯一路計画
米中覇権闘争のことを取り上げてきた。それは近未来の国際情勢に大きくかかわると思うからだ。人工知能を含む科学技術の分野で米中は激しく競争している。その競争は科学技術に留まらず、経済面でも戦われている。というかむしろそちらが主体である。
今回は中国の野心的な経済計画である一帯一路計画について話す。一帯一路の一帯とは陸の交通路であり一路は海の交通路だ。陸路で中国とヨーロッパを結ぶ計画である。海路でインド洋を通って、中国と東南アジア、スリランカ、アラビア半島、およびアフリカ東岸を結ぶ計画がある。陸路は「シルクロード経済ベルト」とよび、海路は「21世紀海洋シルクロード」という。
そもそも一帯一路計画は2014年11月10日に中国の北京で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議で、習近平総書記が提唱した経済圏構想である。目的はこの地域のインフラストラクチャーの整備とそれによる貿易促進である。インフラ投資計画としては史上最大であるという。
具体的な計画としては、陸路では1)中国東北部の都市からロシアを経由してヨーロッパと結ぶ、2)中国西部の都市から中央アジアを通ってトルコと結ぶ、3)中国南西部からインドシナ半島を縦貫する高速鉄道。この3つが計画されている。とくに2番目の中央アジアを通る道は古代のシルクロードであり、その名前を取って「シルクロード経済ベルト」とよぶ。
中国の表向きのうたい文句は周辺国との経済圏を造ることで、それによって善隣外交を進めるというものである。しかし経済的な意味での真の狙いは過剰投資に悩む国内産業のための新たな市場開拓、対外投資の拡大、膨大な外貨準備の運用の多角化といった中国のためのものである。
しかし一帯一路計画における中国の真の狙いは中国の世界覇権の獲得であろう。軍事的な覇権を争うと米国と正面から衝突するので、反対の少なそうな経済面で世界を牛耳ろうという計画で、それと同時に中国も潤うというおいしい計画である。
現状ではすでに貨物列車が一部運行している。ただし高速鉄道構想がうまく行くかどうかは疑問だ。なぜなら高速鉄道を通す路線の沿線は人口密度が低く、経済価値が乏しいからだ。それでも実行するとすれば、経済的目的以外の狙いがあるだろう。それが世界覇権の獲得である。
地政学
地政学とは政治と地理の関係を研究する学問である。地政学でランドパワーとシーパワーという概念がある。ランドパワーとは文字通り大陸勢力であり、シーパワーは海上勢力である。陸軍国と海軍国といっても良い。世界の国家をランドパワーとシーパワーに分けるなら、中国、ロシア、ドイツなどの大陸国家はランドパワーである。それに対して米国、英国、日本などはシーパワーである。従来から世界覇権闘争はランドパワー対シーパワーで争われてきた。
地政学的な側面から言えば、米国の海上覇権に対して、一帯一路計画はユーラシア大陸の陸上覇権を獲得する計画といえる。だから日本は表面上はともかくとして、裏では反対しているはずだ。日本にとくにメリットはない。米国などは、はっきりとこの構想を潰しにかかっている。インドも反対している。インドはインド洋を巡る覇権で中国と対立するからだ。
一帯一路の問題点
一帯一路計画は、始めは順調な滑り出しに見えたが、最近、問題が噴出している。それは借金漬け外交と批判されている問題だ。開発をしようとする参加国に中国は資金を貸し付ける。ところが計画がうまく行かないと、開発国に借金だけが残り、それが返済できないと、中国が例えばできた港湾を租借という形で奪ってしまうのである。具体的に問題になったのはスリランカ、パキスタン、モルディブ、ジブチ、ラオスなどである。
パキスタンでは中国・パキスタン経済回廊計画に基づいてインフラ整備が進行中だが中国から6兆7800億円もの融資が見込まれており、これは多分、返済することができないだろうといわれている。
スリランカは1550億円の中国からの融資を返済できなくなり、できた港を中国が99年間租借することになった。租借といえば聞こえが良いが、要するに中国が港を取ったのである。中国は中東の石油を輸入している。それがマラッカ海峡を通ってインド洋から南シナ海経由で運ばれる。ここを中国は防衛しなければならないのだ。昨今の南シナ海に中国が人工島を作り軍事基地をおいているのは、その観点からも理解できる。将来的には中国はスリランカの港に海軍基地を置くかもしれない。
中国はアフリカ大陸にある紅海の入り口に位置するジブチに過剰な債務を負わせて、見返りとして軍事拠点を作った。ちなみにジブチには米国も軍事基地を持っている。
インド洋に浮かぶ小国のモルディブも中国の債務問題でゆれている。前大統領のヤミーンは中国の投資で巨大なインフラ整備を始めた。それと同時に私服も肥やした。しかし新しく大統領になったソリは脱中国を決めた。モルディブも位置的に見て、ここに海軍基地をおくことは中国にとって重要である。というのもモルディブの南には米英が軍事基地をおくディエゴガルシア島があるからだ。
マレーシアも前政権が一帯一路計画で南北を貫く鉄道計画を立てた。しかし92歳で新しく首相になったマハティールはその計画を撤回した。マレーシアはマラッカ海峡に面しており、中国の石油輸入にとって死活的に重要である。
まとめ
中国の野心的な一帯一路計画は初め順調な滑り出しを見せたが、最近、借金漬け外交に批判が集まっている。しかしイタリアが最近、参加を表明したこともあり、米中覇権闘争の一環としての先行きは不透明である。ちなみに日本も安倍首相が習近平に近づくなど予断はできない。