アニメ『サマーウォーズ』
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- 作成日 2019年4月23日(火曜)17:09
- 作者: 松田卓也
これは2009年に公開されたアニメ映画である。内容は世界中の人々が集まるインターネット上の仮想世界OZ(オズ)が謎の人工知能ラブマシーンに乗っ取られて世界が大混乱に陥るが、それを日本の高校生である健二が救うという話である。
まあ御伽噺なのだが、私がこのアニメに興味を持ったのは、ネットが電気や水道などのインフラを制御する将来の危機を描いているので興味を持ったからだ。さらに主人公が人工知能と戦うときに使ったコンピュータはNECのスーパーコンピュータのSX9であることにも興味を持った。私はスパコンオタクであるというのも理由の一つだ。
内容をかいつまんで紹介しよう。高校2年生の健二はOZの保守点検のアルバイトをしていたが、憧れの先輩の高校3年生の夏希に恋人として実家にいくアルバイトを頼まれる。実家は上田にある陣内(じんのうち)家で大家族である。ちなみに陣内家は真田家がモデルである。陣内家は夏希の曾祖母の栄を頂点とする大家族で、そこで健二は夏希の婚約者として紹介される。
2010年7月30日午前0時25分、健二の携帯に謎の数字が送られてきた。数学が得意な健二はそれがなんかの問題と思い回答してしまう。それはOZの管理権限を奪う暗号であった。OZは謎の人工知能ラブマシーンに乗っ取られる。OZは現実世界のインフラを制御していたので、世界は大混乱に陥る。そこで昔、教師をしていた栄は昔の教え子の人脈を使い、混乱を沈めるが、翌日、栄えは心臓発作でなくなる。
陣内家の女性陣は葬儀の準備、男性陣はラブマシーンとの対決を準備する。例えばある親族は大学納入前のスパコンを持ち込み、その電源には別の親族のもつ漁船の発電機を持ち込み、冷却には氷を用意する。いいところまで追い詰めたのに、氷が溶けてスパコンが熱暴走してラブマシーンに逃げられる。ラブマシーンは小惑星探査衛星「あらわし」の再突入体を世界のどこかの核施設に落とそうとする。最後には健二はラブマシーンとの戦いに勝ったが、ラブマシーンは「あらわし」を陣内家に落とそうとする。しかし最後の危機一髪でわずかにそれる。
実はラブマシーンを作ったのは、東大卒の天才でカーネギーメロン大学教授の陣内侘助であったのだ。侘助は一族の財産を持ち逃げして10年間行方知れずであったが、突然帰ってきたのだ。侘助はAIとコンピュータ・セキュリティの専門家ということになっている。このアニメの発表当時にアップルのiPhoneが登場した。みながガラケーを持つ中、侘助だけがiPhoneを持っていた。
ちなみに私は現在、カーネギーメロン大学の人工知能の講義をYouTubeで聞いている。講師は日本人ではなく中国人だ。
さてこの映画はラブコメ、大家族主義へのあこがれ、上田の観光映画という側面を持った映画だが、近未来のネット社会の危うさを描いたものでもある。正直言って、人工知能と対決するのにNECのSX9スパコンはないと思う。だって言語がFortranだから。それにAIは高校生ごときに負けるはずもない。まあ御伽噺だ。
しかしそれでも、将来、社会インフラがすべてネットでつながった社会の脆弱性は御伽噺ではない。
以前、アメリカと中国の覇権闘争の話をした。事の発端は、中国の大IT企業であるファーウェイの女性副会長孟晩舟をカナダ当局が逮捕したことに始まる。それはアメリカが逮捕状を発行したからである。なぜ逮捕状を発行したかと言うと、彼女が副会長を勤めるファーウェイをアメリカが潰すためであると思う。なぜファーウェイがアメリカにとって脅威かと言うと、今後導入される5Gの基地局にファーウェイの機器が使われると、中国がその気になればアメリカをはじめとする西欧諸国の通信を盗聴したり、あるいは大混乱に陥れたりすることが可能になるからである。もちろん、現在そうしたことを中国がやっているかどうかが問題ではなく、その可能性を残すのが怖いのだ。
そのような破壊工作はアメリカ自身が今までに他国に対して実際に行ってきたのである。それがスタックスネット事件だ。アメリカはイランの核開発を妨害するために、イスラエルと手を組んでイランのウラン濃縮用遠心分離機を破壊するためのウイルスを作り、密かにイランに持ち込んだ。その計画は成功してイランの遠心分離機は破壊された。アメリカは自分がやったことは、中国もやると考えるのは自然であろう。同じことを中国がやるのが怖いのだ。アメリカは、自分は何をやっても許されるが、他国がやるのは許さないというスタンスだ。それが覇権国家の本質だ。力が正義なのである。スタックスネット計画はブッシュ大統領当時に立てられたが、実行したのはオバマ大統領のときである。オバマ大統領を平和主義者のように考える人もいるし、ノーベル平和賞も受賞しているが、アメリカの大統領が平和主義者であったことはない。
例えばイランとアメリカがこの手の破壊工作合戦をお互いにやったとすると、より脆弱なのはアメリカのほうだ。なぜならアメリカのほうが先進国であり、それだけネット社会になっているからだ。だからアメリカが中国の破壊工作を恐れるのは当然である。
アニメ『サマーウォーズ』では中国ではなく、アメリカの国防省が陣内侘助に作らせたラブマシーンという人工知能を実際にOZで実験していて暴走したという設定だ。それなら自業自得みたいなものだが、アニメではアメリカだけでなく全世界に影響が及んだという設定になっている。その可能性も大いにある。
まとめ
アニメ『サマーウォーズ』では、将来の社会がネット社会になり、基本インフラすらネットを通してコントロールされているときに、おきる人工知能の暴走を描いている。そのような危険性もあるが、やはり人間の悪意のほうが怖い。アメリカにとっては当面、中国の敵意が怖い。日本人の我々としては、どちらが正義かを問うのではなく、どちらが自分にとって有利かの視点で考えるべきだろう。その場合、日本に100年来の敵意を持つ中国と、好意とまではいわなくても少なくともあからさまな敵意を持たないアメリカのどちらにつくべきかは明らかだろう。