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森見登美彦

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森見登美彦(もりみとみひこ)は1979年、奈良生まれで、2003年、京都大学農学部大学院修士課程在学中に「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル賞を受賞してデビューした。その後「四畳半神話体系」、「夜は短し歩けよ乙女」、「有頂天家族」とヒットを飛ばしている。主人公は「太陽の塔」では作者自身を思わす5回生で留年中の京大生、「夜は短し・・・」では、3回生の「先輩」と1回生の「黒髪の乙女」、「有頂天家族」ではなんと、下鴨神社に住む狸の一家である。

これらの小説に入れ込んだ理由の一つは、舞台が私の住む団地の近くであることだ。「太陽の塔」では、主人公は山中越えに行く途中のボロ下宿、元彼女の水尾さんは元田中駅近くの南西浦町のマンションに住んでいる。彼女に振られた主人公は「水尾さん研究」つまり、ストーカーにいとまがない。話は主として、南は京大付近、北は北大路に挟まれた狭い地域で展開する。主人公は女性にもてない3人の京大生の友人と「クリスマスを呪い、聖バレンタインを罵倒し、鴨川に等間隔に並ぶ男女を軽蔑し、祇園祭において浴衣姿でさんざめく男女たちのなかに殴り込み、清水寺の紅葉に唾を吐き、とにかく浮かれる世間に挑戦し、京都の町を東奔西走、七転八倒の歳月を過ごした。」

「夜は短し・・・」でも、主人公の下宿はこのあたりにある。「黒髪の乙女」に思いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、京大の11月祭にと彼女を追い求める。彼はるべく女のにとまるよう心がけてきた。それをナカメ作戦という。彼は吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で「偶然の」出会いを試みるのである。話に彩りを添える謎の美女の羽貫さんは、東鞍馬口通りと川端通りの交差するあたりのマンションに、自称天狗の樋口くんは下鴨泉川町にある幽水荘という崩壊寸前のボロアパートに住んでいる。私が下鴨泉川町をうろついているときに、荷台に赤ん坊を乗せた知り合いの青年に声をかけられた。「松田さん、なにをしているのです」「崩壊寸前のボロアパートを探している」「それは私のアパートですよ」

「有頂天家族」で狸のお母さんが美青年に化けてビリアードをしにいくという出町柳付近の喫茶店や、天狗の赤玉先生が住んでいるという出町商店街近くのコーポ、狸一家の次男が住むという六道珍皇寺の井戸を探しもとめて、私は携帯電話のGPSをあてに彷徨したものだ。

これらの小説の舞台は極めてローカルで、そのおもしろさを真に理解できるのは、このあたりの地理を熟知している人間ではないかと思う。雑誌で、これらの舞台のマップが特集されることがあるので、それらを訪問するのも興味深いであろう。

   
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