疫学ゼミ報告一覧 - NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん https://jein.jp/networkofcs/information-list/epidemiology-seminar/seminar-report.html Thu, 02 May 2024 08:45:38 +0900 Joomla! - Open Source Content Management ja-jp 第1回疫学ゼミ報告 https://jein.jp/networkofcs/information-list/epidemiology-seminar/seminar-report/1435-seminar1.html https://jein.jp/networkofcs/information-list/epidemiology-seminar/seminar-report/1435-seminar1.html

 

第1回疫学ゼミ報告

1.概 要

日  時:2016年9月2日 17:00~19:00
場  所:関西大学 千里山キャンパス第4学舎1階4102教室
参加者数:18名
当日資料:

2.議事録

論文を読む前の基礎知識

● 臨床論文を読む上で注意すべき4点 PECO

● Population: 調査対象となる集団の特性は?
● Exposure: 曝露因子の測定方法は?
● Comparison: コントロール(比較対象)の設定方法、その特性は?
● Outcom: 疾患の診断方法など 臨床論文を読む時には、まず上記の4項目を理解する必要がある。

● 研究のデザインと統計指標

● 断面研究:ある時点での疾患などの状況を示す。有病数、有病割合、有病オッズ比などを指標とする。
● ケースコントロール研究:すでに起こった疾患等に対して、コントロールと比較することで、過去にさかのぼって原因との関連を示す。 指標はオッズ比など。
● コホート研究:ある時点から未来に向かって原因との関連を調べる。リスクや発生率を指標とする。
● ランダム化臨床試験:治験などでは調査する側がランダムに介入を割り付けることが多い。コントロールの比較可能生が高い。

● 注意すべき言葉

● 比:値同士を割り算したもの 。
● 割合:100パーセントを超えない指標。例えば、発生数/観察人数。100人観察して130人が病気を発症した、ということは起こらない。
● 率:時間の概念を含む指標。分母には必ず観察「人年」が来る。例えば、発生数/観察人年。200人を半年間観察した場合、観察人年は100人年。このときは130人が病気を発症するということもあり得る。発生率といったときには、割合だけでなく、一年あたり、という発生スピードの概念も含む。

● 95パーセント信頼区間とは

● 得られた結果は常に、統計的揺らぎを含んでおり、正しい値そのものではない。95パーセント信頼区間とは、正しい値が95パーセントの確率で含まれている区間のこと。その区間の外に正しい値が存在している確率は5パーセント
● 同じものを調べた研究が複数あり、その全てが95パーセント信頼区間として結果を出している場合、そのうちの5パーセントの研究の結果は正しい値を出せていない。20個あれば1つ、100個あれば5つの研究の結果は正しい値から外れている。
● 仮説検定の結果と対応している。
● 疫学では多くの場合95パーセント信頼区間でもって、結論を出す。

津田論文の概要
*( )書きは講師や参加者によって提供された情報など

● 論文筆者らは公開されているデータを用いて解析を行なった。データ取得は行なっていない。
● 論文の内容に対するコメントを受け付けており、6つの疑問とそれに対する執筆者らの答えが存在する。
● 使用したデータは、福島の健康調査のうち、2011年から2013年にかけて行なわれた先行調査の結果と2014年から始まった本格調査のごく一部(2014年分だけ)
● 明確な線量は論文内には示されておらず、調査地域内の線量区分は2012年に出されたWHOの結果に基づくとしている。地域区分は先行調査が行なわれた地域区分とほぼ同じ(調査自体もWHOの結果に基づいて、線量が高いと考えられる地域から行なわれている。)
● 放射線の影響の大きさを算出するために、2つの方法で調べている。1つは福島県内で線量の違う地域同士での甲状腺癌の有病割合を比較する「内部比較」、もう1つは被ばくの影響が無い場合と比較する「外部比較」である。

● 外部比較では地域癌登録を用いている。(福島の健康調査で甲状腺癌が発見されるまでの過程と地域癌登録でがんとして登録されるまでの過程には大きな違いがあるため、そこに疑問の声を呈する人は多い。地域癌登録では患者自身が異常に気がつくまで発見されないが、健康調査では探しにいっている上、技術向上により検出効率もあがっている。健康調査で同時に取られた青森、長崎、山梨のデータでは4500人中1名で甲状腺癌が発見されているが、数が少ないとして筆者らは使っていないようだ。それに対する反論もある。)
● 外部比較では地域癌登録での甲状腺癌の結果に対し、福島での発生率比は50倍としている。
● 一方内部比較では、県内のリスク比は中央値が2.4であるものの95パーセント信頼区間は1をまたぎ、有意な差はなかった。また、もっともリスクが高かったのは、近くでも遠くでもない中間の地域であった。

● 一度だけの検査による結果を使用しており、時間経過を見たデータではないので、本来コホート研究ではない。
● しかし、福島原発事故以前の発生数を0と仮定し、対象者はみな住民票の場所でずっと暮らして来たと仮定し、さらに健康調査で見つかった全ての甲状腺癌は事故後4年間のコホート研究で見つかったものに相当すると仮定する(チェルノブイリの甲状腺癌の結果より、甲状腺癌の潜伏期間を4年と仮定したと思われる)ことで擬似的に発生率を算出している。

● この仮の追跡期間(潜伏期間)である4年間という数字によって発生率は大きく変わる。8年間での追跡であったと仮定すれば、発生率は1/2になるはずである。
● 上記点については潜伏期間の妥当性についてコメントがついている。筆者らの見解としては発生率比が外部比較では50倍と大きいため、少々潜伏期間がずれようと、1倍よりも大きいことには変わらない、としている。

● 参加者らの意見や議論、様子など

● 線量推定への信頼度が低い。論文内でも色々な論文を線量推定の可能性として引用しているが、結局はどれも決め手にかけるようで、使用していない。WHOの結果に基づくとされる論文内に描かれた地域区分は阪大での測定結果とは異なるように見える。
● 外部比較の是非

● 臨床データを扱うことを考えれば、がんの発見に至るプロセスが全く違う地域癌登録との比較はおかしい。
● 疫学家の中でも地域癌登録との比較に違和感を覚えるものも多いが、全国平均のがん罹患率との比較を知りたい人もいるかもしれない。すでに存在するデータを使ってなんとかできる範囲でまとめたと考えれば、どのような手順で結果を出したかについては正直に書かれている。使っている情報や解析にあたって使った仮定が現状を知るために妥当かどうかはまた別の話。
● 先行調査で福島のデータと全く同じ方法で取得された青森、長崎、山梨のデータを使うべき。1名しか患者がでなくとも、統計的に処理する方法は存在する。

● 発生率を無理矢理出していることについて

● コホート研究を模すために定常状態を仮定して、潜伏期間を設定しているが、その仮定は正しいのか。
● コホート研究を模すために事故前の甲状腺癌の数を0とする仮定は正しいのか。

● 論文書者は外からの疑問に対し、きちんとレターという形で答えを表明しているし、本人も誰にでもちゃんと答えたいと言っているという話もある。そのあたりは評価できるし、そういうことなら是非呼んで話を聞いてみたい。(論文の書き方を見る限りは、行なった解析を正直に書いているので、むしろ議論の題材を提供するための論文にも見える。)

(文責:廣田)

 

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疫学ゼミ報告 Tue, 22 Nov 2016 16:37:54 +0900
第2回疫学ゼミ報告 https://jein.jp/networkofcs/information-list/epidemiology-seminar/seminar-report/1436-seminar2.html https://jein.jp/networkofcs/information-list/epidemiology-seminar/seminar-report/1436-seminar2.html

 

第2回疫学ゼミ報告

1.概 要
 
日  時:2016年9月16日 17:00~19:00
場  所:大阪大学 大阪大学医学系研究科共同研7階セミナー室
参加者数:15名
当日資料:
備  考: 1回目の復習からはじめて, 解析結果・著者らの考察について読み進める。また、同じデータ(福島健康調査のうち先行調査の結果)を用いたohira氏の論文との比較を行なった。

2.議事録

津田氏の論文の結果、考察に関して

● 先行調査の結果に関して(第一回のゼミで出た結論や意見については割愛)

● 外部比較では参照値として何県かぶんの地域癌登録の結果を利用。これと比較すると福島では数十倍もリスクが高いという結果が出ているがこれに対しては異論もある。
● 地域癌登録では病院でがんと診断されたものが登録される。一方福島の場合は異変があろうと無かろうと当該地域の81%の人々に超音波による検査を実施。一方、地域癌登録では患者側の自主的な受診が必要であり、わざわざがんを探すために何の症状も出ていない人に検査を行なうことはない。
● 上記のとおり、がんを発見するための手順が全く異なるため、両者を比較することはできないのではないかという意見がある。
● 結果を発生率やオッズ比で出しているが、あくまでもある一時点での有病率を使った断面研究であり、コホート研究やケースコントロール研究ではない。

● 事故前にスクリーニンングした場合にどれぐらい出得るのかが考慮されていない。事故前から発生したがんも事故後のがんとしてカウントしてしまっている。

● 先行調査では、長崎、山梨、青森では役4300人中1名発見されており、統計学的には福島県での有病率と違いは見えない。
● 福島県内において、線量が高いと考える地域と低いと考えられる地域にわけて解析を行なったが、線量の大小と有病率の大小の間に相関は見られなかった。

● 線量の高い地域と低い地域では実施タイミングに1~2年程度の開きがある。線量の高い地域では事故後早く検査されたため、検出数が少なかった可能性があり、地域ごとの大小と有病率の大小に相関がなくても不思議ではないと筆者らは主張している。

● 95%信頼区間を入れると地域間に有意な差はない。

● 本格調査の結果に関して

● 本格調査のうち、ほんの一部だけ解析を行なっている。
● がんが見られた人の年齢分布が先行調査の結果とは異なっている。

同じ先行調査の結果を用いたOhira氏の論文について

● 論文:健康調査を主に行なっている人たちによって出された先行調査のまとめ。
● ohira論文では、福島県内の地域ごとの内部比較、および個人線量を用いた線量依存を調べたが、優位な関連はなかった、としている。
● 津田論文では、対象者の線量を住民票での住所での線量としていたのに対し、ohira論文では対象者のうち20%の人にアンケート調査を行い、その行動から個人外部線量を見積もっている。

● 調査票の回収率は20%。医学研究としては低い(人数にして12万人程度の調査票が回収されている。)。もし、調査票を提出した人のグループと提出しなかった人のグループとに何らかの特徴の違いがあるとすれば、調査票を提出した人たちの集団だけを研究に用いると何かしらのバイアスがかかってしまう可能性がある。

● 津田論文ではWHOが2012年に出し地域区分を用いているが、ohira論文では違う地域区分を使用している。

● その結果、線量が高いとされる地域での患者数が2人程度になってしまい、統計学的な誤差が非常に大きくなってしまっている。
● どちらにも解析方法にベストとは言えない部分や統計的に足りない部分があり、先行調査の結果だけでは確かなことはまだ言えないという印象。
● 本格調査の結果と合わせて何が言えるのか、知りたい。
● ohira氏らが使用した個人の線量データの公開を望む。誰でもアクセスして解析できるようにしてほしい。今後の調査も含めて、データを外部に公表し、だれでも検討可能な状況を作らなければ、所詮はブラックボックスから出た結果としか見られず信頼が得られない。
● ohira論文ではバイアスの問題がある可能性はあるものの12万人近い個人線量の見積もりができているのだから、今後、調査を続けることで何を明らかにすることができるのか真面目に考えて行く必要がある。

● 参加者の意見

● 津田論文、ohira論文ともに同じデータを使っているが、結論は違っている。

(文責:廣田)

 

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疫学ゼミ報告 Tue, 22 Nov 2016 16:39:17 +0900
第3回疫学ゼミ報告 https://jein.jp/networkofcs/information-list/epidemiology-seminar/seminar-report/1437-seminar3.html https://jein.jp/networkofcs/information-list/epidemiology-seminar/seminar-report/1437-seminar3.html

 

第3回疫学ゼミ報告

1.概 要
 
日  時:2016年10月5日(水) 17:00~19:00
場  所:京都大学 医学部キャンパスG棟3階311室
参加者数:16名
当日資料:
備  考: 第3回では、我が国の 放射線防護にも影響する可能がある INWORKS論文を解説します。INWORKSとは、フランス・イギリス・アメリカでの放射線作業従事者からなる集団です。個人線量計により被ばく線量をはかり、被ばくより60年間の追跡(コホート研究)が行なわれています。

2.議事録

INWORLSについて

● 先行調査の結果に関して(第一回のゼミで出た結論や意見については割愛)

● 1940年代からデータのあるフランス、UK・USAで放射線作業従事者の線量計のデータを用いたコホート研究。死亡診断書の死因よりがん死を抽出。追跡は退社などで追えなくなった時、死亡時など(現在では原子力を行なっている欧米の国15カ国においてデータが蓄積されている)。
● 放射線にさらされてから、実際にがんになるまでには10年ほどを要すると考え、死亡発生時に対して、10年前までの累積線量を死亡に至ったがんの要因と考えてリスク算出に用いている。

● タイムラグを5年、15年のケースも調べているが、10年のケースとそれほど違いがない。

● 線量データは放射線作業従事者であれば必ずデータは従事者が働いている企業もしくは国において保存されているものである。USAではこの論文のコホート研究にデータが使用されることを従事者自身には連絡されていない。フランスとUKでは本人の許可が取られており、UKでは1パーセントの人が拒絶している。
● 個人線量計で記録されているのは基本的にはガンマ線であり、通常は100キロ電子ボルトから3000キロ電子ボルトのエネルギーをもったガンマ線による被ばくと考えられる。結果を算出する際には、単位はGyで、結腸線量によって表されている。また、トリチウムによる内部被ばくは考慮されていない。
● 解析は放射線以外のがんリスクによる影響をなるべく取り除くため、さまざまなカテゴリー分けをされて行なわれた(このカテゴリーを層とよぶ。年齢層の層)。カテゴリーの種類は、国、死亡時年齢、性別、生誕年、収入、仕事内容、放射線作業中時期間、中性子被ばくの有無。がん死亡の大きな要因となり得る喫煙などの生活習慣にまつわるカテゴリーは設定されていない。そのため、喫煙による影響を取り除くために、全がんでの死亡と喫煙による影響をもっとも強く受ける肺がんを意外のがん死亡、そのほか肺がん意外にも喫煙の影響を受けると思われるがん複数を除いたがん死亡の何パターンかでリスクを算出している。
● 非被ばく群としてのコントロールは設定されていないが、放射線従事者の中には結果的に被ばく量が無かった人もおり、そのような人も含めた上での内部比較となっている(つまり、線量依存を見た上で被ばく線量0への外挿結果をバックグラウンドとする)。
● がん死の抽出は死亡診断書によるため、誤差は大きい。がんを患っていても、最終的な死因が感染症となるケースなどが多数存在する。国ごとに、死亡理由の中の全がんの割合が違っている理由はこの死亡診断書の書き方による誤差だと思われる。
● 結果は、1Gyあたり、被ばくしないときの1.5倍程度にがん死亡が増えるとしている(但し、90パーセント信頼区間をいれると、およそ1.2倍から1.8倍)。詳細は以下の通り(括弧内は90パーセント信頼区間)。全がん1.51倍(1.23~1.82)、白血病を除く全がん1.48倍(1.20~1.79)、固形全がん1.47倍(1.18~1.79)、肺がんを除く固形がん1.46倍(1.11~1.85)、喫煙と関係が深いとされる全てのがんを除く固形がん1.37倍(0.86~1.95)。

INWORKSへの問題点の指摘

論文:

● 線量率を考慮した場合、影響が変わる可能性があり(トータルでは同じ線量でも少しずつ長く被ばくする場合と多い線量を身近い時間被ばくする場合とで影響が違う可能性がある。線量率とはある時間あたりで被ばくする線量をさす)、線量率の違いによる影響を表す係数としてDDREFというものがある。
● 高線量率では低線量率よりも影響が大きくDDREF=2とされているが、このINWORKSの結果と広島長崎のLSSでの結果とを比較する限りではDDREFが1のように見えている。
● DDREFが従来の結果とは違って見えている理由としては、広島長崎でのガンマ線のエネルギーとINWORKSでのエネルギーが違うため、影響の出方が違っている可能性がある。

日本での放射線従事者に関するデータ

論文:

● 日本でのリスクの値はINWORKSよりは少し低め。1.36倍程度。

(文責:廣田)

 

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疫学ゼミ報告 Tue, 22 Nov 2016 16:40:08 +0900