2017年12月15日

2016年度の活動を振り返る ― ヒアリングを受けて

 

2016年度の活動を振り返る―ヒアリングを受けて

 

さる2017年2月22日、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)科学コミュニケーションセンター対話グループ「平成28年度科学技術コミュニケーション推進事業ネットワーク形成型」の事業として採択された「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築」に対する中間ヒアリングがJST本部で行われました。
私と宇野賀津子さんで行ってまいりました。およそ20人弱の審査員がご出席でした。PPTに基づいてご紹介しましたが、一番に言いたかったのは、何より予想より早く事業が充実したくさんの共感者ができ、仲間が拡大したことです。と同時に、具体的な内容が明確になりました。
中でも、勉強会を通じて熱心に参加された参加者の中から、いろいろな提案が出て、それを受ける形で具体的な取り組みが陽の目を見始めたことです。

まず、科学者の情報発信グループの設立が現実味を帯びてきたことは大変心強いです。しかも、それはUNSCEARという放射線の生体への影響を、純粋に科学的知見をもとに世界中の科学者の結果をサーベィして情報をまとめ発信している国連のもとにある国際的な科学者グループの議長経験者である米倉義春先生(当企画の評価委員)と国際的なリーダーでもあるWolfgang Weiss 先生がサポートしてくださることになったのはとても心強いです。
そのような放射線防護の科学的知見の専門家であるお二人だけでなく、今まで様々な分野で科学者としての業績を高く評価されている素晴らしい先生方にも、アドバイスをいただきます。
この道の専門家だけでなく、分野を横断した広い視野を持つ先生方の存在が今回の科学者グループの重要な役割を果たしてくださると思います。
こうした先生方のアドバイスのもとに、たくさんの若い科学者、「データ32」を共同作業で行った著者グループも含めて新しい仲間がいっぱいいて、ご一緒に検討する体制を築きたいと考えています。
それが可能になってきたと思います。これもJSTの事業採択のおかげで、たくさんの仲間の話を聞く会に恵まれ、話し合う機会が作れ、手弁当とはいえ、少なくとも旅費交通費をお支払いできることによって、遠くからも集まれるようになったので、いろいろとお話し合いの機会をお願いするのが楽になったことが大きくネットワークを広げるためにプラスになりました。

次に、国際的な連携が思いのほか進んだということです。
それは、ワイズさんのおすすめで、出席した2015年に開かれた、MELODI主催のRPW(Radiation protection Week)に参加したことから始まりました。
この時はポスターセッションに出させていただいただけだったのですが、翌年、つまり昨年2016年に開かれたオックスフォードのMELODIワークショップ(「Radiation Protection Week 2016」 19 - 23 September 2016)では、オーラルトークをさせていただくこともでき、ポスターセッションとともに、たくさんの科学者の反応があり、さらに、オーラルトークの話が終わったら、米国から来られていたEPRIのTechnical Executive であるDonald Cool 博士が、「アメリカでワークショップがあるのだが、11月にこれないか」と声をかけてくださいました。
MELODIが大きく発展している中、米国も例の低線量放射線の生体影響についてのプロジェクトが上院もパスして国家プロジェクトとして動きだしそうな様子です(もっともこの点は新大統領がどう動くかわからなくて不透明になってきてはいますが)。そして、Cool博士のお誘いに従って、米国のワークショップに出席し、話をさせていただきました。

このように、連鎖反応的にネットワークが広がり始めました(偶然にも、シャーロットに滞在中に大統領選挙で大きく情勢が変わったことを、研究者たちは感じていたようです)。また、JMELODIのことを知って韓国の若い元気な科学者たちも、韓国でKMELODIを立ち上げたいなというような反応もあり、ちょっとした国際的世論の盛り上がりを見せました。
そして、たくさんのネットワークができました。 しかも、もっと心強いことには、このノースカロライナでのシャーロットで開かれた研究会で、同じく講演されたNorthwestern Univ. のGayle 博士と親しくお話しすることになったのです。博士は、放射線の影響に関する研究で、私たちが構築した数理モデル(WAM模型)に大変関心を寄せていただき、「今までのLNTやLQMではうまくいかないので困っていた」ということで、すぐに意気投合し、「一度じっくり議論しよう」という話がすぐにまとまり、「シカゴに来て、じっくり議論しませんか」という話になりました。
そして、なんと、シカゴにこの2月末(2017年)に、研究者仲間の真鍋勇一郎さん、和田隆宏さんとともに出かけ、共同研究が始まったのです!
毎日集中的に議論をして大変刺激的な日々を送ることができました。Gayle 博士は大変行動力のある方で、すぐに実行に移されます。そして、「共同研究に応募しよう。6月までに4枚程度の計画レポートを書いてほしい」といわれました。
思いもかけない発展です!こんな風にしてネットワークが広がっていくことをしみじみありがたく思っております。

こうした国際的な知己を中心に、このネットワークを基にすれば、国際公開講演会はもっと早くやれそうだ! 
こうして、3年目に企画していた国際市民公開講座を2017年度中に開く計画を立てています。こうした企画が実現するのも、JSTの資金があったからこそです。こうして計画を先取りした実行案ができることになりました。
これらの企画には市民とのネットワーク、科学者と市民を結びつける議論の場での忌憚のない意見交換を通じて、若い人たちが、この分野への意欲を持ってくれることこそが、最も大きな効果になるでしょう。また、講演会では、大学生、高校生、中学生、そして小学生と縦につながった大きな輪ができれば、やりがいもあります。こうした目論見も視野に入れて企画を大きく展開できるのです。

こうした情勢の中でのヒアリングでしたので、私どもも、過去の実績を踏まえて、さらに具体化した提案を示すことができました。前置きが長くなりましたが、ヒアリングの評価の回答が返ってきた段階で、それを読んでいくつか、私どもの心構えを記しておきます。

1)「放射線必須データ32」「子どものための統計」といったツールを活用して、実践的に科学的データの取得および分析を行い、自ら考える市民との活動が着実に推進していることを評価していただけたことを大変心強くありがたく思っております。

2)とはいえ、もう少し突っ込んで振り返るならば、2016年度行った勉強会は10回を超えましたが、何度も行ううちに連続の勉強会でもあったこともありますが、参加者がどうしても固定化されます。
もっとも常連となった方々は、熱心で勉強会の後もご一緒に議論する機会が増えてきております。
しかし、とはいえ、どうしても固定化が進みます。そこで、新しく参入する方々を増やすための方策としては、やはり勉強会の成果を、公開講演会で発表し広く呼び掛ける場を作ることが必要だと思います。
もちろん今でも、HPには各々の勉強会の詳しい内容はでており、ネット上でもこの勉強会の話題が取りざたされるぐらいの勢いなのですが、やはり爆発的には広がりません。
そもそも考えてみると、現在の参加者は、キックオフミーティングの際に開かれた公開市民講演会に参加された方々です。1回きりではなく、いつもこうした公開講演会で成果を発表していくことが重要だと痛感しました。そういうことを踏まえて、2017年度は、年に3回はこうした会合を持ちたいと思います。特に、意見の異なる方々ともしっかり議論して、お互いの立場を理解しあうようにしたいと思います。
決して「同じ考え」の方々だけの、仲間内の勉強会にしたくありません。

3)また、さらには、若い世代、特に高校生への取り組みについては角山チームリーダーのもとで繰り広げられる「ゆりかもめ」チームの活動が動き出します。
すでに、チーム結成会(2017年2月12日)には、たくさんの方々に集まっていただき力強い発足ができました。
ただ、1つだけ問題があります。それは、親子理科実験教室やおもしろ算数塾というNPOが開いている小学生、中学生の方の中に、ユリカモメに参加したいという希望者が多数出てきたことです。
中には、お手紙までいただき「どうしてもやってみたいので小学生にも参加の機会をください」という熱心な申し込みがありました。親子理科実験教室に参加している熱心なお子さんたち、小学生・中学生については、私どもとしては時代を背負う大変重要な若いパワーなので、何とか一緒にできないか、またそれとともに、阪大で動き出している飯館村の研修「環境を通して科学的素養を身に着ける」という実践的な場にもまきこめないか。こういう議論を何度もして、とうとう「ジュニアゆりかもめ」という特別なものを作るということになりました。
これは親子で行ってもらうチームですので、まあ、市民まで巻き込んだ面白い取り組みに発展するでしょう。

4)「勉強会や白熱教室など諸活動の成果をどのように評価しようと考えているか、実施回数や参加人数といった量的数値に留まるのか、それとも参加者の満足感や感想等も評価の対象とするのか、さらには放射線に対する意識がどのように変容したかといったことも含めるのか」というご質問がありました。
これは大変重要なご指摘です。少なくとも、私たちが今まで培ってきた勉強会や市民とのつながりでは、単なる勉強会とかお話を聞く会とは趣を異にしています。
そこでは、「実際に何かを作り出す」いろいろなアイデアや提案が出され、その中で、これは素晴らしいという提案は積極的に取り入れて次の活動につなげているのです。それが、あいんしゅたいんのいつものやり方です。そういう方向で取り組んできました。
単に参加者が増えたということではなく、そこでどんな提案が出てきて、どういう方向への意欲的取り組みが新しくできてきた、ということが重要ではないでしょうか。その成果があってこそ、当あいんしゅたいんが市民との合同研究会から、「放射線必須データの編集」にとりかかり、そして「データ32」という出版にまでこぎつけたのでした。この実績があります。
今度は、今、市民との合同で、「データのウソや分析のウソ突破作戦」を議論してパンフレットにまとめるという計画を立てています。単に受け身でなく、積極的に共同作業ができることを期待しているのです。

5)「業務の遂行を組織的に動かしていくための体制図や役割などを明記してほしい」というコメントもありました。するどい指摘です。
私、坂東は今年で80歳を迎えます。いつ何時、けがをしたり突然死するかもしれません。また、支援終了後も継続する体制を作ることは重要です。
しかし、ここで、指摘しておきたいのは、評価委員会がご心配されるほど坂東だけが頑張っているのではないということです。放射線の生物影響の研究に参加している若い人たちは、すでに6人になっています。
それに最近は、すご腕の土岐博さんが新しく参画されて議論が広がりました。土岐さんは、大阪大学核物理センター長もなされた、たくさんの業績のある原子核物理学者ですが、私よりは若いとはいえ、もう定年を迎えられています。
でも、年代をつなぐ様々な層の科学者、高関心層市民である艸場さんや土田さんが、いつも素晴らしいコメントやご意見をいただけるのも心強い限りなのです。そして、その数はますます増えています。
それに放射線教育の立場からは私といつもペアである宇野賀津子さんが、私より一回り(12歳)年下ですが、福島事故以来、ずっと福島に寄り添い、たくさんの仲間も作り、福島の方々に正しい放射線の知識を与えつつ、優しい心のケアもされています。
それに、最大の心強いリーダーは、放射線教育のベテランである角山さんの、力強い取り組みが動き出しています。「ゆりかもめ」はまさに、角山さんがおられるからこそ立ち上げり、全国にネットワークができているのです。これは、大変な力を発揮されています。
それに加えて、大学院生・学生たちも、今や、教材づくりも企画を進めています。先日は、初めて学生院生のチームで、神戸まで「出前授業」に出かけて好評を博しました。私は横から見ているだけでみんな自ら計画を立て頑張っています。
もうすぐ、親子理科実験教室も90回をこえます。100回記念は2017年の12月になるでしょう。今年はこの若者たちが夏の親子理科実験教室を受け持ってくれるので楽しみです。こんな若い方々に混じって「ゆりかもめ」と小・中学生のための「ジュニアゆりかもめ」が育ってきてくれればますます頼もしいことになります。
とはいえ、「持続可能性を考慮し早急なる人材育成、体制強化」は大きな課題です。特に、若い世代、大学院生や大学生は、就職して京都を離れています。今では東京支部ができるぐらい、日経新聞や朝日新聞、NEDOや経産省、そしてZ会やベネッセ、そして高校教員など多彩な方面で活躍しています。
これらの若い人々は、あいんしゅたいんでともに活動した仲間ですが、もちろんみんな、卒業後もいろいろな機会に立ち寄ってくれますが、当企画の活動としては短期間で飛び立っていきます。活動の持続性という意味では、いかにしてこの伝統をつないでいくかは大きな課題です。今後も大きな課題ですので、アドバイスをお願いします。

6)最後に、当あいんしゅたいんの企画についての体系的な図がないことを指摘されました。
確かに誰がチームリーダーかはっきりしないまま、みんなで取り組んでいるようあところもあります。今年は「担当チームを明確化し、ネットワークがどのようなに広がっているのかを一覧できるよう可視化してほしい」といわれました。
大きな組織になりつつあるのとはいえ、しっかりしたネットワークになるには、さらに連携協定も必要になるかもしれません、いまの規模ですと、まあ金額から言っても、この程度のことで済んでいますが、この企画が終了する頃にはさらに、広がった形になることも視野に入れて、全体像を構築していきたいと思います。

7)また、国際化も進んで共同での企画も可能になる時期が近く、2018年3月の国際集会が契機となって、さらに先に進んでいくと考えられます。
すでに成果の一部は、国内・国際の学会等で発表はしていますが、「Science誌など海外誌への投稿も検討してほしい」という要望がありました。
激励を受け止めて国際誌へのアプローチも進めたいと願っています。すでにいくつかご提案も海外からありますので、しっかり受け止め、進めていきます。

以上のように、ご忠告や激励していただいた内容について、いろいろと考えたことを述べさせていただきました。

坂東昌子(NPO法人あいんしゅたいん理事長)記