2020年12月04日

 

西浦博オンライン講演会

2020年5月12日(火)、日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)の主催にて、新型コロナウイルス感染症の政府対策に関連して、Mathematical Biologyの専門家として厚労省クラスター対策班の活動を支えておられる、西浦博氏(北海道大学教授)をお招きしての公開セッションが、インターネットのZoomを使って開かれました(これは、ニコニコ動画でも配信されました)。

<8割おじさん西浦教授に聞く~新型コロナの「実効再生産指数」のすべて>


NPO法人あいんしゅたいんには物理関係の理事・会員が多くいます。そこに医学・生物関係など幅広い科学者と市民が加わって率直な議論をしています。そしてそれと医療疫学のエビデンスとの関わりを検討しています。
今回、新型コロナに関する議論をメールやZoom上で様々な観点から議論をしてきましたが、情報が十分得られないので、推測したり、計算したり、いろいろなサイトで調べたりして苦労しています。
こんな機会はありませんので、急遽あいんしゅたいんにて論点をまとめ、以下のようなテーマで事前質問を行いました。

主なテーマは

1)有効感染率(Rt)をどのように決めたか教えてほしい
2)Excess death rate(過剰死亡率)の中身の分析をどう取り入れているか
3)医療倫理という観点から抗体検査や位置情報などの個人情報をどう取り扱っているのか(健康調査の時にも問題になったが、その教訓はどう生かされているか)
4)専門家委員会などでは、科学的根拠に基づく情報公開がどのように保証されているか
5)感染者数:I(並びに回復人数;R)の絶対数は現在の10~100倍という推測もある。集団免疫の知見と共に対応処置は異なるはずだが、どこまで明確なのか。


 【質問事項】

質問1 位置情報データからの実効再生産数の算出(W)

現代のテクノロジーを用いれば、人と人の接触回数についてIT技術を用いてサンプリングすることが可能で、Rtないしβに関する上記の考え方が、どの程度現実に即しているかを確かめることができます。そこで、質問はそのような「位置情報データをβまたは実効再生産数に換算する方法はできておられるか」どうかということです。もし、換算法ができているのであれば、それを公開していただき感染者数の変化とチェックすることで、その妥当性を確かめることが重要だと考えます。
両者の関係が信頼性のあるものなら、今後感染者数が再度増加したときに、人の動きをどこでどの程度減らすことが必要かをより的確に予想できると考えます。
マスコミでは、接触回数8割減と人出の8割減を一緒に扱うものも多く、達成すべき目標と方法についてより適切にメッセージを伝えるためにも、モデルの考え方について丁寧でオープンな説明が必要と考えます。

質問2 モデルを適用する地理的範囲の大きさ

Rtについては、詳しく見れば、人口密度や人の動きの活発度などに応じて地域ごとに異なる値をもつことが予想され、人の動きを制限する範囲をどの程度に設定するかに大きく関係します。このことに関しても「Rtの算出やモデルを適用する地理的範囲に関する基本的な考え方はどのようなものか」をお話しいただければ、感染予防に数式を使うことへの信頼性が高まると考えます。

質問3 医療倫理という観点から(K)

コロナに関連したPCR及び抗体検査、Rt計算のための位置情報データなどを取得し扱うにあたり研究目的の設定と市民への説明同意をどのような形でクリアしているか。」
福島原発災害による科学者の信頼失墜が言われています。ここまでは分かっている(逆に言えばここからは分かっていない)根拠とする科学的データの公開、開かれた異分野連携、政治との役割分担など、新型コロナ感染症対策においてその教訓はどう生かされているのでしょうか。
国民がモルモットにされたなどと感じないような臨床研究の明確な目的設定と課題解決のための学際的な体制構築、市民への十分すぎるほどに丁寧な特にデメリットの説明を行って同意を得たうえで、Rtを計算する研究が遂行されることを望みますが、分析の一端を担われている科学者というお立場でどのようにお考えでしょうか。

質問4 満員電車やパチンコ店での感染は?

クラスター解析で、通勤電車やパチンコ店での感染が確認されているのか、気になっています。クラスター解析でどういう数量的評価ができますか?
また、西浦先生がPCR検査の実施数が少ないとお考えかどうかも聞きたいです。(YK)

質問5 我が国における過剰死の現状と今後の”80%減”方策(Y)

諸外国では、新型コロナの流行による都市ロックダウンの時期とほぼ同期して、例年の死亡者数を大きく超える過剰死が報告されています*(例えば、イタリアでは21500人増(90%増))。
これには死因が特定されなかった新型コロナ死の可能性ばかりでなく、ロックダウンに伴なう困窮死等々、様々な原因が含まれていると想像されますが、異常な事態で、新型コロナ対策はこの過剰死も視野に入れて進めるべきものであるのは明らかです。
我が国においては先ず、まず過剰死者数とその原因を正確、迅速に把握し、”80%減対策”の見直しを含めた今後の対応策に反映すべきものと考えます。

● 現状で過剰死がどの程度あるかを把握されているか
● それを反映した具体的対策を練られているか、

の2点についてお教えください。

質問6 集団免疫・感染者数と免疫機構(M)

SIR,あるいはその変形発展形の模型は、究極的には感染者の数の時間的推移が、非感染者(S)から感染者(I)への遷移による増加分とIから回復者(R:ここには死亡数も含まれる)への遷移による減少分の時間推移の振る舞いが重要ですが、Iの増加が止まり一定数以上に増えなくなる、つまり増加分がゼロになったら、定常状態になりますね。
そこで、この状態と「集団免疫」との関係、とくにどのような状態が達成されたら感染が終息するかといいうことと集団免疫という医学的な免疫獲得とがどのように関係しているか教えてください。
検査数が未確定な現在、感染者は10~100倍という推測もありますが、このあたりの確かな情報を教えてください。特に陽性率は、感染者比率によってどれくらい確かな情報を与えているか、不確定です。Rは「感染しない」(免疫獲得?)のか、あるいは、感染する、つまりSに戻るのか、(死亡者については前者)、また。Iの中の無症状で感染力を持つものと持たないものがどれくらいいるのか、といった情報は、医療の解明状況と検査数技術(検査数も含めて)と連動しています。
現状ではどう評価されているのですか、そしてシミュレーションの際、どのような処理になっていますか。検査もPCRのほかに抗原検査、抗体検査、などの知見と連動します。こうした専門の異なる方々との連携、シミュレーショングループと医療の最前線との連携の状況を教えてください。

質問7 抗体について現在どのレベルの不確定な要素の程度は?(F)

現在の最前線の抗体について、以下の課題が重要だと思われますが、現状をお聞かせください。そしてそれがどのように、モデルの中で位置づけされていますか?

1.「ウイルスの活性を抑えてしまう抗体」や「感染を阻止する抗体」の特定
2.特定された抗体の抗体価がどれぐらいであれば「感染しない」のか、その閾値、これ以上高ければ大丈夫という値の推定
3.特定された抗体の抗体価が、「感染しない」と判定できる閾値以上であることを確かめる検査方法は?

ランダムサンプリングによる抗体検査が行われ、その抗体保有率が明らかになっても、 その抗体検査が一体、どんな抗体を調べているのかが明らかでないと、社会や政治判断をミスリードするものになりかねない、と危惧しております。

質問8 感染の実態把握の改善について

適切な対策を検討・実施していくためには、感染の実態をできるだけ正確に把握することが特に重要と考えています。現在の日本のPCR検査数は外国と比べて少ないと報道されていますが、西浦さんはどのような情報をもとに、感染の実態を把握されているのでしょうか。
感染の実態をどの程度把握できているとお考えですか。また、感染の実態をより正確に把握するために、今後、どのようなことを改善、あるいは追加で実施していく必要があるとお考えですか。
西浦さんがご担当されている、今後の感染者数の推定や、対策を実施した場合の効果の推定について、もっと詳細にどのような考え方で、どのような式を用いて、どのようにパラメーターを設定しているのか、また、そのパラメーターをどのような根拠のもとに設定しているのか、知りたいと思い、本日の勉強会に参加しました。
このような場でお話を伺えることは大変ありがたいのですが、できれば公式な場で、詳細な情報を開示していただけないでしょうか。西浦さんは、コロナウイルス感染症対策専門家会議やクラスター対策班としての情報公開が十分だとお考えでしょうか。西浦さんが所属されているクラスター対策班あるいはデータ解析チームとして、もっと詳細な情報を公開していただくことができないでしょうか。

質問9 情報の共有化と科学者の役割(H)

西浦さんが所属するクラスター対策班は、厚生労働省内に作業する部屋があるようで専門家員ではないのですね。
西浦さんは、政府の代表や、対策委員会の委員としてではなく、その下部組織のクラスター対策班で、データ解析を担当しておられるのですね。そして、対策委員会の規約「必要に応じて、専門家を呼び、意見を聞くことができる」により、委員会に西浦さんを呼び、データ解析結果について報告しておられると思います。それなら、西浦さんが大学教授として、自由に動ける立場ですから、今回のような企画が可能なのだと思います。
対策班の形態はしっかりできているようですが、腕を振るえるかどうかは、周りの情報を得ることができる人とのコミュニケーションが大事だと思われます。

● 公開情報としてPCR感染者の死亡者数は毎日報道されますが、それ以外の死亡者数も非常に大事に思います。厚労省はこの情報を得ることができる立場にあるので、そのような情報を持って、対策班は対策に当たっているのですか。
● 欲しいデータは委員会が要求すれば、それが入手可能ならすぐに取得できる体制ができていますか?
● 少なくとも、肺炎で亡くなった人の数はすべて知っておく必要があるように思いますが、すでに持っておられますか。

質問10  終息条件とは?(松田慎三郎)

最前線で頑張っておられ敬服いたします。私は専門家ではありませんが、コロナの完全な終息はどうやって達成されるかを検討しています。
私の仮説は武漢が終息していたとしたらどうなっているかについて集団免疫の観点から検討しました。そうすると、PCR陽性者でない感染者が桁違いに多くいるはずで、これらの人が抗体を獲得して感染拡大を抑えているはずだということになります。そして自然免疫の高い人と、免疫獲得者の集団がこのウイルスの特性である基本再生産数で決まる割合を超えたとき、実行再生産数が1以下となり、完全に感染は終息に向かうと考えています。
もちろん、現在の政策に反映されている3蜜を回避したり、8割削減は人為的に再生産数を抑えることが出来、その効果として現状で1以下を達成されています。この状態を永遠に継続できれば感染は広がることはなく、何時かは終息に向かいますが、感染者を抑えることは抗体獲得者が増えないことでもあります。
そこで経済的、社会的理由で規制を緩和していくとき感染は基本再生産数に向かって再び広がっていきます。したがって、当面の収束と最終的な終息とは違っているはずで、そこでお伺いしたいことは(どうのような政策を選ぶかは別として)、専門家の先生方はどのような状態となれば終息したとお考えなのでしょうか?
政治家の言では、あと1~2か月我慢すれば終わるというようなニュアンスを感じ取るので極めて危なっかしく感じております。

【質問に対する回答】

1.あいんしゅたいんより行った質問の他にも沢山の質問があったようですが、回答が掲載されました。

5月12日に開きました、ネット緊急勉強会「西浦教授に実効再生産数(Rt)を使ったコロナ対策について聞く」(JASTJ主催)では、多くの方々にご協力をいただき、ありがとうございました。おかげさまで、セッション参加者は、Zoomサイトで約80人、ニコニコ生放送で15,136人(18日現在)――という結果となりました。

同日のセッションの動画は、以下のサイトで見られます。ニコニコ生放送 また、多くの参加者から質問を受けましたが、西浦教授は、厚労省・同感染症クラスター対策班の多忙な日程の間をぬって、82問の回答を作ってくれました。

その「質問回答特集」が、JASTJの発信サイト「COVID-19 科学ジャーナリストのための情報整理」に掲載されています。参考にしていただければ幸いです。

セッションでは、新型コロナウイルス感染患者数の予測値がどのように決められるのか、その計算手法をめぐる専門的な説明と質疑が多かったのですが、予測数値計算にはどんな制約や誤差が、あるいは役割りがあるのか、その両面が社会に伝えられたことは、大きな意味があったと思います。

セッション前には、「クラスター班は情報・データを隠しているのではないか」、「設定条件に誤りがないか」、という批判が、主に理工系の専門家から多かったですが、セッション後はこうした声が減ったようで、専門家筋の理解が広がったのではないかと受け止めています。

専門家と社会を結ぶコミュニケーションの試み、またネットの活用も工夫しながら、続けて行きたいと思います。引き続き、よろしくお願いいたします。

JASTJ・「COVID-19 科学ジャーナリストのための情報整理」担当 副会長・瀧澤美奈子 理事・小出重幸

2.科学ジャーナリスト小出氏より以下のようなメールをいただきました。

科学者・専門家と社会、そして行政を結ぶ作業は、Citizen Scienceの役割でもありますが、同じく私たち報道、そしてScience Communicationの課題でもあります。こうした取り組みを、ネットも活用しながら、継続したいと思います。」

● 今回のセッションのような取り組みをジャーナリストの方々が作ってくださったことは、とても貴重です。本来なら、科学者組織からもこうしたコミュニケーションの場を作り、分野横断型の議論の場を通リ科学者の総力を挙げて情報と知見を共有すべきだと思っておりました。

● あいんしゅたいんは、放射線の生体影響に対しては、かなり早くから基礎物理学研究所やJSTの支援を得て、交流会や研究会、市民講演会などに取り組んできました。今回は、医療界の皆さんがプロの立場からしっかり情報を届けくださっていました。しかし、予測なども必要になり、多くの分野を超えた科学者の力を合わせて、この未知の現象に挑む必要があります。

● 市民との連携で、市民と情報を共有し、そこかあら新しい認識に至った経験もたくさんあります。

● これらも生かしつつ、あいんしゅたいんも今後ジャーナリストの皆さんの計画にも協力していきたいと思います。


 【西浦博オンライン講演会感想】

この会の中心課題は、データからいかにして有効再生産数を導き出したかということを多くの人が知りたいという要望から、科学ジャーナリスト協会が西浦さんにお願いして開催されたものです。これまでに、幾度かの感染病が世界を席巻したことがあり、その経験に基づいた実績がある模型とのことです。これは、

感染していない人(Susceptible)→ 感染者(Infected)→ 感染者から抜けた人(Recovered)

と移っていく時間推移をあらわす模型なのですが、その人数がどれだけかを計算する簡単な模型をSIRモデルといいます。このモデルは、1927年に提案されました(W・O・ケルマックとA・G・マッケンドリック)。それからすでに100年たっていますね。

これは1905年~06年のボンベイにおけるペスト流行のデータをうまく再現できたということです。
上の図で、真ん中の感染者の人数、Iの時間変化は、入ってくるほうと出ていくほうが釣り合っていれば感染者の人数は変わりません。入ってくるほうが多ければ、感染者の数Iは増えていきますし、出ていくほうが多ければ減っていきます。このちょうど釣り合うとき、実効再生産数(Rと書きます)が1だといいます。まあ、入るほうと出ていくほうの速さの比が1になっているということです。1を超えると増加しますし、1より小さいと減少します。ですから感染者の数の動きを見ていれば、実行再生産率は感染者数の動きを見てわかるのです。

しかし、実際には毎日でこぼこして、そんなに滑らかには推移していません。これはいろいろな偶然も重なって、例えば日曜日分はあまりたくさん結果報告できないとか、どこかで急にたくさんの人が集まりクラスターが発生したとか事情は様々です。
そういった日々変わる事情などにも左右されるので、その日だけでなく例えばその近辺のデータも加味してRtを出すのだそうです。これをどうして出すか、感染してから発症までの時間差や様々な影響をできるだけ正確に出すため、「畳み込み」など、いろいろな方法で確率論を駆使して求めています。このためには、本当はもっと詳しいデータがあればあるほど、正確な値を出すことができるわけですね。

西浦さんは、この実行再生産数をどうやって決められたか、とても丁寧に説明してくださいました。十分でない情報の中で、今あるデータをもとに苦労して導かれておられます。まさに、全力を投じて追及しておられることには感銘を受けました。

実は、あいんしゅたいんから、西浦博オンライン講演会に提出した質問は、現在算定されている実行再生産率ではなく、むしろ、これから先を予測するのに、この実行再生産率を、どうしたら下げることができるか、予測を立てるのに、どういう考え方で行ったかを知りたかったのです。
でもこれは、また次の機会の勉強会になるのでしょう。 8割おじさんと言われるには、この実効再生産率(Rとかきますが)を、いろいろなセ策を施した時に、どれくらい感染を下げられるか、を見極めたいわけです。

ところが、実際には感染してから実際に感染者としてデータに現れるのは1~2週間かかり、こと発病の時刻のおくれ、報告の遅れなど、様々な不完全なデータから、自力で頑張って作り上げているのだ、ということを知って、大変な仕事をなされていることを痛感しました。
ですからこれは、いろいろな国でどのような施策をとったら、どのように変わるか、を参考にしたり、理論的に、接触回数を予測したりと、いろいろな方法で予測を立てているわけです。

で、どういう考え方で、どの範囲(例えば都市の規模や人口密度によってきまる範囲)で、これを算定したらいいか、がとても重要になります。
Rtはまず、非感染者と感染者の接触で起こりますから、感染者の数や非感染者の数が多ければ大きな値になります。でも、例えば東京のRtを出すのに、北海道や九州の人口がどれくらいか影響するか、と言われたら、それはちょっと違うかな、まあ、飛行機で移動する人がいたらそれくらいは影響するけど…などとみんな思いますね。

スティ・ホームといわれても、都会のど真ん中ならそうかもしれませんが、過疎地帯では、外に出ても誰にも合わないかもしれません。実際にクラスターの発生しているところがどんなところかを観測して、出されたのがいわゆる3密という話になったのですね。このあたりの推測をどのようにしてなされたか、知りたかったわけです。

問題は、ここにどのような要素が加わると、またどのような人の行動に制限を加えると、有効再生産数が、どう変化し、それがデータにどのように影響を与えるかというところが、知りたいですね。問題はここにあります。実行再生産を予測するには、感染者と非感染者を隔離し、接触を減らさないといけません。ここは更に苦労されたに違いないのですが、今回は、そういう先の分析の話なでは至りませんでした。

当日参加させていただき、質問もチャットで行ったのは、主に「感染しているが無症状の存在が今回重要だがそこはどう評価したか」というようなことでした。事前質問に加えて最も気になっている所でした。
でも、わかったことは、途中の統計処理はほんとにできるだけのことをやっておられるということでした。それと、西浦グループが持っておられる情報は、殆ど私たちが、いろいろ探し回って得られるものとほぼ同じであることを知って、そりゃ大変だと思いました。

疫学統計の教科書(ヨハンギセック「感染症疫学―感染性の計測、数学モデル、流行の構造」(昭和堂、2006))には、統計疫学的計算についてはあまり式の解説等もありませんが、感染病とはどういう性格のものか、などの基礎的知識を得るにはいい本ですね。
そこには、解析の基礎になることとして、以下の解説があります。

1)基礎になるデータの信頼度
2)モデルのパラメターを決めるプロセス
3)結果の考察と予測

このうち、今回の勉強会の話は2)についてのお話だったということです。

主催者の小出さんのお話では、いっぱいきた質問に対して、忙しい西浦さんですが、応えていただけるとの事でした。

最後に、海外の科学者インディアナ大学の江島啓介さんが、「日本は、この分野の研究者層が少ない。西浦さんが孤軍奮闘しており、西浦さんとは異なる見解や分析している方との議論ができる環境がないのが問題だ」とおっしゃっていたのが印象的でした。
コオーディネーターも「これから、幅広い分野の科学者とジャーナリストがお互いに意見交換できる発端になればいいな」と言われました。

それとここでは述べませんでしたが、「専門家委員会の位置づけについて、いささか危惧を感じています。
施策を立てるのは、政治の責任で、科学者は、科学的知見を述べるのが任務であることを、明確にしたほうがいいように思います。記者会見などを見ていると、「専門家の意見に従って・・・」などという発言が多く、そこが明確に区別されていません。
科学的知見に対して、社会的経済的リスクとの兼ね合いで、どういう施策を取るかの責任政治家の責任なのですが、なにか、科学者に押し付けているような気がします。これは放射線の生体影響についての混乱した状況の中で、科学者が矢面に立たされたために、いろいろな混乱を引き起こしたことが大きな禍根を残し、ひいては科学への信頼の失墜を招きました。

国際的にも、UNSCEARが科学的知見を纏める、そしてICRPが政策への提言に関わる知見を纏める、という役割分担が明確にできていなかったきらいがあります。特に日本では、UNSCEARとICRPのメンバーがほぼ同じなので、科学的知見と施策への橋渡しが明確に区別されなくなってしまいました。そして科学者がいつも市民の前面に出て、まるで政策を決定しているかのような印象を与え、政治責任がぼやかされてしまったという気がします。

そのあたりの、明確な役割分担については、我々も、ERPRW(European Radiological Protection Research Week)のシンポジウムに参加し、意見を発表させていただきました。
今回はしっかりしたエビデンスを基礎に予測が、政策決定への科学的基礎になっていることは、とても心強く、意見が文レンツしていないで、同じ方向を向いていることをとても心強く思っています。

科学的知見は、価値観や政治的配慮とは独立なものだと思います。 今後、掲載や社会政策との兼ね合いが、重要な課題となってくると思われますが、こうした背景の中で、科学的知見が曲げられたり誤解されたりしないよう、くれぐれも、お気をつけていただきたいと希望しております。