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東日本大震災にまつわる科学 ー 第2回公開講演討論会

テーマ:地震国日本のこれから ~2011年東北地方太平洋沖地震の近畿地方への影響は~

日 時:2011年8月7日(日) 13時30分〜16時30分

場 所:京都大学理学部セミナーハウス

プログラム:

【第1部 講演】(13:30~15:10)

13:30~13:40 開催挨拶
          松田卓也(基礎科学研究所副所長・あいんしゅたいん副理事長)

13:40~15:10 「東北地方太平洋沖地震は東海・東南海・南海大地震を誘発するか?」
          竹本修三(基礎科学研究所主管・京都大学名誉教授 固体地球物理学・測地学)

【休憩】(15:10~15:30)

【第2部 パネル討論及び質疑・応答】(15:30~16:30) 司会:松田卓也

パネリスト:佐藤文隆(NPO法人あいんしゅたいん名誉会長)
      竹本修三
      坂東昌子(基礎科学研究所所長・NPO法人あいんしゅたいん理事長) 

 

申 込:申込不要(どなたでもご参加いただけます)

主 催:基礎科学研究所(NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん附置機関)
後 援:日本物理学会京都支部・京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー・科学カフェ京都

2011年3月11日の、東北関東大震災(東北地方太平洋沖地震)は、海側の太平洋プレートが陸域プレートに押し寄せて起こりました。その後、余震がまだ続いています。今、沢山の疑問があります。

1)この地震、そして津波は、本当に「想定外」だったのでしょうか?
2)東北地方太平洋沖地震は東海・東南海・南海大地震を誘発するのでしょうか?
3)近畿地方の活断層がいつ活動するか、学問レベルで予測できるのでしょうか?
4)若狭湾の原発に事故が起これば、どうなるのでしょうか?

このシリーズでは、正しい判断ができるための材料を提供し、できるだけ客観的に現状を理解する場にしたいと考えています。どなたでも遠慮なくご参加下さい。そして、質問や議論をして、理解を深めましょう。

あいんしゅたいん情報発信グループ

1)東北・関東大震災は東海・東南海・南海大震災を誘発するか?

今回の東北関東大震災(東北地方太平洋沖地震)は、海側の太平洋プレートが陸域プレートに押し寄せて起こった。東海・東南海・南海巨大地震はフィリピン海プレートが陸域プレートに押し寄せて起こる。両者は共に海溝型地震であるが別物である。
しかし、500km×200kmという広範な領域の地殻ひずみが一度に開放されたため、周辺の地殻ひずみ場も影響を受ける。3月12日03時59分に長野県北部でM=6.7、3月15日22時31分に静岡県東部でM=6.4の内陸地震が起こった。静岡県東部地震は富士山の真下であり、富士山のほか、箱根山、焼岳などの火山周辺でも地震活動が活発になった。
2004年のスマトラ沖大地震の後、数カ月たってからインドネシアの火山活動が活発化したことがあり、今後も周辺の地殻活動を注意深く見守ることが必要である。東海・東南海・南海地域もまったく無関係とは言いきれない。
今回の東北地方太平洋沖地震のモデルケースと言われている869年の貞観地震(M≒8.3)の18年後の887年に南海トラフ沿いの巨大地震(M 8.0~8.5)が起こり、五畿・七道では京都で民家・官舎の倒潰多く、圧死多数。津波が沿岸を襲い、溺死多数。とくに摂津で津波の被害が大きかったという(理科年表)。

2)東南海・南海地震の津波・液状化の影響

今回の震災では津波の被害が甚大であった。もし、大阪湾に10mを超える津波が押し寄せてくると、標高が10mほどしかない伏見区、宇治市、久御山町にまたがる巨椋池干拓地のあたりまで、津波の被害を心配しなければならないかも知れない。講演会場である理学部セミナーハウスは標高60mだから、ここまで津波が押し寄せることはないであろう。
津波よりも深刻なのは、液状化の影響である。桂川、宇治川、木津川の三川合流部などの柔らかい砂層が厚みをもって堆積している地域は、海溝型地震や内陸の直下型地震で震度6以上の揺れに見舞われると液状化の被害を受けると考えられる。淀をはじめ、池、沼などの水に関係する地名をもつ地域は、もともと河川敷や沼沢地を埋め立てたところが多いので要注意である。

3)近畿地方の直下型地震

地殻を構成する岩石は、ひずみの蓄積が10-4程度、すなわち、1.0000mの長さの石柱を両端から押していって0.9999mまで縮むと破壊してしまう。
最近100年間(1996年4月~1999年12月)の地殻変動図(国土地理院)によれば、近畿地方は年間10-7の割合でほぼ東西方向に縮んでいる。この割合でひずみが溜まると1000年で(10-7×103=)10-4のひずみに達する。従って近畿地方の同じ場所で岩石破壊(地震)が起こる繰り返し間隔はざっと1000年のオーダー。
近畿地方の活断層トレンチ調査の結果によれば、直下型の内陸地震と結びつく活断層は、1000~10000年の間隔で活動を繰り返している。この繰り返し間隔から、最近500年以内に動いた活断層が今後100年以内に動く可能性は低いと考えられる。
これらを除いて、京都府南部に影響を及ぼす要注意の活断層としては、花折断層帯南部、京都西山断層帯、奈良盆地東縁断層帯などがある。いずれかの断層系が動けば京都市でも多大の被害が生じるであろうが、これらの活断層がいつ活動するかは現在の学問レベルで予測できない。
ただ、今回の2011年東北地方太平洋沖地震(M=9.0)の際に、震源域では地殻が東方に約30m移動した。この地震の影響は近畿地方にも及んでいる。近畿地方は東西から押されて年間10-7の割合で縮んでいたものが、今回の地震で東に引っ張られて東西に伸びた。これにより、近畿地方のひずみの蓄積が少し解消されたことになる。
いずれやってくる直下型地震に備えて、各自耐震対策を真剣に考えなくてはならないが、若干の時間的余裕を与えられたような気がする。

4)地震と原発

今回の大震災で津波の被害とともに福島第一原子力発電所の事故が大きな社会不安を生んだ。
日本政府は福島第一原発から30km以内を規制地域に指定したが、アメリカ合衆国政府は、自国民に福島第一原発から50マイル(80km)以内から退去するよう指示した。
関西地域では若狭湾に原子力発電所が集中しているが、関西電力の大飯・高浜原子力発電所から半径80kmの円を描けば京都市はすっぽりこの範囲に入ってしまう。もちろん近畿の水がめである琵琶湖もこのなかに入る。若狭湾の原発に事故が起これば、大変なことになる。
われられは、市民として電力会社の危機管理体制がどうなっているかを知る必要がある。
このほか、東京で7名の死者が出ているが、このうち2名は、江東区の金属加工会社工場で地震の揺れで化学薬品トリクロロエチレンを含んだガスが充満し、吸い込んだ男性従業員2人が亡くなったという。このような化学薬品が身近な町工場で何気なく使われているとすると、その管理がどうなっているかということをもっと気にしなければならないだろう。

 

講演者紹介

竹本修三(Takemoto Shuzo)氏略歴:

1942年埼玉県秩父市生まれ。京都大学理学部卒。理学博士。京大防災研究所助手、京大理学部助教授、京大大学院理学研究科教授を経て、2006年に定年退官。その後、(財)国際高等研究所フェロー・招聘研究員を経て、2011年 4月よりNPO法人知的人材ネットワークあいんしゅたいん附置機関基礎科学研究所研究主管。専門は、固体地球物理学・測地学。
その間、国内においては日本学術会議測地学研究連絡委員会委員長、日本測地学会会長、地震予知連絡会委員、 国立天文台運営協議員・運営会議委員など、国外においては、国際測地学協会(IAG)第Ⅴ委員会(地球潮汐委員会)委員長、国際重力局(BGI)理事、国際地球潮汐センター(ICET)理事などを歴任。
著書にはレーザホログラフィと地震予知 (共立出版, 1987)、LASER HOLOGRAPHY IN GEOPHYSICS(編・著)(Ellis Horwood Ltd. Chichester, UK,1989)、京都大学講義「偏見・差別・人権」を問い直す(編・著)(京都大学学術出版会,2007)などがある。

   
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