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2012年に人類文明は滅亡するか?その3 技術的特異点とテレンス・マッケナ

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本稿では技術的特異点に関してテレンス・マッケナなどの説を解説する。

2012年人類滅亡説と黙示録(もくしろく)

2012年12月21-23日頃に人類が滅亡するとか、大きな災害に見舞われる、あるいは人類が全く別の形態に変わってしまうなどという説がある。これを2012年人類滅亡説と呼ぶことにしよう。マヤのカレンダーのある周期が終わって、新しい周期に移り変わる時がこの日だというのだ。その原因としては様々な天体現象が挙げられている。

しかしまともな科学者でこれを本気にする者はいない。でもアメリカなどでは本気にする人もいてNASAがそれに対する反論をしたという話もある。NASAのホームページはここを参照のこと。 

科学的に見てこの話は荒唐無稽なのであるが、思想的に見てなかなか面白い問題を含んでいる。この世に終末があるという考え方は、キリスト教などの一神教に起源があるようだ。新約聖書の最後にヨハネの黙示録(Apocalypsis Johannis)と呼ばれる文章がある。これはしばしばアポカリプスとも呼ばれ、英語では「revelation」という。

 

文中では著者「ヨハネ」が、終末において起こるであろう出来事の幻を見たと語る。この中で人類に降りかかるであろう様々な厄災が語られている。またここでは人類最終戦争としてのハルマゲドンも語られている。

ヨハネの黙示録に関しては様々な議論があり、その解釈も一つではない。しかし終末論が好きな疑似科学者たちがそこに付け込むのである。終末思想は一神教に特徴的な考え方である。科学的に根拠のある話ではない。 

技術的黙示録(TechnoCalyps)

私はこの問題を研究していくうちに面白いビデオに出くわした。技術的黙示録(TechnoCalyps: テクノカリプス)という番組である。テクノカリプスとは、技術(テクノロジー)と黙示録(アポカリプス)を合わせた造語である。三時間ものドキュメンタリー番組でYouTubeではそれぞれ50分の3部に分かれていると言う長大な番組である。それも全て英語である。ベルギー人の映像作家であるフランク・テイス(Frank Theys)によって作られた。

最近の遺伝子工学、ロボット工学、人工知能、ナノテクノロジーの進歩は毎日、雑誌や新聞を賑わしているが 、その共通の目的に対する分析はあまりない。つまりそれは人間の限界を超える存在を作ると言うものだ。監督はこの問題を科学的、倫理的、形而上学的な観点からいろんな専門家にインタビューをした。第一部は生物学的、遺伝子工学的な観点、第二部はロボット工学、人工知能の観点から問題を追求している。私が特に関心があったのは第二部である。

テレンス・マッケナとタイムウエーブ・ゼロ理論

その番組の中でいろんな科学者、思想家が意見を述べているが、特に私の注意を引いたのはテレンス・マッケナという人であった。彼は学者というよりは思想家、また幻覚をもたらす植物とか幻覚剤、LSD(つまりドラッグ)の専門家である。一時期アメリカでカウンターカルチャーとかニューサイエンスというものが流行ったが、その教祖のような人物である。

私はテレンス・マッケナの思想に惹かれたのではなく、その話方に惹かれたのだ。私はプレゼンテーション理論の研究をしているが、優れたプレゼンターの中でもマッケナのような話し方をする人は少ない。その話し方は、宗教的指導者つまりグルの話し方である。ゆっくりと大きく揺れるように抑揚をつけてしゃべる。そこから不思議なオーラが漂うので、不思議と引き込まれてしまうのである。マッケナは2000年に亡くなったのだが、彼のスピーチや講演の映像がたくさん残されている。マッケナの信奉者が多いからであろう。彼は宗教の教祖ではないのだが、もしそうなろうと思えばなれた人物だと思う。そのマッケナとその他の人々が技術的特異点について語っているのがこのビデオである。

このビデオではマッケナとグレゴリー・ストック(Gregory Stock)が、非常に近い将来に特異点と呼ばれる大きな変化が起こるであろうことについて語っている。この変化は技術の無限の進歩の帰結として起きる。一度特異点が起きると無限の成長が達成され、非常に短い時間の間に我々は、全く新しい存在として、新時代の第一歩を踏み出すであろうという。それで我々は超知性になり、全宇宙 を覆い尽くす、あるいは他の次元にまで進出するかもしれない。あるいは全く他の存在になるかもしれないという。

マッケナは技術的特異点の起きる時が、 2012年12月21日であると言うのだ。その根拠は彼が発明したタイムウエーブ・ゼロ(Timewave zero)という理論に基づいている。その理論は古代中国の易経と、現代のフラクタル理論に基づいているという。

タイムウエーブ・ゼロとは数秘学的な理論であり、マッケナが宇宙の組織的な複雑性やその相関関係を規定する、新規性(ノベルティ)と呼ぶ量の時間的変化を表す公式である。マッケナによれば宇宙の時間の流れの中に、目的論的な集積点があり、それをオメガ点、特異点と呼ぶのだ。特異点では無限の複雑性を持ち、その点においては、想像しうるあらゆることが同時に起こるとされている。マッケナはこの特異点が2012年に起きるというのだ。彼はこのアイデアを1970年代に幻覚剤を服用しているときに得たと言う。

彼の作ったコンピュータープログラムは横軸に時間を取り、縦軸に新規性の値をとる(ただし下ほど新規性が大きい)。これをタイムウエーブと呼ぶ。その値は複雑に変化するのだが、その形はフラクタル性を持ち、どんなに小さな部分を見ても、大きな部分と同様な形をしている。そのグラフが大きく下がる点がパラダイムシフトだというのだ。実際、歴史上の重要な事件と合っていると主張する。最も特筆すべきことは、そのグラフの値が2012年12月21日で0になっているということだ。
つまり2012年12月に技術的特異点に達するというのだ。

以上の説明からわかるようにタイムウェーブ・ ゼロ理論というのは甚だ怪しげな、胡散臭いものである。しかしマッケナの話を聞いていると、なかなか説得力があるように聞こえる。しかし筆者は2012年に技術的特異点が起きるとは思わないから、もしマッケナが今まで生きていれば、恥をかくであろうと思う。それはともかく技術の加速的進歩という概念は他の論者にも共通した点である。

ロバート・アントン・ウイルソンとジャンピング・ジーザス現象

テクノカリプスの中でロバート・アントン・ウィルソンと言うアメリカの神秘思想家で小説家である人物がジャンピング・ジーザス現象と彼が名付けた現象について語っている。それは知識が倍増する期間が時間と共にどんどん短くなっていく現象である。 

西暦1年に知られていた科学的事実を1ジーザスと定義しよう。1ジーザスに達するのにどのぐらいの時間がかかったか。それは定義にもよるが、四万年から十万年ぐらいだとしよう。人類の知識が2ジーザスになるにはあと1500年が必要であった。つまり西暦1500年には2ジーザスになった。さらにそれが倍増するためには250年必要であった。だから1750年には4ジーザスになっていた。次の倍増は150年で、1900年には8ジーザスになったた。次の倍増期間は50年で1950年には16 ジーザスになった。次の倍増は10年で1960年には32ジーザスになった。次の倍増は7年で1967年は64ジーザス、さらに1973年には128ジーザス、1978-1979年には256ジーザス、1982年には256ジーザスになった。このようにどんどん短い時間で知識が倍増していくので、未来のある時点で知識が爆発的に増大する。技術的特異点である。

この時間の加速に関してはマッケナがYouTubeで次のように語っている。

本稿で紹介した論者は科学者というよりは思想家であり、私がその議論を100パーセント納得している訳ではない。続編でレイ・カーツワイルやフューゴ・ガリスなど人工知能研究者のもっとシリアスな議論を紹介したい。特に後者は魅力的な恐るべきマッドサイエンティストである。

続く

   
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