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微生物負荷と老化

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微生物負荷とはマイクロービアル・バードンの訳語である。つまり微生物の重荷ということだ。もっと具体的に言えば老化は細菌のせいであるという説だ。

私は2021年の現在78歳の後期高齢者である。以前に比べていろいろと老化したと感じている。自分の周りをみても母は92歳で亡くなった。そのしばらく前から認知症を患っていた。母の世話をしていた私の妹は大変だったと思う。現在は私の家内の母が96歳で施設に入っているが、やはり認知症を患っている。これらの例を見ていると、昨今は平均余命が伸びたのは良いのだが、身体に障害が出たり、認知症を患ったりするとまわりが大変だ。理想はいわゆるピンピンコロリであろう。

それではピンピンコロリ、つまり死ぬまで肉体的にも精神的にも健康でいるためにはどうすればよいだろうか。これが私の現在の大きな関心事である。ある老年学の大家の本を読んでいると、こんな例が出てきた。105歳の女性と知り合った。その女性の便を採集して腸内細菌つまりマイクロバイオームを調べたところ、30台の人間のマイクロバイオームと同じであった。つまりマイクロバイオームが、人間の老化を決めるのではないだろうか。

この話を知人にしたら、その人のお母さんは95歳で、一人で元気に生活しているという。認知症も患っていない。私のマイクロバイオームと老化の話を聞いてその知人は納得した。実はお母さんは野菜ばかり食べているそうだ。野菜中心の食事をすることが元気で長生きして、最後はピンピンコロリで亡くなる秘訣なのではないだろうか。

私は老化の原因を求めて「微生物負荷 老化の主原因と年齢に関連した病気、およびそれと戦うには何ができるか」という本を読んだ。著者はマイケル・ルストガルテンという比較的若い研究者だ。YouTubeで彼に対するインタビュー動画を2本見て、講演も聞いた。それで大いに感動してアメリカのアマゾンで本を買ったわけだ。

ルストガルテンは老化に関するある仮説を提唱しているのだが、それを確かめるために自分で人体実験しているのである。彼の説のポイントは微生物負荷つまり人間の体内に入った細菌が老化を決めるというものだ。それに対抗するには、第一に細菌を体内に入れないこと、第二に体内に入った細菌を殺すことである。

細菌はどこから体内に入るか。一番大きい部分は腸壁である。そのほかにも歯茎とか皮膚がある。ここでは一番重要な腸について述べよう。腸内細菌は人体に住み着く細菌の99%もあるからだ。細菌が腸壁を通して体内に入らないためには、腸壁の穴を塞ぐことが重要だ。腸壁に穴が開く現象をリーキーガットという。リーキーガットとはもれやすい腸という意味だ。つまりリーキーガットを防ぐことが老化防止につながるというのだ。

リーキーガットになる原因はストレスとか色々ある。そのなかで重要なものにディスバイオシスがある。ディスバイオシスとは腸内細菌のバランスが取れていない状態である。ディスバイオシスを防ぐには食物繊維を大量に取る必要がある。

ルストガルテンの徹底しているところは、食物繊維やさまざまなビタミン類を含む食物を自分で料理して食べ、かつ毎日自分の血液検査をしてバイオマーカーを測定しているのだ。血圧とか血糖値、ビタミンの量などである。それは実に徹底している。どのような食事をしているかは後で述べるが、普通そこまでするか? というほどの徹底的な研究態度だ。

本の題の微生物負荷であるが聞き慣れない言葉である。人間の老化は人間の体内に入り込んだ微生物、とくに細菌に原因があるという彼の仮説だ。それでは体内に細菌が入り込むとどうなるか。免疫システムが働き、その細菌を殺そうとする。すると炎症が起きる。細菌が常に入り込んでくると、常に体内で微小な炎症が続く。これを慢性炎症と呼ぶ。

炎症とは何か。我々に馴染みの炎症は急性の炎症だ。例えば指を切って傷をしたとする。するとそこが腫れて赤くなったり、熱を持ったりする。これが炎症だ。炎症が起きるのは免疫があるからだ。免疫が起こす炎症は体を外敵から守るために必要な機能だ。

ところが体内で慢性の微小な炎症が続くと、これが老化の原因となるという。つまり本来は人間を守る働きをする免疫が、逆に人間を傷つけるのだ。それを炎症老化(インフラメージング)とよぶ。慢性炎症が老化の原因の一つであるという考えは、近年有力になってきている。その慢性炎症の原因が体内に入り込んだ細菌のせいであるというのは、ルストガルテンの説であり、定説ではないようだ。細菌自体でなくても、その作り出した物質が体内に入り込むだけでも炎症は生じる。

先に述べたように、体内に細菌やその作り出した物質を血液に入れないためには、リーキーガットを防ぐ必要がある。そのためには良い腸内細菌をふやし、悪い腸内細菌を減らす必要がある。そのためには良い腸内細菌の餌になる食物繊維をたくさん取る必要がある。

体内に入り込んだ細菌を殺すにはLL37という抗菌性ペプチドが有効だ。これを作り出すにも食物繊維が役に立つ。

普通推奨される食物繊維量は一日に30グラム程度であるが、欧米人も日本人も平均15グラム以下しか取っていない。これは先進国の食事ではほとんどそうだ。ところがアフリカやアマゾンの狩猟採集民は一日150グラムもの食物繊維を取っている。彼らには肥満、糖尿病、心臓病、脳卒中、ガンといった慢性病はない。

そこでルストガルテンはなんと一日平均105グラムもの食物繊維を取るのだ。驚異的な量だ。サプリメントを使えば、これだけの量の食物繊維を取ることも不可能ではないだろうが、ルストガルテンは自然食主義者、つまりサプリメントはできるだけ避けるという主義なので、大変だろうと思った。菊芋というのがあり、これはイヌリンという水溶性食物繊維とフラクトオリゴ糖をたくさん含んでいる。ちなみにフラクトオリゴ糖はイヌリンの分子構造の小さなもの、つまりイヌリンの小型版みたいなものである。フラクトオリゴ糖も腸内細菌の良い餌になる。

つまり菊芋を食べると食事から100グラムもの食物繊維を取ることは可能なようだ。残念ながら菊芋は日本のスーパーではあまり売っていない。でも家庭菜園で作る人は増えているという。私はイヌリンのサプリを飲んでいるのだが、この話は別の機会にしよう。

食物繊維だけではない。ルストガルテンはビタミンK1も重要だという。ビタミンK1の公的な推奨量は90-120マイクログラムである。しかしルストガルテンは平均1431マイクログラムのビタミンK1を取っている。ほうれん草やパセリ、ブロッコリなどからである。ちなみに納豆はビタミンK2の宝庫である。1パックで240マイクログラムものビタミンK2を含んでいる。

ビタミンDも老化を防ぐには重要だ。ビタミンDの話は別にしたいが、ルストガルテンはビタミンDに関してはそれほど大げさではない。夏は主として太陽を浴びることでビタミンDを得て、冬の間だけサプルメントに頼るという。それも1000国際単位とほどほどの量だ。

まとめると、老化は体内に入りこんだ細菌による慢性炎症のせいだというルストガルテンの説を紹介した。細菌を体内つまり血液に入れないことが老化を遅らせるというのだ。そのために、大量の食物繊維とビタミンK1を取るという食生活を紹介した。ルストガルテンの老化の説が正しくても、正しくなくても、大量の食物繊維を取る生活は健康に良いことだけは確かだ。

Lustgartenの著書:Microbial Burden: A Major Cause Of Aging And Age-Related Disease

 

<CONQUER AGING Ep4 - Microbial Burden & Hallmarks of Aging | Dr Michael Lustgarten Interview Series>

   
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